地元愛が源動力のコワーキング「myDesk」(長野県長野市)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その28回目は、長野県長野市の「myDesk」さんにおじゃまし、運営会社である株式会社マイデスクの吉川正倫さんと宮原直孝さんにお話を伺いました。
(取材・テキスト / 伊藤富雄 取材日:2016年8月23日)

myDesk
〒380-0921
長野県長野市栗田源田窪1020番地1 ステラビル4B
TEL. 050-5893-5184

地元を盛り上げたいという想い

吉川さんと同社の代表である松野さんは、ここからクルマで30分ほどの信濃町のご出身だ。吉川さんは自身プログラマーで、いまでもシステム開発の仕事をこなしているが、そもそも松野さんが独立するときに、社内研修用のEラーニング・システムの開発を吉川さんが手掛けたのが事の起こりだ。会社は2010年の8月の設立で、スペースは2015年12月にオープンした。ちなみに、そのEラーニングシステムはこちら。

edulio

社内研修だけでなく、学習塾でも利用されている。動画も使えるので料理教室などでも好評とのこと。システムにアップしておけば生徒さんが自由に受講できるというのが便利だ。

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IT・ウェブ系の会社がコワーキングスペースを運営する事例は他にもある。ただ、マイデスクは東京の会社であり、スペースは長野駅前にある。そのへんは、どういう事情だったのだろう。

元々、地元に帰ってきたいという気持ちがあったんですよ。実を言うと、最初はコワーキングをやろうという考えはなかったんです。それよりも、開発の拠点をこっちにしようという計画でした。 物件を探してたらこの広いスペースがあったんですが、当初、社員はふたりだったので、駅前で場所はすごくいいので、ここを有効に使おうと。 東京に比べたら長野はITにまだ弱いので、フリーランサーの人が仕事できる場所とか提供してあげられたらいいなということで、じゃコワーキングやろうかとなったんです。 実は、わたしたち自身も東京でちよだプラットフォームさんに入ってましたので馴染みがあったというのもあります。自分たちもコワーキングのユーザーであって、これは便利だという実感があったんです。

自らがコワーキングの使い手であったことは、その後の運営にも役に立っているだろう。利用者(コワーカー)の実際を運営者自身が理解した上で、コワーキングというコミュニティを動かすのは、とりわけ地方都市のコワーキングにとっては有益だ。

もう少し遡って尋ねてみたい。社長ともども、いずれ長野に帰りたいと思ったのはなぜなのか。

やはり地元を盛り上げたいということですね、地元愛というとあれですけど。実家に帰っても仕事はできるというのを自分で証明したかったというのが本音です。 社長も子供向けのプログラミングなんかをやろうと。ソーシャルゲームじゃなくて子供向けのプログラミングですね。 最初はここでやろうと思ってたんです。でも、よく調べたら意外とほかでもやってたので、じゃそこはおまかせしたらいいかなと(笑)。で、ぼくたちはPHPとかそういうのをやろうとシフトしまして。 ぼくたちがすごいでかい会社だったら話は違うんでしょうけど、小さな会社でパワーもリソースも限られてるので、大手を追随しても自分たちの強みって作りずらいと思うんです。 それをやるよりは、敢えて誰もやってなくて、小さくてもいいから、困ってる人たち、欲してる人たちに提供できたほうがたぶんいいんじゃないかと考えて。人の真似するのも面白くないですし。

その発想は、実は前述のEラーニングシステムの開発にも反映している。

実はedulioの学習システムがそんな感じです。大規模な学習システムは大規模な企業が何千万とかけて利用するんですけれども、そこでぼくたちが彼らに対抗する術ってないので、逆にほんとに少人数の、ほんとにひとり、ふたりの、家庭教師みたいな人が使えるレベルの、ちっちゃいところからカバーできる学習システムを作ろうっていうので、いまのedulioを作ったんです。だからどっちかって言うと、ターゲットは大企業じゃなくて中小零細ですね。

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ただそれも、単にニッチマーケットを狙ってのことではない、彼らの地元に対する理念としての裏付けがあることは次の発言で明らかだ。

