去る6月16日(金)〜18日(日)の3日間、こうべまちづくり会館で開催されたイベント「Beyond the Coworking これからのコワーキングを神戸で考える 〜コワーキングと◯◯を掛け算しよう〜」のリポートその3本目です。各セッションごとに、6本の記事にして公開します。
各リポートの後半にYouTubeの動画がありますので、ぜひご覧ください。
※各セッションのリポートはこちらです。
セッション(1)「育」子育てとコワーキング
セッション(2)「学」学びとコワーキング
セッション(3)「働」起業とコワーキング
セッション(4)「創」クリエイティビティとコワーキング
セッション(5)「旅」移働とコワーキング
セッション(6)「食」食とコワーキング
なお、このイベントの概要については、セッション(1)「育」子育てとコワーキングのリポートを参照ください。
各セッションは、概ね以下のようなタイムテーブルで進めました。
1)まず伊藤がセッションの目的など説明
2)次に、プレゼンターがひとり20分ずつプレゼン
3)次に、プレゼンター2人と伊藤でパネルディスカッションしつつ質疑応答
4)次に、ここまでの話を受けて、参加者全員で約20分のプチ・フューチャーセッション
5)最後にブレストの内容をそれぞれ発表し、そこで得た知見やアイデアを共有
これをだいたい、1セッション90分で行いました。
●セッション(3)「働」起業とコワーキング
日本でもコワーキングスペースを事業のスタート地点として選ぶ起業家が増えてきて、すでにコワーキングと起業は切っても切れない関係にあります。ただそれは、単にオフィスコストを安くあげるためだけではなく、セミナーやワークショップでビジネスプランをブラッシュアップしたり、起業パートナーを得る格好の場にするなど、文字通りインキュベート的な役割も担っているのが現実です。
では、どういう形でコワーキングが起業・創業に貢献しているのか、その前提は何か、どういう人たちが巣立っているのか、そのへんを地域にしっかりコミットしているコワーキング運営者であるおふたりからお話しいただきました。
岡 浩平(おか こうへい)氏
コワーキングスペース秘密基地 副代表
「福業」により自分らしく働きながら、お互いに支えあい、未来へとつながる社会を創造を目指している。実際家。官でも民でもない「新しいパブリック」の領域に多くの仕事があり他業種・行政などと共に共通価値を創造しながら、まちづくりや創業支援などを行っている。これからやってくる新しい社会では、ワーカーからプレイヤーとなり様々な人材が活躍できる場が必要となる。個性を活用し、仕事の能率化させ、豊かさを生み出す。そのためにコミュニティーの概念をもった働き方「コワーキング」はこれからさらにその必要性を増していくと考え活動している。
■プレゼンテーション・サマリー
・小倉のコワーキング「秘密基地」は地下にライブハウス、1階に居酒屋、2階にカラオケのあるビルの3階にある約100坪のコワーキングスペースで、もともと建築畑の兄弟が起ち上げた。
・「秘密基地」では、IT系ばかりではなく多様なワーカーが集うのでいろんな視座でものを見ることができる。保育士から書家で起業した人や、元NHKアナウンサーで北九州市からを受託しているイベントディレクター、大企業社員から転身してコワーキングスペースをオープンした人など。また、公共空間リソース利活用勉強会を開催して公共空間の有効活用に取り組んだり、日本に興味のある海外の人をつなぐコミュニティづくりをしたりしている。
・本当に必要なことはこの世界に必要なことをやることだと考えている。そして、幸せとは心から夢中になって社会の役割を担えることであり、純粋に人と人として信頼関係で結ばれ、そして信じて託すことである。
・多様性の中でお互いにどうWIN-WIN関係が築けるかを考えながらやってきたら、我々が生み出せるものがパブリックに資するものになってきた。最初はそれが見えていなかったが、やっているうちに新しいパブリックが見えてきた。
