まちづくりのノウハウが活きているコワーキング「Noblesse Oblige」(千葉県柏市)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その31回目は、千葉県柏市の「Noblesse Oblige」さんにおじゃまし、運営者である合同会社EDGE HAUSの緒方康浩さんと豊田亜美さんにお話を伺いました。
(取材・テキスト / 伊藤富雄 取材日:2016年9月19日)

Noblesse Oblige
〒277-0011
千葉県柏市東上町2-28 第一水戸屋ビル3F
TEL.04-7197-5600

ビルオーナーとのパートナーシップから生まれた

「Noblesse Oblige」は”ノブレス・オブリージュ”と読む。フランス語で「高貴なる人の責任」という意味だそうだ。当日はあいにくお目にかかれなかったが、ビルオーナーである細田さんの「自分ができることの範囲で町へ貢献しようよ」という想いが込められている。

同社は地元、柏の資源を活かしてカフェや、食や農のイベントを主に企画・運営する会社だが、その経験を活かしてコワーキングをやろうという話が進んでいた。その一方で、ここのビルオーナーには「町のクリエイターを集めて、そのスキルをもっと街に解放しよう。そのための場所を作りたい」という計画があった。その両者がタッグを組んで2013年7月にスタートしたのが、「Noblesse Oblige」だ。

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実はビルオーナーは建築家で、都市計画を専門にされているそうだ。コンセプトも含めて関わってもらっているそうで、皆でディスカッションしたりもする。そういえば、長野で最後におじゃました「CREEKS COWORKING」も建築士の方が運営に関わっておられた。そのメリットは大きい。

いろいろサポートしていただけるので有り難いです。他のコワーキングスペースでもこういったケースはあると思いますが、開業するにあたってかかった内装費用なんかはほとんどオーナーに負担していただきました。あとは機材とかデスクとか最初にかかった設備費もですね。もちろん、運営にかかる費用はすべてこちらもちですけど。

単に不動産賃貸契約に則った貸し主と借り主というドライな関係ではなくて、コワーキングを運営するために役割分担したパートナーとして双方が手を組んだ、というわけだ。実はぼくも2010年にコワーキングを開いた当初は、ビルオーナーさんとパートナー契約を結んでいた。

しかし、「Noblesse Oblige」の場合は、もう少し違う事情が働いていてそれが実に興味深い。

ここがあることで、隣のビルにもテナントさんが入居するということがあるようなのです。実は、ここのビルと隣のビル、オーナーが同じ方なんですね。隣は、オフィスビルなので企業が入居しているんですけど、ここをそのテナントさん向けにミーティング用とかに開放しているんです。そういうメリットがあるので、入居者募集にも有効だし、そこからの展開もいろいろできると。

つまり、隣のビルのテナントは、コワーキングが無料で使えたり、貸し切りや半貸し切りの時は30%オフという割り引きプランが使えるようになっている。なるほど、それは便利だ。オフィスがあるのに、なぜコワーキングを利用するのか、と思うかもしれないが、これが意外とニーズがある。

このツアーでもおじゃました熊本の「未来会議室」でも、近隣の中小企業が会議によく使われるとのことだった。会社の中にも会議室はあるのだが、たまにはいつもと違う環境でリフレッシュしたい、という要求があるからだそうだ。判る。

一方で、首都圏の会社員が利用する、いわゆるリモートワークはどうなのだろう。

肌感覚では、増えていると思います。リモートワーク制度を導入している会社も増えていると耳にしますし、実際に利用される方もちらほらと来られるので。

柏は首都圏への通勤圏内ではあるけれども、毎日の満員電車には耐えられないという人も多いはずだ。リモートワークが浸透するのは、とてもいいことだとぼくも思う。

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さまざまな仕事人をつなぐ現代版トキワ荘

いただいたパンフレットには、「現代版トキワ荘」という文字がある。ぼくらみたいな世代には、クリエイターが集まってきてワイワイやるという感じがストレートに伝わってくる。知ってます?と聞くと、「はい、実際には見たことはないですけど」と返事が返ってきた。それはぼくも、ない。

