地域貢献の想いから始まったコワーキング「BANANA CLUSTER」(千葉県松戸市)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その32回目は、千葉県松戸市の「BANANA CLUSTER」さんにおじゃまし、運営者である株式会社プロレイヤの代表である森田浩之さんにお話を伺いました。
(取材・テキスト / 伊藤富雄 取材日:2016年9月20日)

BANANA CLUSTER
〒270-0034
千葉県松戸市新松戸4-37 野沢天祐堂第2ビル5F
TEL.047-711-8993

東日本大震災で気がついた、働く場所と地域との関わり

東日本の多くのコワーキングの例にもれず、「BANANA CLUSTER」の起点もまた東日本大震災だ。

森田さんは元々、SEとしてのキャリアが長く、今も大手半導体製造メーカーで運用されている半導体検査装置の制御システムや多変量解析システムの開発プロジェクトに携わっている。「ものが特殊で汎用性がないものなので、お客さんの所に行って仕事をしなければいけない」ということもあり、常駐するスタッフと内製するスタッフを分けて業務についていた。

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その日、森田さんは松戸にいたが、当時、事務所は江東区の東陽町にあり、スタッフはそこにいた。

家内とファミレスで食事した後、じゃ帰ろうかとしたらえらい揺れて。いつものやつだろうと思ってたら、道が波打っていて、立って待ってても、全然止まらなくて。
そこからですよ、スタッフに連絡したら、今から自宅に帰りますと。今考えればその判断がまずかったと思います。結局、その子達は翌日までかかって家に帰ったんです。後で冷静に考えると、松戸まで川を二つ超えなきゃいけないんですよ。
で、これ、東陽町でやる意味があるのかと、ちょっと考えまして。東京や横浜のクライアントを相手にするのに、別に松戸でもいいじゃないかと。それがきっかけで松戸に事務所を移転したんです。自分はほんとに寝に帰ってくるぐらいで、地元に対して理解がなくて。そこからですね。

あの震災は実に多くの人の人生観や生き方、価値観や働き方を変えた。とりわけ、人と人とのつながり、地域にいる人たちのつながりの大切さを感じた人は多いに違いない。

「地元になにか貢献できる事業ってできないのかな」と感じた森田さんは、ある日、YouTubeで7F(埼玉県大宮)の星野さんがコワーキングのビデオをアップしているのを発見する。

それを見ながら、コワーキングスペースというのはITに親和性が高いのかなという印象を持ちまして。だったら、他の知らない人たちと仕事をするのもいいよなと。
松戸というところでやると、「なぜ松戸」「東京でいいんじゃないの」とみんな言います、川を渡ったら東京なので。でも、住んでいるところに貢献したいという気持ちがあって、とりあえずやってみようと。で、はじめました。

その星野さんのビデオを見るまで、森田さんにはコワーキングについての知識はなかった。レンタルオフィスのイメージが強かったので、まず「コワーキングの概念から理解するのに時間がかかった」という。

ちなみに、その星野さんのビデオはYouTubeで「コワーキング、星野」で検索すると山のように出て来るが、2012年当時、彼は各地のコワーキングを訪れてインタビューし、それをビデオに収めていた。神戸のぼくのところにもお越しになったが、その時の模様は計8本のビデオでアップされている。(インタビューした中では一番長いらしい。大変申し訳ない)

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まずはイベントに出かけて顔を売ることから

そうして、「BANANA CLUSTER」は2014年1月15日にオープンした。なんと、同じ日にもう一軒オープンしていたのだそうだが、そこはもう今はない。

最初は誰も来ないですよ。入ってこられても、パソコンは置いていないんですか、ゲームをやりたかったんですけど、という感じでした。ネットカフェ扱いですよね(笑)。
地元のネットワークに入っていなかったので、自分の顔を売るために、どんどん地元のイベントに行きました。コワーキングやっている、っていちいち言わないで、こういうおっさんがいるっていう感じで回るんですよ(笑)。
そうすると知り合いがいっぱい増えてきて、松戸経済新聞を始めたりして、市役所ともつながりができたし、地元の商店街も。そこからですよね、噂は聞いていますよと、黄色い看板のお店でしょ、と一年を過ぎたぐらいから返ってくるようになりました。
利用者さんの口コミもですが、イベントに参加された方が後で来てくれたりとか。なので、イベントの効果は結構大きいかもしれないですね。

