みんなの夢を実現する「コワーキングスペースiitoco!!(イイトコ)」(長野県佐久市)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その26回目は、長野県佐久市の「コワーキングスペースiitoco!!(イイトコ)」さんにおじゃまし、運営者である江原政文さんと大越 要さんにお話を伺いました。
(取材・テキスト / 伊藤富雄 取材日:2016年8月21日)

コワーキングスペースiitoco!!(イイトコ)
〒385-0011
長野県 佐久市猿久保26-1
TEL.0267-54-8211

ふたりの出会いがコトの起こり

運営者のひとりである江原さんも、2014年頃から松本市のコワーキング、「Sense 」で仕事をしていたコワーカーだ。フリーランサーとして企業の財務会計をサポートする仕事がメインだが、時には会計担当としてプロジェクトに参画したり、起業そのものにも関わる。

江原:ひとりで仕事してるとつまらないですよね。(笑)ひとりよがりになっちゃったり。それより、こういうところで、異業種の人と同僚みたいに仕事するのが楽しかったんです。それと、そこから仕事やプロジェクトが起ち上がることもあったので、「これはいいなぁ、佐久にもコワーキングがほしいなぁ」と思ってました。

佐久市の人口はおよそ10万人。その規模で、果たしてコワーキングスペースが成り立つのかどうか、不安を覚えるのも無理はない。ウィキペディアによれば10万人台の都市は日本にざっと150以上あるが、ハナラボの井上さんも言うように、衰退の可能性の高い10万人から30万人規模の町こそ再生のためのモデルを持つ必要があり、その中でローカル経済を回すひとつのスキームとして機能するのがコワーキングだ。

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江原さんと同じように、Facebook上でも「コワーキングやりたいなぁ」という声が知り合いや、そのまた知り合いから聞こえてきたというからニーズが芽生えてきた時期だったのかもしれない。だが、江原さんを決断させたのは、大越さんとの出会いだった。

大越さんは東京での4年間の会社員生活を経て、2014年3月頃に長野に帰ってきた。東京に疲れての帰郷だった。

大越:ずっと東京に憧れてたし、起業家になりたいと思ってたんです。随分いきがって生きてて、やたらとギラギラしてました。でもそれにホントに疲れてしまって、俺の人生このままでいいのかと。親父がずっと塗装業の職人で、かれこれ38年やってきたんで、じゃ職人やろうかと。ホント、そんな軽い感じで、帰ってきた次の日から職人やってます。

ツライ話に聞こえるかもしれないが、その口調はむしろさわやかだ。東京で揉まれた経験が活きているのだろう、やっぱり大事なのは「人」だと悟ったと語る。

大越:長野にはなんにもないんだろうなと思って帰ってきたんです。でもぼくは人と出会うことで生まれる楽しさをみんなと共有したいと思って、毎月のようにいろんなイベントを企画してました。ハロウィンパーティとか、体育館を借りて運動会しようとか、サンタのコスプレをして町を回ろうとか、流しそうめん創って食べようとか、バドミントンの団体を起ち上げたり、いろいろ。それで自分なりに、佐久市にずっと住んでる同じ20代の人たちに刺激を与えたいと思ってたんですけど…

だが、どんどん突き進む大越さんの熱量とほかのメンバーのそれとにいつしかギャップが生まれる。今後、これを本気で仕事としてやっていく仲間を求めたときに、誰も手を挙げなかったというから、さぞやがっくりきたことだろう。

大越:コワーキングのことはよく知らなかったんです。なんか楽しそうだなというぐらいで。でも、江原さんに話したら、「いいよ、一緒にやろうよ」と返事が返ってきて、「あ、もうこの人だと」。(笑)そこからですね、ほんとに強いつながりになっていったのは。

波長が合った、というところだろう、なにかコトを起こすにはやっぱり価値観を共有できる仲間が必要だ。コワーキングの運営もそうで、コミュニティの核になる部分がチームになっておくのは、その後の展開でも大きくモノを言う。ただその前提に「共感すること」や「共鳴するもの」が必要だ。

起業やプロジェクトの創出に関わりたかった江原さんと、イベントを通じて人のつながりを作りたかった大越さんは、それぞれの目的を実現するためにコワーキングを起ち上げることで一致した。