やっぱり、「ローカルでお役に立ちたい」という想いが強いですね。うちとしては第二のエプソンが出てほしいんです、長野から。ここから、将来的に第二のエプソンを作れるような人たちを輩出できたらいいなと。 これからビジネスを起こそうとする起業家、創業する意思のある人たちが集まる場所として各地のコワーキングが機能しだしていますよね。MyDeskにもそういう人達が集まってくれたらいいなと考えています。 そうなると、特にプログラミング関係にこだわりはないです。ぼくたちもIT・ウェブ系なので、ここもそういう人たちに特化したコワーキングスペースにしちゃってもいいのかと考えたことはあったんですけど、ジャンルにかかわらず起業を考えてる人とガンガンやっていきたいと思っています。

いろんな属性の人が集まる方が、シナジーも起こるし、スパークも起こる。互いのビジネスを補完することもあるし、全然別のビジネスになることもある。多様性というのは、コワーキングの提供できるメリットのひとつだから、そこを絞ってしまうのはもったいない。

ただ、同社の強みはやはりプログラミングだ。そこを軸にしつつ、コワーキングの展開がいろいろできるのではないか。

プログラミングスクールもやりたいんですよね。まだ構想段階で年明けぐらいからの予定なんですけど。(※取材当時)この町にもないわけではないけれども東京に比べると少ないし、有名なところもないですし。 そうなると、東京に出ていって学ぼうということになり、そうするとそのまま東京に就職してしまうんですよね。そう言う私も東京の大学に行って東京の企業に就職したんですけど。(笑)それをもっと地方の定着させるためには、ここで学んで、ここで仕事できるという環境をつくってあげたいなと。

確かに学んだところで就職するというのは、とりわけ東京においてはありがちなパターンだ。そのまま地方都市は人口を減らし衰退していくというのも現実であり、それを食い止めるためにもコワーキングはローカル経済の拠点として機能すべきだし、利用すべきと考えている。

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自然発生的にイベントをサポートしたい

ただ、いざコワーキングをはじめてみて、現実はなかなか厳しい。

現時点での悩みは、利用者が思ったほど増えないということですね。マンスリーの方は、Facebookを見てプレオープンに来られて以来、ずっと毎日来られますが、個室もドロップインもまだ満足いく人数ではありません。 元々、集客が得意ではないのもありますが、イベント情報もあまり告知できていなかったんです。それは宮原くんが来てから少しはできるようになったのですが、新聞にとりあげてもらったのを見て来られた方もいるので、実感としてはどっちかというと地方はネットより紙媒体かなと。

なるほど、紙媒体での集客は、ぼく自身いままでほとんど考えたことはなかったが、地域によっては、あるいはリーチしたいゾーンによっては十分効果的なのかもしれない。

マンスリー(契約者)で固めてドロップインは縮小傾向で考えていたんです。ドロップインで毎日来るかどうか判らない人より、マンスリーでガッツリ入ってる人をサポートするような仕組みをどんどん考えていきたいと。

ここは難しいところだ。サポートする仕組みをしっかり作り上げて、マンスリーで盤石な集団にすることは、コワーキング利用者、運営者の双方に有効だと思う。これは、地元から起業家を排出していきたいという強い意思があることも関係しているのだろう。

ただ、どこのコワーキングでも最初はさまざまなテーマでイベントを開催し、そこに参加される人たちで少しずつコミュニティの輪を広げていくのが常道だ。そこはどうなのだろうと思って訊くと、MyDeskでは、自らが主催するイベントはあまり行っていないという。

人手不足もあるんですが、イベントはほかのコワーキングスペースさんがよくやられているので、ぼくたちはそういう方向性でないほうがいいかなと考えまして。 どっちかって言うとむしろ「仕事する場所」というほうをメインにやるべきかなと思うんです。で、イベントは中にいる人(利用者)がやるときにサポートするほうに力入れていくほうがいいなと思っています。自分たちが積極的にイベントやるってのはいまはまだ待とう、みたいな、今はそういう方針ですね。

