多彩な利用者をサポートするコワーキングスペース「絆」(千葉県浦安市)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その33回目は、千葉県浦安市の「コワーキングスペース絆(きずな)」さんにおじゃまし、運営者である株式会社ソリューションの野村俊平さんにお話を伺いました。
(取材・テキスト / 伊藤富雄 取材日:2016年9月22日)

コワーキングスペース絆(きずな)
〒279-0002
千葉県浦安市北栄1-1-3 柳内ビル301
TEL.0120-963-138

利用者にはユニークな業種の人たちが

「コワーキングスペース絆」は2011年、元々、パソコン教室としてスタートした。その翌年、2012年の1月にコワーキングとしてオープンしているのだが、奇しくもその年は、東京で「Coworking Conference TOKYO 2012」が6月に開催された年だ。ぼくの記憶では確か500名以上の参加があったと思うが、実はその中に野村さんもいた。

でも、寂しかったですよ。当時、千葉にはうちしかコワーキングがなかったですから。非常に寂しかったです。それに、隅田川を渡ってこっちきたら誰もいないと…。東京にお勤めの方で、住所はこっちでも、みんな秋葉原とか、あの辺に行っちゃうみたいで。

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野村さんは大手国際航空貨物会社でシステム構築に従事していた。在職中から開業したパソコン教室では、主にビデオ講習スタイルを採用していたので、ひととおり終了すると、あらたに受講生を募集しなければならない。

そこで、仕事のための設備機器は整っているので、利用者がパソコン一つ持ってくれば便利に使ってもらえ、継続的に利用してくれると考えたのが、コワーキングスペースを開設したきっかけだ。

コワーキングのことは、その前からネット情報で知っていた。「アメリカでそういうのができて、面白そうだと思ったけれど、当時はまだ会社員だったので、日本にできないのかなと思っていた」という。とすると、時期的にはぼくと同じ頃に情報を得ていたということになる。

そうしてオープンしたコワーキングだが、最初の1~2年は、全然人が来なかった。

当時は会社員だったので、人を雇っていたのですが、「全然人来ません」と言われて、「なんだよそれ」って(笑)。退職して2年目ですけど、やっとですね。
やっぱり自分でやらなきゃだめだなと。自分も関わってコミットしていないとだめですよね。

徐々に利用されるようになってきた、そのユーザー層には他のスペースの例に漏れずIT・ウェブ系、ライター系がおられるようだが、それ以外の利用者の業種がなかなかユニークなので記録しておきたい。

例えば、元プロのサッカー選手で、ロシアやスウェーデンのチームにいたというリベリア人の方。この人は実はサッカーを教えに来日したのだが、日本語が話せないので日本サッカー協会の資格を取れなかったらしく、それで今は英会話を教えている。小柄だがバネがスゴイと野村さんは感心している。

あるいは、高校卒業後、中国で東洋医学の医学部を卒業して帰ってきたという女性。向こう(中国)ではドクターだが、日本ではドクターの資格がない。そこで今はヨガや漢方、薬膳をテーマにしたイベントを「絆」でも行っている。本当は鍼灸もできるが、これまた日本の資格がないということで、できない。だが、さる企業の契約社員をしながら起業準備を着々と進めている。

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もっと面白いところでは、占い師のマネジメントされる方。え?と思われただろうが、本当だ。

占いのイベントをやるんですよ。普通のイベントじゃなくて、占い師さんを養成する講座みたいなのですね。それで、占いができるようになったら、その方がマネジメントしていろんなイベントに連れて行くという、要するに、元締めですね。ときには、有名な先生が来られてセミナーしてますよ。

驚いた。コワーキングで占い師養成講座をやってるとは知らなかった。うちでも、以前、タロット占い講座はやったことはあるが、それはあくまでも個人で楽しむレベルだった。しかし、これもまた起業であることには変わりはない。起業、創業のプラットフォームとして、コワーキングはあらゆる業種の人がうまく使えばいいと思う。

セミナーといえば、小中学生対象で基本的に全部英語でやるプログラミング教室も開講している。また、え?と思われたろう。

プログラミング教室なんですけど、基本的には全部英語でやるんですよ。小中学生対象に。最初はコーダー道場とかかなと思ってたんですが、そうじゃなくて、最初から英語で教える、と。「英語で大丈夫ですか?」って訊いたら、「大丈夫、大丈夫」って(笑)。

それでどうなったのかというと、実際に大丈夫らしいから面白い。習うより慣れろと言うが、まさにそれだろう。相手が子供さんというのもポイントかもしれない。頭が柔らかい分、吸収力もある。よく考えると、プログラミングと英語と両方学べるわけだから、こんなお得な話はない。

子供向けといえば、スクラッチの発表会もやったことがあるそうだ。これには50人が参加したが、父兄は他の部屋でモニターを見るという趣向で、子供向けのスクラッチ教本で有名な阿部和広氏も来られた。ちなみに、簡単スクラッチ教室は野村さんが行っている。これは無料だ。

他に、AWSの管理を個人で受託している方がAWSの使い方をテーマにセミナーしたり、ペットの食育セミナーなどもある。世の中にはさまざまな職業があることを思い知らされる。

