復興の中、スタートアップのシードを担うコワーキング「未来会議室」(熊本県熊本市)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その22回目は、熊本県熊本市の「未来会議室」さんにおじゃまし、運営者である一般社団法人 未来会議室の小畑亨介さんにお話を伺いました。
(取材・テキスト / 伊藤富雄 取材日:2016年7月25日)

未来会議室
〒860-0807 熊本県熊本市中央区下通1-12-27 CORE21 下通ビル5F
TEL.096-356-0120

宇宙をも変えるイノベーションを起こす人達のために

2016年4月14日21時26分、熊本県熊本地方を震央とする地震が発生し、熊本県益城町で震度7を観測した。その翌々日の16日未明、またも震度7の地震が発生し、相次ぐ震災に熊本県および大分県は甚大な被害を被った。
地震と聞いて神戸在住のぼくは、1995年の阪神淡路大震災を思い起こさずにはいられないが、今回の地震はそれと同じ規模の大地震であり、その後、4ヶ月を経過してもまだ震度5弱以上の余震が続く。実は、取材中もかすかな揺れを感じた。
熊本市内は比較的軽微だったとはいうものの、「未来会議室」の入居するビルも被災し、天井が落ちてスプリンクラーが破損したため、ライブラリーとして蔵書していた本の大部分が水没するなど、通常の営業はとてもできる状態ではなかった。

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その復旧作業と断続的に続く余震を考慮して、「未来会議室」は5月末まで閉鎖した。そして、ようやく一段落ついた6月に1ヶ月間無料開放した後、7月に営業を再開した。この報を受けてコワーキングツアーVol.5として7月25日におじゃました。
なお、「未来会議室」での取材の翌日、「いま、熊本にコワーキングができることは何か」をテーマに、各地から熊本に集った人たちが地元熊本の人たちと一日の体験を共有することでそのきっかけをつかもうという趣旨のイベントも行った。その様子は、こちらに掲載しているので、ぜひ参照願いたい。
「いま、熊本にコワーキングができること」、その事始め

「未来会議室」のオープンは2014年11月23日だが、発案したのは、地元熊本に多数のパチンコ店を擁する21世紀グループという遊技事業会社の役員である三井さんだ。同社は、パチンコ事業以外に、紅茶の輸入販売や不動産も手がける大手企業だが、今回の震災で閉店を余儀なくされた店舗もいくつかある。
その企業の役員が、持ちビルであるとは言うものの、なぜまた新しい事業としてコワーキングスペースを始めたのか。例えば、普通にテナントビルにするとか、シェアオフィスだとか、あるいはいっそネットカフェでもよかったのではないのか。いや、むしろ、そのほうが本業との親和性も高いだろう。
はっきり言って、コワーキングは不動産事業としてはたいして儲かるビジネスではない。そのへんは、大規模なスペースで事業されている企業だけに、よくご存知だったはずだ。その疑問に対する小畑さんの答えは「企業じゃなくて、三井の想いですね」だった。

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ここ熊本には、自宅オフィスやカフェに閉じこもりがちなIT起業家やフリーランサーたちが、互いに刺激し合い相乗効果を得る場所がない。メンバー同士のコミュニティ作りを通して、人的交流の促進や多様なコラボレーションを生み出すことが必要だ。それを「未来会議室」がやる、という熱い想い。それは「未来会議室」のサイトに企業理念として掲げられている。少し長いが、一部引用する。

イノベーションはどのようにして生まれるのか?
未来会議室の創業の原点はこの問いかけから始まりました。 IT技術やモバイル機器の発達により今やあらゆる場所で情報は取れるし遠隔地でも仕事ができる。もはや世界の最先端を知ったり、起業したり、イノベーションを起こすのに決まった場所は必要ない時代がやってきたのか!?。けっして私たちはそうは思いません。 どんなに離れた場所の人同士でも仕事ができるいまだからこそ、さまざまな人と人がリアルに共有する空間が必要であり、多くの人と直接対面で議論する事で生まれるアイデアがビジネスに大きな影響を与えるのです。

そして、

私たち未来会議室は「世界を変えたい」とまじめに思い、必ずそれを「成し遂げられる」という情熱を持った人達が集う場であり、どんなに奇想天外なアイデアでも「やってみよう」「それおもしろいね」とみんなで言い合えるような、リスクを恐れない起業家精神豊かな場所でありたいと願っています。