過去に何度も書いているが、ぼくもコワーキングをはじめたころに、思いつく限りのテーマでセミナーを開催した。テーマがネタ切れになると、来る人来る人になにが訊きたいか、知りたいかを尋ねて回り、出入りする人たちの中から講師を見つけ、その流れが途切れないようにした。

それは、カフーツでは、いつも何かワイワイガヤガヤやっているという印象付けの狙いもあったけれども、そこに集う人たちのつながりを創ってコミュニティとしての土台作りにも役立てるという、かなり明確な目的があったからだ。

仕事をしに来た人が講師になり、その講義内容に興味ある人が集まってくるのは、お互い仕事をしている者同士だからだ。そして、ここが仕事場として認知されると、今度は来た者同士が仲間になって一緒に仕事しないか、あるいは一緒にここで勉強会しようよ、となっていく。

「そういう流れを自然に起こさせて応援しようと思っているんです」と吉川さんは語る。「自然に発生させる」いう考えは確かに一理ある。セミナーを連発しすぎたあまり、「セミナー会場化」してしまった、という反省がぼくにはあるからだ。「それは一番避けたいところですね」と吉川さんは頷いた。耳が痛い。

余談めくが、myDeskでは過去に2回、「人工知能カフェ」というトークイベントを開催している。「人工知能ってこんなものだよ。これからこうなるでしょう」というアプローチで、初心者向けの説明会だったそうだが、こういうごく近い未来のテーマは案外幅広い層にアピールするのではないか。そういうぼくは、ブロックチェーンをテーマに近く勉強会を企てている。

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仕事案件の取り込み窓口としてのコワーキング

地方のコワーキングにはいつも尋ねる質問だが、ほかのスペースとの連携に関してはどうなのだろうか。

他のコワーキングとの連携はできたほうがイイと思います。例えば、ポータルサイトを作って、どこどこのスペースはいま空いてるな、と判ると便利かなと。

そのアイデアはこれまでも現れては消え現れては消えしている気がするが、なかなか実現しない。昨今、コワーキングスペースの検索サイトはいくつか公開されていて大変便利だが、リアルタイムにどこで何が行われているかの情報をアップデートし共有するサービスは、いまのところぼくには思いつかない。

さらには、コワーキングがコワーカー(働く人たち)のための拠点だとすると、仕事案件情報を共有する、仕事仲間を見つける仕組みがあってもおかしくない、というか、もはや必須だろう。

myDeskでは自社サービス以外の受託開発はやらない方針だ。むしろ、仕事の窓口としてクライアントから案件を受け付けて、利用者であるコワーカーに仕事をしてもらうということならやりたいと語る。元々、開発会社である強みも活かしつつ、地元で仕事できる人を創る、というテーマにも合致する。

なお、コワーキング協同組合では、仕事情報を共有するシステム構築を準備している。できれば今年中にはスタートさせたいが、はてさて。

コワーキングツアーでおじゃました松山や広島、郡山での起業家の交流イベントの情報を披露したら、「小規模で事業始めた人たちばかりだし、いいと思うんですよね」と語った。そう、何ごとも最初は小さい。それはコワーキングだって同じことだ。

しかし、そこに人がつながる限り成長が止むことはない。いや、変化と言ったほうが正しいかもしれない。世の中の変化に機敏に反応しつつ、人というアナログな存在をつなげ続ける仕組み、それがコワーキングだ。コワーキングは決して目的ではない。

地元を盛り上げたいという熱い想いは、地方都市のコワーキングを運営する動機としては十分に説得力を持つ。願わくば、大都市のそれを真似るのではなく、地元だからこそできることに目を向けてみたい。そこには、逆に大都市にはできない方法論がいくつもあるはずだ。そしてそれこそ、edulioを生み出した同社ならではの強みだろう。

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myDesk

〒380-0921
長野県長野市栗田源田窪1020番地1 ステラビル4B
TEL. 050-5893-5184

・ドロップイン 500円 / 日
・月額会員 フリー席 12,000円 / 月
・月額会員 個室 A、C:48,000円 / 月
・月額会員 個室 B、D:36,000円 / 月
・月額会員 個室 E:24,000円 / 月

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伊藤富雄
Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など