【イベントリポート】Beyond the Coworking:これからのコワーキングを神戸で考える〜コワーキングと◯◯を掛け算しよう〜セッション(1)「育」子育てとコワーキング

去る6月16日(金)〜18日(日)の3日間、こうべまちづくり会館で開催されたイベント「Beyond the Coworking これからのコワーキングを神戸で考える 〜コワーキングと◯◯を掛け算しよう〜」のリポート、その1本目です。各セッションごとに、6本の記事にして公開します。

各リポートの後半にYouTubeの動画がありますので、ぜひご覧ください。

※各セッションのリポートはこちらです。

セッション(1)「育」子育てとコワーキング
セッション(2)「学」学びとコワーキング
セッション(3)「働」起業とコワーキング
セッション(4)「創」クリエイティビティとコワーキング
セッション(5)「旅」移働とコワーキング
セッション(6)「食」食とコワーキング

●イベントの趣旨

日本にコワーキングがはじまったのは、2010年5月15日にオープンした神戸の「カフーツ」からで、開設したのは筆者です。早いものでそれから、すでに7年が経ちました。

当初は、主にフリーランサーの仕事の場であり、仕事仲間をみつけ、勉強会を開き、共に活動するコミュニティとしてスタートしましたが、その7年のあいだに日本中でコワーキングスペースが300〜400ヶ所と増えるに連れ、その果たす役割もずいぶん多様性を帯びるようになってきています。

はっきり言えるのは、単にフリーランサーやスタートアップが仕事をするだけではなく、コワーキングとなにかを掛け算することで、ローカルエコノミーを駆動するエンジンとなり、市民生活の拠点にもなり、あらゆる連携を実現するハブにもなり得る、いわばその地域の活動にさまざまな効果をもたらすインフラになってきている、ということです。

今回、その認識に立って、これからのコワーキングをあらためて考えてみるために、「Beyond the Coworking」と銘打ち神戸でイベントを開催しました。コワーキングの向こうにあるものを考えてみよう、そこで得られるアイデアをこれからのコワーキングに活かそう、そしてこの街をよりよい街にしよう、というのがその趣旨です。

なお、このイベントは神戸市からの委託を請けて社会実験として実施しました。今回の会場となった「こうべまちづくり会館」がオープンしたのが1993年11月で、1995年の阪神・淡路大震災の際には多くの避難者を受け入れ、その後の復興まちづくりの支援拠点としても機能してきました。その後、20年あまりを経て今後さらに市民生活のベースとなるためにはどういう役割をはたすべきか、そういう議論がなされてきた中、「コワーキング」というキーワードが浮かび上がってきた時点で、ぼくのところにヒアリングに来られたのがそもそもです。

しかし、単にコワーキングスペースをビルテナントのひとつとして組み込んだとしても、会館はもとより地域にたいして貢献できるとは思えません。コトは会館だけの課題ではなく、むしろ、コワーキングを起点として多くの機能を同時に動かす複合的施設にすることでローカルを活性化させる、その発想が必要であり、コワーキングとその他の「なにか」が相互に作用するエコシステムを構築するのが望ましい。とりわけ、地方都市におけるコワーキングはそのための要になっています。それが前述の「コワーキングとなにかを掛け算する」ということだ、とお話しました。

その掛け算する「なにか」とは、ざっくりあげれば「創」「学」「旅」「食」「遊」「催」「育」そして「働」です。

すると、「では、それをテーマにイベントをやりませんか」ということになり、急遽、実行委員会(というほど時間も予算もなかったのですが)をボランティアスタッフの協力で編成し、実質2ヶ月足らずの間にバタバタと準備を進め、ほぼぶっつけに近い体制で開催に臨んだという次第です。

このイベントの主張するところは前述のとおりですが、こうべまちづくり会館という具体的な題材を得て、参加者の意見交換の場を設けることを意図しました。そこで共有されるさまざまな知見、情報、アイデアを以って、将来の施設運営におけるひとつの方針を立てるのが目的です。と同時に、ぼくとしては、このプロセスそのものが地方都市のコワーキングのこれからの姿を提示する、格好の機会となると考えました。