ただ、「BANANA CLUSTER」では、スペースが主体となるイベントはあえて多くしていないらしい。

うちの考え方としては、集客の時に自分主催のイベントをやると、たぶん続かないし、マンネリ化しちゃうので、とにかく人に来てもらって、むしろ「あなたもここでイベントできますよ」というところをアピールしています。

それはアリだ。ぼくも年間60本ぐらいのセミナーを開催していた時期があるが、早い段階からコワーカーに学びたいテーマの要望を聞いて、コワーカーの中から講師を見つけてカリキュラムを編成し、開催していた。言ってみれば輪番制だ。

ちなみに、「BANANA CLUSTER」ではWordPress系などで、マンツーマンでのセミナーは行われている。

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一方、月一回の親睦会はずっと実施している。人狼ゲームを使ったビジネス診断など、メンバー間で交流を図れるメニューを盛り込んでの賑やかなイベントだが、実は取材当日はその日にあたっていて、ぼくらも参加させていただいた

おりしもこの日は、東北山形・宮城・福島の「日本酒でつなぐ会Vol.3」の日でもあり、それじゃあということで千葉からもネットでつないで参加した。多少、音声と映像がずれるということもあったが、リアルタイムで違う場所にいる者がつながって語り合い、酒を酌み交わすという、実に楽しい時間を過ごさせていただいた。

余談だが、この種のパーティ形式のイベントは、コワーカーの距離をぐっと近くするいい機会だ。またそれがオンラインでのことであっても、意外と違和感なく、いやむしろ目の前にいないだけにお互いに判りやすい表現に努めるなど、気遣いが感じられてそれはそれで好ましい。この時は音声がずれにずれて困っていたら、話したいことを紙に書いて頭上に掲げた人がいて大笑いした。

日本酒といえば、「BANANA CLUSTER」ではワインもテーマに取り上げている。これも主催というよりも誘致してだが、ちゃんとソムリエがおいでになって、ワインの選び方や美味しい飲み方、どの料理にはどんなワインが合うかなど、なかなか本格的なメニューだ。これはとても人気があるそうだ。うちでもやりたい。

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仕事をつなぐ、人をつなぐ

ところで、利用者層としてはどういう方々なのだろうか。

デザイナーさん、ライターさん、漫画家さん、イラストレーターさん、クリエイターさんみたいな感じですね。漫画家さんは。ビジネス漫画ですかね。あとカードゲームの絵を描いている人とか。
このへんは家賃が安いし、東京へのアクセスもすごくいいんですけど、独身の方とか、そういう人たちは孤立しているんですね。そういう人たちが、ここがあることを知って、来てくれます。
そういう意味では、人をつなぐ接点になっています。

なるほど。やはり、コワーキングは人をつなぐハブとして機能している。そして、徐々に利用者が増えるに連れて、コワーカー同士でビジネスがはじまった。

文房具の製造販売をしている方がいまして、デザイナーさんにデザインを発注したりとか。WordPressやれる人がいるんだとわかって、そこから紹介したりとか、仕事が広がったことがあります。
プログラミングだと、本当に高度なやつはうちで引き取るのですが、PHPとか汎用性のあるものは、こういう仕事ありますよと紹介していますね。そこから、会社を作るというところまでは行っていないようですが。
でも、はじめてみると利用者同士でビジネスになったりして、結構な売り上げになっているので、それはよかったかなと思ってます。

利用者間でコラボが生まれて双方にビジネスになるのは、コワーキング運営者にとって結構な喜びだ。

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意外だったのは、ITの人がいっぱい来るかなと思っていたら、結構、ご近所のおばちゃんとか多いんですよね。それは驚きでしたね。
ここで町ゼミというイベントをやったんです。それがきっかけです。「お話ししてもいいですか?」と訪ねてこられて、窓際でおしゃべりされて。「飲食持ち込みいいの?」と訊かれるから「いいですよ」というと、いっぱいお店を広げられて(笑)。
男女比は6対4ぐらいですね。他のスペースさんに聞いても、うちは女性が多いなって思いますね。はは〜ん、女性の方が訳の分からないところに飛び込んでくるのは多いんだなって(笑)。
女の人は壁を作らないので、前から知っているような話し方をするんですよ。女性の方が社交的ですね。