とし、小さくても仕事や生活にイノベーションを起こし、やがては国も世界も宇宙をも変えようと、高らかに宣言している。
正直言って、ここまで大局観に立ってしっかりと理念を掲げているコワーキングは、そう多くはない。それはまた、「今、閉塞感を感じている九州・熊本の多くの人々」を目の当たりにしている者の危機感の現れでもあるのだろう。その赤裸々な想いのほとばしりに熱いものがこみ上げる。
ちなみに、名刺の裏にはこういうデザインが施されている。

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バラバラにいるのではなくて集まってもっとエンパワーすれば、「未来を動かすテコになる」。実にわかり易い。
小畑さんは「未来会議室」に入社する前、しばらく東京で放送チャンネルを監視するシステム関係の仕事をしていた。

でも、その仕事を一生続けるのか自問したら「NO」だったんです。それで、熊本に帰ってきて、この会社のウェブデザイナー募集を知って応募しました。ホントは、ウェブデザイナー兼コワーキングスペース運営だったんですけど。もちろん、当時、コワーキングのことは何も知りませんでした。

ただ、面接の前に『つながりの仕事術~「コワーキング」を始めよう』だけは読んでいたそうだ。それに続いて、ぼくらが日本語のコワーキング関係の情報誌として制作した『コワーキングマガジンVol.1 』の発刊は、「未来会議室」のちょうどオープンの頃なので、むろんこの時点では小畑さんは知る由もない。

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実は同社は、「未来会議室」のオープンに向けて1年以上前から周到に準備を進めていた。このプロジェクトに関わったのは、スペースのデザイン面では自社でもコワーキングスペースを運営し、全国にそのネットワークを広げつつある株式会社ツクルバであり、全体のコンサルティング面ではDHE株式会社が担当した。その間、アメリカのコワーキングスペースをいくつも訪れ、構想に磨きをかけたというからその意気込みはスゴイ。
個人的には、その1年間でどういう議論が交わされて、どれだけのプランが創案され、どう決定に至ったかに非常に興味があったが、当時の担当者がすでにいないため残念ながらそれは聞けなかった。小畑さんが改装現場に入ったのがオープン1ヶ月前で、その時点ではまだスケルトンに近かったらしいから、そこからのわずか1ヶ月でそれまでの1年間に練り上げられたアイデアがギューッとつめ込まれたのかと思うと、やはりそのお話は聞きたかった。
ただ、その原点にあるのは、前掲の企業理念だ。あくまでコミュニティの構築を軸に社会を変えようとする、そのためのスペースたろうとしたことは間違いない。

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スタートアップに出資するコワーキング

「未来会議室」は、しかし、ただスペースをオープンしただけではなかった。その理念を実現するための次のプログラムをすでに起動していた。ハコではなく、コトを起こしていた。

実はうちでは、”MIRAI Seed Acceleration Program”という起業家支援活動をしてるんです。地域の抱える課題を解決するアイデアや有望なビジネスプランを募集して、うちは資金提供やメンタリングやコミュニティ、それにもちろんここのスペースも提供しています。

その第1回めの公募は昨年の5月に始まり、10社が応募した。
コワーキングスペースが、地域課題の解決に加担する事例としては、小倉の「秘密基地」のローカルクラウドファンディングや、いわきの「TATAKIAGE JAPAN」の浜魂などがすぐに頭に浮かぶが、スペース自体がスタートアップの出資者になるケースは、首都圏を別にすればまだあまりないのではないだろうか。
起業・創業の補助金制度に絡んでセミナーの会場になったり、あるいは起業家が集うコミュニティでそのアイデアをブラッシュアップすることは、特に地方ではよくあるが、それとこれとはわけが違う。
ちなみに、「未来会議室」から出資を受けている会社としては、スマートフォンを片手で振るだけでニュースを見ることができるユニークなアプリ「フリッシュ」を開発しているパルメクス株式会社がある。
出資といえば、郡山では「再生を目指す起業家を支援する国内初のファンド」として、一度、会社経営に失敗した人たちが応募できるファンド、その名も「福活ファンド」があり、そのことはここでも書いた。これは、郡山市と福島銀行がバックアップしていて、郡山のコワーキングスペース「co-ba kooriyama」は、間接的にこれにも関わっている。
その話を小畑さんにしたのは7月だったが、9月には「熊本ミライカイギ」と銘打って「地方独立系VCが語る、逆境から生まれるベンチャー論」を戦わせるイベントが開催される。そこには、「福活ファンド」の創設者である竹井智宏氏も出席される。
してみると、そろそろ地方のコワーキングも、ローカルでの起業家に対してさらに深く積極的に関わっていくフェイズなのかもしれない。特に、事業資金に関してはクラウドファンディングや行政との連携も含めて、各地各様に実行されていく気配を感じる。

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コワーキングの本質は、やっぱりドロップイン

スタッフとして現場に入られて、さてどうだったのだろう。

最初始めた時は月額会員は少しずつ増えるんですけど、ドロップインは非常に少なくて、閑散としていました。なので、とりあえずドロップインを増やそうというシフトにチェンジしました。

(伊藤:普通は月額会員を先に増やそうとしますよね?)