ところが、実際に漫画家の方も利用されているというから面白い。

ドロップインの会員さんで、漫画家の方が2人と、アシスタントの方が1人おられますね。イラストレーターさんとか、ストーリーを考えるようなゲームとかの制作関係の方とかも。

その他にも、利用者の職種は、例えばWebデザイナー、ライター、エンジニア(SE)、アプリ系のプログラマー、Webサイト運営、広告周りなど、と多種多様だ。ただ、IT、Web系への偏りはあまりない。勉強利用の人もいれば、サラリーマンの方が仕事の延長で使われる場合もあるし、あるいは、別の仕事を始めるための準備だったりもする。

うちの特色はむしろそこにあると思っていまして、コワーキングスペースはひとつの職種に偏りがちだと思うんですけど、男女比も6対4ぐらいで、いろんな職種の人に使われています。
元々、コミュニティカフェとか、地域でいろいろ動いていたこともあって、柏近隣のいろんな方にご利用頂けるような場所になっているのかなと思います。これまでも、市役所とか、商工会議所とか、商店街とかとの関わりも持っていますので。

そして、「Noblesse Oblige」でも企業とフリーランスが、パートナーシップを組んで仕事をするということは始まっている。

Web制作会社さんや、デザイン系の制作会社さんとかが、自分たちでさばききれない制作案件などを任せられる人を探したり、おつなぎしたりすることはあります。
またフリーランサー同士でも繋がって、会社を作るまでは行っていませんが、ひとつのプロジェクトを生み出す流れもあります。めちゃくちゃ多いわけではないですが。Web系に限らず、プロマネ業務をやっているライターさんが、自分だけでは大変だから何人かでチームを組みたいといったケースですね。
ここを利用されている方が、どういうお仕事内容で、どういうレベルでされているかは、全員ではなくてもだいたいは把握しています。Webだったらこの人かな、とか、イラストだったら、この人とか。

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聞けば、商店街のWebサイトのリニューアルの案件が「Noblesse Oblige」に直接寄せられ、コンペを開催したこともあるそうで、このことは同社はすでにまちづくりのコンサルタントとして地域に認知されている証左だろう。同様に、柏まつりという大きなお祭りのポスターデザインのコンペも運営したそうだ。

柏の町には40万人が住んでいて、お客さんもいっぱいいらっしゃいますし、制作関係で困っていらっしゃる方もいらっしゃいますし、もっと広く集められるはずなんですよね。そういう機能がもっと表に出せれば、ここに来れば仕事を発注できるとか、ここに来れば仕事が受託できるとか、そういう認知を獲得できると思いますし、そこからひろがることもあるはずなので。

確かに、地元の事業者がインターネットを活用したいというとき、Web開発制作会社と一口に言っても、じゃ、それはどこの誰なのか?案外、知られていない。そうしたときに、「コワーキングになら、そういう人たちがいるので相談できる」というメッセージは、実は日頃から発信しておくべきことかと思う。かく言うぼく自身、あまりうまくできていないのだが。

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n school、 そして、ビジネスミーティング

ところで、そういう人たちをよりタイトにつなぐのがイベントだが、「Noblesse Oblige」ではどういうものを開催しているのだろう。

年に2回、春と秋に交流会を企画しています。これは、ここのメンバー同士の懇親会でもあるんですが、興味があって初めて来られた方にもご参加いただいています。
その他には、8月から「n school」といって、コワーカーさんとはまた別の層への働きかけで、土日にヨガやコーチング、Coder Dojo(子供が対象のプログラミング教室)、ハンドクラフト系のワークショップなどを企画して、講師をお招きして開催しています。

この他に、「自分のプロジェクトを発信したい」という方のご要望で交流会を企画しているとのことだったが、本稿執筆時点では、すでに毎回、数組のメンバーが20分ずつ自身の活動やビジネスについてプレゼンをし、交流を深めるための「ビジネスミーティング」が開催されている。