江原:大越さんも自分でプロジェクト立ち上げたりとか企画してたり、楽しいことが好きで、なにかを生み出すことが好きなんですよね。コワーキングの人たちって楽しみながら真剣に取り組む人が多いので、そういうところで共鳴して、大越さんのやりたいことができると感じたんでしょうね。

「いや、まさにそのとおりです」と、大越さんは笑う。そして、こういう出会いが地方での街の活性化につながっていく。やっぱり、「人」なのだ。

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コワーキングの運営はチームでやるのが理想

ぼくは、2010年5月15日、神戸にカフーツを開いたときのことを思い出していた。小さな、わずか12席しかない、日本で最初のコワーキング。ささやかなオープニングパーティには、コワーキングをはじめるきっかけになった勉強会のメンバーや友人が集まって、なんだかよくわからないが賑やかにその船出を祝ってくれた。

当時、世界に開設されているコワーキングスペースは、まだ400ヶ所に満たなかった。そのムーブメントは、しかし、徐々にパワーを増し、サンフランシスコを発祥に全米はもちろんのこと、海を渡ってヨーロッパ、アフリカ、中近東、東南アジアにまで浸透し始めていた。(ちなみに、2016年現在、その数は10,000ヶ所に達するという観測があるが、それもまた、今年のDeskmagの実態調査で大きく上回るだろう)

ところが、日本にはなかった。シェアリングオフィスはすでに存在したが、ドロップインを前提とするコミュニティとしての共用ワークスペース、つまりコワーキングはなかった。「だったら、やってみよう」、そう思った。とはいえぼくも、海外のサイトを片っ端から漁って仕入れた二次情報しか持ち合わせていないので、体感的に理解していたわけではない。

ただ、「いつでも誰もが使える共用のワークスペースで、その根幹にあるバリューは場所ではなくてコミュニティである」ということを伝えるために、「場所<人」と書いたスライドシートをみんなに見せて回った。これは、世界中のコワーキングで共有されているコワーキングの基本概念であり、それ以来ぼくもそこから一歩も逸脱していない。

だが、共同で運営するためにパートナーを募らなかったのは失敗だった。もちろん、その頃、そんな訳のわからないことに関わる人がいるはずもなく、最初からひとりでやるしかないという覚悟だったのだが、時期を見て体制を変えるべきだったのかもしれないと、今ならそう思う。(すでにその次のフェーズに入ったので、今はその必要性はやや薄れている)

チームで運営すれば、互いにアイデアを出し合い実践することでコミュニティの核をより堅固なものにしながら、活力のある場として常にリフレッシュできる。オペレーションを輪番制にすればずっとスペースに縛られずに済む(これは意外に重要)。もちろん、コスト負担を分散させるためにも有効だ。

だがそれ以上にチームで運営することのメリットは、チームでコワーキングスペースを運営すること自体がコワーキングを学ぶ絶好の機会になる、ということだ。それを彼らは知ってか知らずか、まさにOJTで取り組んでいる。正直、羨ましい。

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夢を実現する場としてのコワーキング

さて、その二人が「イイトコ」さんをオープンしたのは、この8月3日だった。まだ、スタートして間もないが、これからどういう展開を考えているのだろう。

江原:会員を増やしていくことはもちろんですが、ドロップインで気軽に来てもらえるイメージを作っていきたいなと考えています。そのためには、平日の昼間に来てもらえるランチ会などのイベントがキーかなと。ぼくらは、「平日の昼間」というのがキーワードだと思ってるんです。

これはちょっと意外だった。イベントといえば、夕方以降、夜に開催するものという先入観があったが、土地によってはさまざまな時間軸があり、平日の昼間にもニーズがあっても不思議ではない。

江原:イベントの企画運営はふたりでやってますが、2階にキッチンがあるので食のイベントをやってくれる人がいたり、皆さんフリーランサーだから協力してくれて講師になってくれたり、いろいろ絡んでいただいています。よく考えたら、そういう人たちは順番に集まってきたって感じです。誰かが誰かを連れてきた、そんな感じです。

誰かが誰かを連れてくる。まさにコミュニティの原点だ。ちなみに、これからコワーキングをやりたいという方には、必ずキッチンを用意されることをお勧めしている。「イイトコ」さんのそれは、この建物が元ペンションだったと言うだけあって本格的だ。人が集まってともに飲食するのは、仲間になる一番の近道だ。余談だが、取材当日も懇親会に参加させていただき、地元の美味しいものを大いに堪能した。