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街のIT相談室として利用者をサポート

イベントだけではなく、「絆」の利用者から仕事案件が生まれるという相乗効果もある。

例えば、日本仲人連盟に入っている人がおられて、結婚相談所を女性お二人でやっているんですね。そこのホームページの更新作業を、私の友人でWordPressの得意な方がおられるので、その人に安くしていただいてもらって。
私が答えられるところはお答えしますし、知り合いでもIT系の方がいるので、その人に振った方がいい場合は、そちらにお願いします。

こうした、IT・ウェブに詳しくない人はたくさんおられる。そういう時、コワーキングに相談に行ってみれば、対応できるプロが大概いる。前述の英会話教室のウェブサイトも野村さんの仕事だ。

以前、ここを使っていた人が、ブログなどのウェブメディアを運営してくれる人を探してて、その当時、何をやっておられるのか知らなかったんですが、よく聞いたら、秋葉原のメイドカフェのツアーしているんですよね。で、ブラジルとか、台湾とか、アルゼンチンとか、海外にも行くんだそうで、もう手一杯なので、ライターさんいませんか、と。すごくおもしろいですよね(笑)。

「皆さんITは弱いので、そんなところにかけている時間があるのなら、本業をしっかりやってもらって、私がバックアップしますよ」というスタイルだ。

何でも屋さんですね。ネットワークがおかしいからといって見に行ったり、メール受信ができないから見てくれと来たり、パソコンの調子が悪いから直してくれと持って来たり。

まさに、街のIT相談室だ。案外こういう細かい部分に、きっかけになる仕事はあったりする。そこから継続的にサポートする関係ができていく。フリーランサーの中には、一度きりの取引きのほうを好む人もいるが、継続して収益を得られるサポート業務は、もちろん経済的に安定するし、そこからの紹介で新規の仕事を得ることにもつながる。

こういうスペースを使いたい人が果たしているのかな、と最初のうちはちょっと疑問に思ったんですけど、今みたいに人がつながってくると、面白いもので誰かのご友人が、その誰かを経由してITの質問に来られたり、会場使わせてくださいと来られたりで。そういうのが増えてきたり。私個人としては、利用される方と仕事を依頼する人をつなげるというのもひとつの役割だと思っています。むしろ、そっちの方が大きいと思います。なるべくここにいろんな人に来てもらって、そこでつながる、新しい出会いが生まれる、そこでまたつながっていくと。

おっしゃる通り、人の縁をつなぐのもコワーキングのいいところだ。ただ、そういう認知を得るまでには、やはり時間はかかる。その間、いかに持ちこたえるか、これは地方都市のコワーキングに共通する課題でもある。

実際のところ、野村さんとしては、そのへんどうなのだろう。不躾だが訊いてみた。

コワーキングの運営は楽しいですけど、経営的にはペイはしていないですね。私がやっているIT系のサポートですとか、他の企業とやっている仕事とか、それらを併せてなんとかなっていますけど。コワーキングだけで、やっていけたらいいんですが。

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地元のつながりありきを目指す

今後、「絆」として、やっていきたいことはなんだろうか。

特に大きなプランは考えてはいないのですが、浦安という地場にはいろいろな人がいますので、その人たちとのコラボを増やしていきたいですね。地域の人を取り込もうかなと。
他の地域の人たちとつながる前に、地元の人がいないと話にならないなと。だんだん広がりつつあるので、もっと強化するイベントをやろうかなと思っています。

やっぱりそこか、と思った。まずは地元でのつながりに関わること。これは実はぼくもこうして地方を回ってみて、あらためて気付かされたことだ。

ローカルでタイトなつながりをまず作る。できれば、その中で互いに能力を寄せ合って誰かの役に立つ。もちろん、そこに仕事が発生する。それがまた、地域の課題解決にもつながるかもしれない。まさに、PBC(Public Benefit Corporatin)としてコワーキングがプラットフォームになりえる。

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その上で、外部のコワーキングともつながっていく、連携していく。

千葉市から委託されて、起業コンサルをしている中小企業診断士の方がいるんですが、その方、山口県出身なんですよ。で、山口のコワーキングスペースと連携して、クラウドソーシングのセミナーなんかもやってます。
他のスペースさんとの連携は、興味はあるけど今まであまりできていないから、できればやっていきたいですね。

少ない人数でスペースの運営をしていると、そうそう出かけられないものだ。それはぼくもよく知っている。でも、それではダメだと思って始めたのが、このコワーキングツアーだ。全国各地を訪ねてみて、本当にたくさんの人に出会い、たくさんのことを教えられる。すべて、財産だ。

「利用者の方があちこち行かれてますけどね」と野村さんは朗らかに笑った。そう、本当はコワーカーが移働すべきなのだ。移働することで、自分につながる人をコトをたくさんリソースにしていく。そのハブになるのがコワーキングなのだから。

なお、取材当日はBBQパーティを催していただきご馳走になった。野村さん、有難うございました。

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コワーキングスペース絆(きずな)

〒279-0002
千葉県浦安市北栄1-1-3 柳内ビル301
TEL.0120-963-138

・ドロップイン 2時間500円 1日1,000円
・月額会員 フル会員 12,000円 / 月 ハーフ会員 8,000円 / 月に10日まで

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伊藤富雄
Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など