そうして、2017年6月16日(金)〜18日(日)の3日間、こうべまちづくり会館でイベント「Beyond the Coworking これからのコワーキングを神戸で考える 〜コワーキングと◯◯を掛け算しよう〜」は開催されました。

●6つのセッションとコワーキング、CoderDojo、そしてシャルソン

今回は、前述の8つの要素を踏まえてテーマを6つに絞り、各地からそのテーマに相応しいプレゼンターをお招きし、以下のようなタイムテーブルで各セッションを進めました。

1)まず伊藤がセッションの目的など説明
2)次に、プレゼンターがひとり20分ずつプレゼン
3)次に、プレゼンター2人と伊藤でパネルディスカッションしつつ質疑応答
4)次に、ここまでの話を受けて、参加者全員で約20分のプチ・フューチャーセッション
5)最後にブレストの内容をそれぞれ発表し、そこで得た知見やアイデアを共有

これをだいたい、1セッション90分で行いました。

なお、3日間、セッションのない時間帯は会場をそのままコワーキングスペースにしました。会場は、会館の一階、入り口を入ったすごそこで一般利用者も自由に出入りできるという、オープンすぎるほどオープンなのですが、少しでもコワーキングの雰囲気が出ればと考えての設営でした。

また、2日目にはコワーキングスペースで、子供さん向けのプログラミング教室「CoderDojo神戸」を開催しました。コワーキングが学びの場でもあることは、初日のプログラムにも組み込んでありましたが、それは大人だけではない、子供にも開放されてしかるべきと考えてのことで、「CoderDojo神戸」の運営者の方に相談したところ快諾を得て実施となりました。

そして、最終日には人と街を再発見するイベントとして、全国各地で開催されているシャルソンも併催しました。これは自由にコースを選んで街歩きし、そこで出会った人やコトを順次ネットにアップして参加者全員で体験を共有するイベントです。会館の外に出て外からの目で神戸を見ることで、神戸の中に閉じこもらず、神戸が外とつながるためのコワーキングという視点を持ち込むのがその狙いでした。

●セッション(1)「育」子育てとコワーキング

最初のセッションは、子育てしながら起業する、仕事する、子供さんのいるお母さんの活動拠点としてのコワーキングを考えるというのがテーマです。

コワーキングはなにもIT・ウェブ系のワーカーのためだけにあるのではありません。コワーカーの中にも働くお母さんがたくさんおられます。特に地方のコワーキングでは、地域のワーキングママたちのコミュニティとしてもうまく運用されています。

ローカルの人的リソースであるママさんの活動の場として、コワーキングをいかに利用するか、運営するか。育児との両立をどうサポートするか、できるか。そのあたりをご自身、働くママとして日々実践されているおふたりのお話からヒントを得たいと思います。

深沢周代(ふかざわちかよ)氏

JUSO Coworking代表

地域に根ざしたスペース運営と寄り添い型のコミュニティ形成。「はたらくを楽しもう」をコンセプトに、コワーキングに集う人々の暮らしと仕事の相談、専門家や機関への紹介を行いつつ、認可外保育所との提携をはじめ、様々な企業・団体とコラボし「働く親の応援」として様々なコラボイベントを実施。また地域×企業として地域のお祭りをはじめ様々な行事を使い協業の道を模索中。

■プレゼンテーション・サマリー

・JUSO Coworkingでは、ウェブ・IT関係のフリーランサーのほか、ネイルサロンやスマホ修理、手芸教室を営む方などが利用している。子供連れのコワーキング利用もOKで、小学生は無料。近隣の24時間保育所と提携し、コワーキングを利用する方のためのプランを提供、ベビーシッター派遣や送迎サービスもある。