Facebookのイベント告知ページには、「新規事業を行いたいけど他業種の人の助けが必要とか、自分の仕事が他業種にとってどう思われるか意見を聞いてみたかったり、自分が発見したビジネスの秘訣を自由にプレゼンしてみたり、気軽にビジネスミーティングの場をご活用いただければと思います」とあるが、これは、これまでコワーキングツアーでうかがった松山や広島、あるいは郡山などのコワーキングで実践している起業系のサークルとほぼ同じ趣旨だ。

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いろいろな人たちの働くきっかけを作り、「Noblesse Oblige」をそういう人たちのプラットフォームにする。コワーキングは、仕事をこなすだけの場所ではなくて、仕事を作る場所でもあるが、「働く人」を作ると言ったほうがいいかもしれない。

ライターになりたい方が講義を受けて、ライターになって、「Noblesse Oblige」をつかっていただけるような流れを作ったりとか、市役所と連携してマルシェなどのイベントを始めたいとか、そこからプロジェクトが生まれたり、それでまた「Noblesse Oblige」を使っていただくという流れを作れたらいいかなと思ってるんです。

なお、「Noblesse Oblige」では近隣の託児所とも提携した。もちろん、ワーキングママをサポートする目的で、「Noblesse Oblige」の利用者なら特別料金で一時託児サービスを利用できる。

また、「Noblesse Oblige」では、平日の午後3時から30分間、ちょっと仕事の手をちょっと休めてみんなで「おやつタイム」を開催している。のんびりお菓子をつまみながら会話するほっとタイムだが、リフレッシュにもなるし、コミュニケーションの場にもなるので、スペースで習慣化すると効果は大きいと思う。

まあ、うちの場合は突発的に会話が発生し、ひとしきり盛り上がったら自然に収束するので、それはそれで面白いのだが、コミュニケーションのきっかけづくりには使える手なので、そこを模索しているコワーキングなら真似てみてもいいかもしれない。

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強みを活かしたコワーキングのモデル化も

今後の具体的なプランはありますか?と訊いたら、興味深い言葉が返ってきた。

例えば新しい事業者さんに入居してもらってから、そこから新しいコミュニティが濃くなった段階で、外へ向けて営業もしていこうと。コミュニティを面白くしながら、うちのような建築都市設計まわりからコワーキングというのをモデル化できれば、他の利用者さんが少なくて困っているところとか、展開も出来ると思うので。

なるほど、コワーキングの横展開を企図されているようだ。人口規模から言っても、首都圏との地理的事情から言っても、そのニーズは高いだろう。加えて、まちづくりのノウハウが存分に活かせるという強みもある。もしかしたら、他のコワーキングとの提携も視野に入れておられるのかもしれないが、うっかりそこは聞き逃した。

コワーキングは、多くの人が交差するハブだ。多ければ多いほど、その属性のバリエーションも多様になる。そしてその次の段階では、コワーキングスペース同士が連携していくこと、それがコワーカーの流動性を促し、仕事を軸にして仲間を増やし、地方経済の活性化を実現するエンジンになると、ぼくは各地でくどいほど言って回っているが、それぞれの得意領域を交換し合うことも、双方の発展のためには必要だ。

それは、ただ、東京圏から地方への移住を促す政策とはまた違う方法論だが、ぼくは実効性は高いと考えている。減っていくものを奪うのではなく、互いに補完し合う、与え合う。ロマンチックに聞こえるかもしれないが、実はぼくらの未来はこの物語を信じるところから始まる。

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Noblesse Oblige

〒277-0011
千葉県柏市東上町2-28 第一水戸屋ビル3F
TEL.04-7197-5600

・ドロップイン 500円 / 2時間 1,000円 / 8時間 ユース割(18〜23歳)500円 / 8時間
・Sプラン 12,000円 / 月
・Gプラン 15,000円 / 月  他、月額プラン多数あり

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伊藤富雄
Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など