・これまでの競争する社会(資本主義社会)からそれぞれの幸せを実現(創発社会)へ、かつての奪い合う社会から創発、創る社会へ移行しつつある。パイを6等分しても均等に分けられなかったり、どうかするとひとつも手に入らなかったりする。そうではなくて、これからはそれぞれが材料を持ち寄って新しくパイを創る。同じ商店街の中で同業者が客を奪い合うのではなく、今まで商店街に来ていなかった人たちをどうやって呼ぶのかを考える。
・我々はコワーキングを通じて新しい場を作り、新しい価値を産んでいる。これまでは地域の盟主がまちづくりを主導してきたが、バブルが崩壊し、盟主のいない失われた20年があり、いまは行政も限界を迎え、どうしていいのかわからない状況だ。好景気の時代は各自が部分的なところだけをやっていればよかったが、いまは、部分的なところだけでは解決できない複雑な時代になっている。
・人生を賭けて、自分の命を賭けてやる意味が感じられるか、生きる意義を感じられるか、それが働くということの根幹であると考える。社会の一員として自分というものは存在している。
・いままでは全科目で100点を取るような教育を受けてきた。すると、結果的に全部60点の人材になる。この人たちが何人集まっても60点でしかない。コミュニティの中で考えると、それぞれに尖った専門の分野があり、苦手な分野があってもそこを支えてくれる仲間がいると、100点のレーダーチャートになる。同じ業界の人が集まっても同じ視座で物を考えるし小さなレーダーチャートになる。
・コワーキングを通じて様々な業種の方と関わると大きな成果が出せる。集まってきた人それぞれにどんな特徴があるのか見出してあげないといけない。それぞれの力を見出してベクトルを揃えると、そういう人たちでパブリックに資する活動になっていく。
・必要な資本は必ずしもお金ではなく、人間関係(ソーシャル・キャピタル)で解決できる資本もある。その結果、新しい価値が生まれてくる。その価値をまたコワーキングという場に戻していくことで、次々と新しい価値が生まれる。
・北九州をぐっと盛り上げる会は、北九州のいいところだけを写真に撮ってFacebookに公開する活動で、20,000いいねを獲得している。北九州フードフェスティバルでは、店舗数60店舗、毎年3万5,000人集めている。北九州検定は、本当に北九州が好きな人によるローカルの観光案内を志向している。北九ウーマンプロジェクトは、北九州で活躍する女性の情報を発信するメディア。
・人の領域に一歩踏み込むことで実現することがある。共通の価値「公」を高めていく、それが結果として私の成功・成長につながっていく。
稲見 益輔(いなみ やすすけ)氏
税理士法人中央会計社員税理士・松山オフィス代表
株式会社FirstStep取締役・松山オフィス代表
コワーキングスペース「マツヤマンスペース」主宰者
会計コンサルタント・税理士業務の他、これまで200社以上の起業支援実績。2015年7月からは愛媛県松山市にて、コワーキングスペース「マツヤマンスペース」の運営、中央会計・FirstStepの松山オフィスの運営を行う。StartupWeekend愛媛の運営(起業体験イベント)、愛媛IT飲み会の運営(IT企業が集まる飲み会)、WORK SELECT(働き方に関するイベント)など、起業や働き方に関するイベントを開催中。
■プレゼンテーション・サマリー
・「マツヤマンスペース」の運営以外に、税理士法人と起業支援会社で勤務している税理士でもある。「マツヤマンスペース」はメンバー32名、設立して1年10ヶ月。元々、新居浜の出身でそろそろ愛媛に帰ろうと思っていたところ支店開設となった。街を盛り上げていくにはコワーキングスペースが必要と思っていたので、併せて開業となった。実は松山にはコワーキングで働くという文化はあまりなかった。
・起業とは新しい事業を起こすこと。コワーキングとして、効率的に作業できる場所としての価値だけでは起業は盛り上がらない。相互に仕事を受発注したとしても非常に狭い世界の中の話。そうではなく、共に働くコワーキングで提供できる最も重要な価値は、知の共有である。