・最近では、地域のコミュニティ活動に注力しており、コワーキングのプロ集団と地域との関係を作るためにイベントを開催、あるいは参加している。地域のラウンドテーブルを設けたり、お祭りの企画に参加したりするなど、地域の人たちとコワーキングの人たちを混ぜる仕組みを作っている。

エリアマイスター(このあと登壇の須澤 美佳氏のプロジェクト)でもコラボし、子供連れOKのセミナーも開催している。お母さんがたのために月に1回、10時〜12時の貸し切りで子供連れOKのセミナーを開催(フリーランサーは午後から利用するケースが多い)。

・子供OKのコワーキングでは、家族や親子でドロップインしてもらえる。また、子供の学校が休みの日や夏休みなどでは家族でドロップインされている。

・放課後の居場所として、たまに子供だけでドロップイン、「ただいま〜!」と帰って来て宿題している。十三には児童館など子供だけが利用できる施設がないことも関係している。また、中高生の受験勉強や資格試験勉強にも使われる。「遠足」なそ親子でイベント参加もある。

・家族連れが何組かいると、子供は子供同士で愉しみ、大人もより近い関係になる。それが子育て自体をシェアする、働きながら支え合っていくことにもつながる。いわば、「遠くの親戚より近くのメンバー」。毎日、子連れで来るという人はそう多くはないが、子供が少々微熱があっても保育園に預けられない、そういう時にも気兼ねなく連れてきて仕事できる場所になっている。働き方をもっと自由に、子供がいることがハードルではなくなってほしい。

須澤美佳(すざわ みか)氏

株式会社ママントレ代表取締役

「ママの働き方はもっといろいろあっていい」をコンセプトに、2012年ママントレ立ち上げ。女性起業家向けのWeb/チラシ制作のほか、ITが苦手な女性向けのセミナー・個別指導、Webでの情報発信を行う。「さらに働き方の選択肢を増やしたい」との思いで、2014年11月より就業意欲の高い阪神間の主婦と企業のマッチング「エリアマイスター」を開始。在宅ワークを中心とした「主婦だからこそできる仕事」が話題を呼び、IT系、事務をはじめとしたさまざまなスキルをもつ約300名が登録。2016年7月に法人化し、さらに活動の幅を広げている。

■プレゼンテーション・サマリー

・「ママントレ」とは「ママ+アントレプレナー」の意味。時間の使い方が自由になる働き方をママたちにも知ってほしいという想いから、実際に事業されている方をIT面から支援している。

・子育て中だと高いスキルがあってもそれを活かす場所がない。そういう働きたくても働けないというママが神戸だけでも14万人いるのではないか。実は、企業クライアントの方も主婦の方で戦力になりそうな方がいたらぜひ手伝ってほしいと思っているが、どこにそういった主婦の方たちがいるのかわからない。働けないママの壁は、待機児童、条件、ご主人の転勤、家族の理解、子供の夏休み、急病など。

・起業セミナーでカモにされるというパターンが結構あり、資格を取っても仕事につながらない。また、ママが働く=片手間、という認識で低賃金であることが多い。そこで、持っているスキルを活かせる場としてエリアマイスターをはじめた。運営して3年弱で320名が登録、さまざまなスキルを企業に提供している。在宅ワーカーが多い、IT、事務系の他、建築士、親子向けのセミナー講師、ハンドメイドの教室、理容、教育、保育士などもおられる。

・子育て中の、大阪〜神戸の阪神間の方が多く、クライアントからは主婦の声を活かした仕事の依頼が多い。地域に求められる場所の意見が反映され、ママ向けの商品開発も行っている。主婦だからこそ、ママだからこそ、地元だからこそ、好きだからこそ、が仕事になっている。大企業や行政にはカバーできないところが強み。

・「起業」までは行かない人たちをカバーするのも目的。いま、勤めているけれども、本当にこの働き方でいいのかな、出産した途端に配置換えされてしまって、私が本当にやりたいのはこれじゃないのだけど我慢しなければいけないのかな、という人たちを救っていきたい。