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オープン以来、イベントのメニューも多彩で学びと遊びは半々だ。鍼灸師による東洋医学座談会や、ロミロミマッサージ、目標設定ジェリー、はたまた夏休みの工作宿題でステンドグラスのワークショップ、そうかと思えばマジックショーや積ん読本を読む会など、取材した8月だけで12回も開催されている。

中でも個人的に嬉しいのはブログジェリーで、集まってブログを書き、互いにコメントするというワークショップだが、ぼくのブログさぼりを克服するためにカフーツではじめたジェリーで、かれこれ60回以上やっている。最近、参加者が少なくなってきたので、原点に戻ってブログ教室からやり直そうかと思っているが、こうして他の地方のコワーキングでも真似していただけるのは励みになる。そのうち、合同でやってみたい。

江原さんは会計が専門だけに、フリーランサーや個人事業主のために、月次で会計処理をするイベントも考えている(※取材当時。その後すでに2回開催されている)。

江原:記帳ジェリーは毎月やってもいいなと思ってるんです。未来をつくるための数字になればいいので。まとめてやろうとするとなかなか片付きませんし。それに、そういう場でなら今さら聞けない決算書の見方とか気軽に聞けますし。ついでに、お金はどこに行っちゃったんだ?みたいな。(笑)

コワーキングが、ただ作業するためだけの場所でないよう、各自のビジネスについて検証する仕組みがあることは大変喜ばしい。江原さんの言う「未来をつくるため」という言葉は文字通りコワーキングの目指すベクトルの方向を指し示している。さりとて、「あんまり起業にフォーカスしているつもりはない」と言う。

江原:起業というより、「夢を実現する場」として、みんなのやりたいことができる場所 になる仕組みが整っていけばいいかなと考えているんです。いまやっている「つながり企画 わいわいしゃべるーむ」では、起業まではまだ行かないけれど、やりたいことをみんなで発表してみようという、ゆる〜い感じの場になっていけばいいかなと思ってます。そのうち、べンチャーコンテストに出て資金がつくとか、ほんとにリアルにカタチになっていく場にしたい。それが目指す方向です。

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独自のプログラムを持って、地元の起業家をサポートするイベントは、このツアーでおじゃました各地のコワーキングスペースで活発に行われている。その中でも、事業計画書を作成する前の、まだアイデア段階にいる人たち、いわゆる「起業前」の段階の人たちのために、仲間を作って互いに情報交換する場を催す事例は多い。

ちょっと思い出すだけでも、愛媛のマツヤマンスペースの「起業カフェ」や、福島のco-ba koriyamaの「プチ起業カフェ」、広島のポートインクの「起業’s Bar 」、と、なぜかカフェだったりバーだったりするが、敷居の低い設えが参加者に受けているようだ。ややもすると孤独に陥り頭でっかちになりがちな起業家の、活性化の場でもあり憩いの場でもあることが、コワーキングに求められているのがよく判る。

地元の起業を支援するために、さまざまな助成制度を持つ行政とタイアップするのも有効だろう。江原さんは「コワーキング創業時に県と市の助成金も申請して利用させてもらったので、今度はここから起業する人にもサポートしていきたいし、ここからどんどん出てほしい」と期待をにじませる。

「みんなの夢を実現する場」としての「イイトコ」さんは、夢を持つ者同士が集い知見や情報をシェアしながら着実に歩を進めつつある。最初はふたりではじめたこのコミュニティ、参加者が増えるに連れていずれこの地域になくてはならない存在となるだろう。

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コワーキングスペースiitoco!!(イイトコ)

〒385-0011
長野県 佐久市猿久保26-1
TEL.0267-54-8211

・フリースペース会員: 入会金3,000円 月額10,000円(税抜き)
・法人・団体会員: 入会金3,000円 月額30,000円(税抜き)
・個ブース会員: 入会金3,000円 月額30,000円(税抜き)
・シェア工房会員: 入会金3,000円 月額10,000円(税抜き)
・ドロップイン: 10時〜13時 500円 / 13時〜16時 500円 / 10時〜18時 800円

 

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伊藤富雄

Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など