そういえばうち(カフーツ)は一階なので外が見えるのだが、はじめた当初は窓から男の人が行ったり来たりしながら覗いているのをよく見た。「入ってくればいいのにな」と思ってたんだが、ついに入ってこない。ところが、女性はガチャッと開けて「ここですか!」と入ってくる。女の人は度胸がいい。

余談だがこの日、ツアーに参加して一緒に「BANANA CLUSTER」を訪ねた新妻さんは、埼玉で一軒家を借りて「Hanare ひばりヶ丘」というコワーキングを運営している。

駅から10分ほどの普通の住宅街の中にある。運営者の新妻さんもまた、IT・ウェブ系のエンジニアなのだが、地域柄、ご近所の人たちが結構利用している。1階はコワーキングスペースで仕事場として、2階は英語教室や編み物教室など、いわば公民館的使われ方が色濃い。

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仕事はもう、どこでやってもいい時代

では、そういう人をつなぐ環境が森田さん自身のお仕事にはどう作用してるのか。

本業に対してはプラスになったことはないですね。スタンス的に(ワークスペースという)サービスを提供する側なので、利用者の仕事に関わってしまうと、会員さんとの距離感というか、利用者との距離感が難しくなって、それはどうかなと。
向こうから働きかけてきたら別ですが、なるべく、こちらからグイグイと押すのは基本的にはしないようにしています。あくまでも自分の仕事とは切り離して、コワーキングスペースを運営しています。その上で、マッチングさせるのはサービスの一環としてしています。
まあ、強いてあげれば、オフショアを始めたのはコワーキングスペースがきっかけです。会員さんとのつながりからだったので。今もオフショアをベトナムでやっているんです。上流はここでやって、下流の製造はベトナムですね。

なんだ、よく聞けばいい展開ができている。しかし、ご自分の開発の仕事とコワーキングの運営と、時間的にも労力的にもダブルに負荷はかかってくる。「正直なところ、辛いですね」と森田さんは笑う。「人(スタッフ)を入れるという方法もありますけど、今はそこまでする必要ないしなと」。ということで、今は奥さんにサポートしてもらっているとのこと、そこもぼくと同じだ。

ただ、イラストレーターの方にも手伝ってもらってるのだそうで、そこもまたぼくと同じだ。ぼくがこうしてツアーに出て各地を回ってるあいだ、カフーツはうちのメンバーさんが留守番してくれている。いつも助けてもらって本当に有難い。

こういう体制がいいのか悪いのか、いろいろご意見はあろうかと思うが、そもそもぼくはうちのコワーキングを「店」とは思っていないし、利用者のコワーカーさんも「客」とも思っていない。皆で共用するワークスペースなのであって、いわばコモンズだと言ってる。助けられる人が助ける、お互いにそうする。むろん、ルールは必要だが、共用ワークスペースはそれでいいんじゃないかと思う。

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これからやりたいことはなんですか、と尋ねたら、ぼくの意図とは違う答えが返ってきた。だが、それはある意味、コワーキングに限らない、いやコワーキングをも内包する、これからの社会のあり方を、ぼくに思い起こさせた。

田舎者ですから、もう50過ぎたら、静かなところでのんびり釣りでもして暮らしたいなと思ったりしているんですよ。首都圏に集まる必要はもうないと思うんですよね。テレワークみたいな感じで、ネットで回線繋いで、やれる社会が来たんです。全然どこでやってもいいんですよね。

静かに話す森田さんは震災をきっかけにして、自分の居場所と社会との関わり方を再考した結果、いま、コワーキングを運営している。いやそれは、結果ではなくて、未来をより良いものにするための過程なのだ。

近隣のコワーキングスペースとの連携などは、今のところないけれども、「うちとしては全然ウェルカムです」と語る。そうした連携がローカルに及ぼす効果は結構大きいし、そこで果たすコワーキングの役割もまた大きい。

そう、ぼくらはコワーキングをやっているのではなくて、未来を創っているのだから。

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BANANA CLUSTER

〒270-0034
千葉県松戸市新松戸4-37 野沢天祐堂第2ビル5F
TEL.047-711-8993

・ドロップイン 500円 / 2時間 1,000円 / 日
・スタンダード 平日 9:30〜21:30 土日祝 〜17:30 月額 9,800円
・デイタイム 平日 9:30〜17:30 月額 8,300円
・モーニング 平日 9:30〜15:30 月額 5,400円
・アフタヌーン 平日 11:30〜21:30 月額 6,000円

その他、プレミアム会員プランあり

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伊藤富雄
Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など