・キャリアを持っている人ほど責任感が強く、ブランクのある自分に務まるわけがないと考える。かたや依頼する側は仕事の頼み方がわからない。そこで、ママたちにスキルがあることを実感してもらうことからはじめた。気軽に来てもらえる相談会や簡単な仕事からはじめてもらう、スキルアップしたい方にはITの勉強会を開講。

・自宅でこもって仕事しがちなフリーランスのための情報交換の場を提供し、チームでプロジェクトの仕事をする。徐々にスキルアップしていくうちに子供の手も離れるので、フリーランサーとして独立するか、あるいは企業への就職もサポートしている。

・場所があるから、人が集まる。定期的なイベント、登録者とのコミュニケーション、コミュニティづくり、口コミ紹介、などを通じてママからのリアルな声を収集する。

・今後の働き方は組織からチームへと移る。これは横のつながりはすぐに作れる主婦には向いている。仕事は、案件へのモチベーションや親和性を見ながらアサインする。仕事への関わり方も自由に選べる。仕事のカテゴリをさらに細かく分けてグループを作るとそれを知った企業から受託するという好循環が生まれている。

・暮らす+はたらく=もっと暮らしやすい街に、を目指したい。そして、働く親の姿から子供の職業観を育てる。そのための自由に働ける環境を育てる。

・必要なのは人と人とのつながり。つなぐ場所が今後さらに重要になり、そこに誰がいるかが更に重要になるので、コワーキングの重要性は増していく。

ノート

コワーキングスペースに育児そのものを支援する仕組みとして託児所との提携や託児スペースを整備し、それと同時に働くママを支援するための技能習得のためのワークショップやセミナー、またその後の独立支援や、案件受託などのシステムづくりのお話は具体的であり大変参考になります。

言い換えれば、ハードとソフトの両方がなければ、育児とコワーキングというものは実現しないということでもありますが、コミュニティ(人のつながり)を起点とするコワーキングには、それぞれの役割を分担できる人材が集まりますので、決して不可能ではありません。

そして、JUSO Coworkingの事例にもあるように、こうした環境は地域で子供を育てることにもつながることからも、行政とうまく連動させることが必要だと考えます。母親が自由に働ける環境を整備することが、ローカルの活性化に直結する、それを行政だけではなく地域の市民もコミットしていく。そのためにコワーキングが役に立ちます。

●動画で見るセッション(1)「育」子育てとコワーキング

当日、YouTubeのライブストリーミング機能を利用してネットで生配信しましたので、こちらに掲載します。なお、ビデオは配信したときのままで編集していないことをあらかじめご了承ください。

ただし、各プレゼンターの話し始める時間、およびパネルディスカッションの始まる時間は、それぞれ記載しています。また、パネルディスカッションのあと、グループごとにフューチャーセッションに入る時間帯もそのまま動画に収められていますが、定点カメラでの撮影を全く意識していない映像が続くので(それはそれで面白いのですが)、適宜、そのあとのグループ発表の時間にスキップしてください。

動画:Beyond the Coworking これからのコワーキングを神戸で考える 「育とコワーキング」

【タイムテーブル】
伊藤イントロ(1分36秒〜)
深沢周代氏(8分15秒〜)
須澤 美佳氏(29分40秒〜)
パネルディスカッション(51分58秒〜)
プチ・フューチャーセッションのグループ発表
課題「子育てとコワーキングを実現するためにはどういうコワーキングスペースがあればいいか?」(1時間33分20秒〜)

※各セッションのリポートはそれぞれ下記のページです。

セッション(1)「育」子育てとコワーキング
セッション(2)「学」学びとコワーキング
セッション(3)「働」起業とコワーキング
セッション(4)「創」クリエイティビティとコワーキング
セッション(5)「旅」移働とコワーキング
セッション(6)「食」食とコワーキング

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伊藤富雄
Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など