・月に10回ぐらいのイベント開催している。定員10〜12名ぐらいで、昨年は1500名以上が参加した。テーマは、参加者のレベルに応じて段階的に実施している。起業カフェは、一番最初のステップであり、事業はやりたいがまだ一歩踏み出していない人が集まってブレストするイベントだ。
・起業する人というのは誰かの課題を解決してそこから対価を得ることができる人、なんらかの職能がある人だ。誰しも他の人より秀でた何かを持っている。そういう方々が集って自分の事業の相談をしている、それに対して全員でブレストする。ひとりで悩んでるより、いろんな専門家の中で一気に相談して解決できる。
・スタートアップ・ウィークエンド愛媛は、世界の700都市以上で開催されているイベントの愛媛版で、これまでに4回開催し、そこから起業した人もいる。
・各分野のプロが厳選した本の読むべきページに付箋を貼ってスペースに献本していて、これも知の共有である。Meet & Shareは、ひとりで働いている人たちが共通の課題を解決する情報交換会、WORKSELECTはこれからの起業、複業、リモートワークなどについて情報交換会だ。その他、経理もくもく会、経理税金相談会など、面倒な経理関係の仕事をみんなで一緒にやるイベントも行っている。
・メンバーは会場費をかけずに自由にイベントを開催できる。さらに知の共有が進む。
ノート
起業というと得てして自分ひとりですべてを抱え込みがちです。そうではなくて各自の能力を寄せ合ってなにかコトを成し遂げるという考え方は、コワーキングの本質そのものであり、同時に、これからの社会が共同体として体をなしていく上には必要不可欠の発想です。言い換えると、コワーキングとは社会の縮図が毎日繰り広げられている場でもあるわけです。
「秘密基地」さんの掲げる「街はチームだ!」というスローガンは、コワーキングが本来的に備えている思想であると言ってもかまわないと考えます。全部60点の人が集まっても60点だが、なにかひとつだけでも100点の人がたくさん集まると、その組織は全部100点で強くなるというお話には納得です。
そしてそこには、必ず知の共有があります。さらに、他と連携することでその価値は増していきます。そうすることで、これまで解決できなかった課題も解決できる、それがパブリックに資することにつながるというのは、まさにシェアリングエコノミーの理想とするところです。パイを奪い合うのはもうやめて、みんなでパイを作ろう。この精神を実践できる場、それがコワーキングです。
●動画で見るセッション(3)「働」起業とコワーキング
当日、YouTubeのライブストリーミング機能を利用してネットで生配信しましたので、こちらに掲載します。なお、ビデオは配信したときのままで編集していないことをあらかじめご了承ください。
ただし、各プレゼンターの話し始める時間、およびパネルディスカッションの始まる時間は、それぞれ記載しています。また、パネルディスカッションのあと、グループごとにフューチャーセッションに入る時間帯もそのまま動画に収められていますが、定点カメラでの撮影を全く意識していない映像が続くので(それはそれで面白いのですが)、適宜、そのあとのグループ発表の時間にスキップしてください。
動画:Beyond the Coworking これからのコワーキングを神戸で考える「起業とコワーキング」
【タイムテーブル】
伊藤イントロ(4分11秒〜)
岡 浩平氏(8分56秒〜)
稲見 益輔氏(33分24秒〜)
パネルディスカッション(53分20秒〜)
プチ・フューチャーセッションのグループ発表
課題「起業のためのコワーキングとはどういうものであってほしいか?」(1時間45分08秒〜)
※各セッションのリポートはそれぞれ下記のページです。
セッション(1)「育」子育てとコワーキング
セッション(2)「学」学びとコワーキング
セッション(3)「働」起業とコワーキング
セッション(4)「創」クリエイティビティとコワーキング
セッション(5)「旅」移働とコワーキング
セッション(6)「食」食とコワーキング