ええ、でも、ドロップインから月額会員につながるので、まず知ってもらうのが一番だと思いました。コワーキングスペースに対する認知度は、熊本では1%以下だったので。

熊本どころか、東京以外はきっと今でも1%以下だろう。認知度を上げるために、「うちに興味がありそうな起業家精神を持ってる方や、コミュニティを作りたい人たちにリーチしよう」という目的で、崇城大学SCB放送局にチラシを置かせてもらったり、Facebookページのファンづくりをしたり、ありとあらゆることをしたが、「結構、集客には今も苦戦してます」と語る。
実はドロップインを増やすという課題は、「未来会議室」に限らず東京でもその例に漏れていないスペースがあるという観測もあり、それどころか、コワーキングをテーマにしたドイツのウェブメディア”Deskmag”のリポートでも、世界的に利用者がひとつのスペースに定着しつつあり「由々しきことだ」と報告している。

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スペース側にすれば、月あたりの固定的な売上が確保されるわけだから経営上は喜ばしいことだと思うかもしれない。だが、コワーキングは、まだまだ発展途上、どころか始まったばかりであり、今後、加速度的に拡大する可能性を秘めている。
それには、もっとコワーカーの流動性を促し、彼らが移動することでどこの地域でもコワーキングが機能するようになる、そういう状況を作らねばならない。つまり、スペースが個々に利用者を囲い込むのではなく、いまはまだこの社会全体でコワーカーを育む段階なのだ。
まして、コワーキングはさまざまな人が交差するコミュニティであって、そこでスパークすることが社会の大なり小なりのエンジンになって動くためにあるわけだから、その実現を阻むような風潮には注意が必要だ。
コワーカーが移動し、コワーキングを自由に活用することで、コワーキングを必要とする社会が生まれ育っていく。コワーカーの流動性が失われるのは長い目で見た時、業界(という言葉は好まないが)にとっても、もちろんコワーカーにとっても、不利益であり損失だ。

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スタートアップ系のイベントが目白押し

コミュニティを作るためにどこのコワーキングでもイベント開催に知恵を絞っているが、「未来会議室」ではどうだろうか。

クラウドファンディング系のセミナーが多いですね。日本政策金融公庫と提携して、創業支援の相談会を毎月一回水曜日に開催しています。4名が2時間で個別相談を受けられるものですが、先日も月額会員さんが独立したので相談されてました。
その他、去年だけで200近くのイベントをやっていますが、イベントは月額会員につながる手段と考えています。

中でも、プログラミングやスタートアップに対する関心は、やはり強いようだ。

うちもCoderDojoに似たようなことをやってまして、ハッカデミーという団体がスタートアップ系のイベントをやってるんですが、そこでキッズプログラミングやスタートアップウィークエンドというのもやっています。今度は9月にうちでやります。こういう趣旨のイベントは、うちでもどんどん進めていきたいので無料で会場を提供しています。初日は17時からですが2日目からは終日です。これって、日本中でやっていますけれど、スタートアップ系のイベントには絡んでいきたいと思っています。

イベントといえば、飲食が絡むと、より参加者間が親密になる効果があるが、幸いなことに「未来会議室」にはオープンキッチンがある。キッチンのあることのアドバンテージはいくら強調してもし過ぎることはない。

キッチンは、イベントの時にも利用できます。震災前には、参加者から寄付を募る形で主婦の方が作られたカレーをみんなでいただく「カルマキッチン」というイベントもやりました。8月にはご飯だけ用意しておかずを持ち寄る会を開催予定です。(※注 結局、料理も供することになった)ここは、アルコールもOKなので、いろいろ使えますね。

スペースによっては、お昼になれば全員で外にランチに出かけるところもある。あるいは、スペースがメニューを用意して注文を取るところもある。
昼ではなくて、夜に開催すればしたで、結構盛り上がる。カレーだったり、たこ焼きだったり、手打ちうどんだったり、餃子だったり、メニューはさまざまだが、いずれにしろ、一緒に食べたり呑んだりすることで、人が互いを知り合える。キッチンがあれば、作るところから楽しめる。それを利用しない手はない。

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アライアンス制度があるコワーキング

利用者層としては、やはりウェブ系が多いのだろうか。

初期のころはデザイナーが多かったですね。Webやグラフィックのデザイナーです。今では(震災後に)入れ替えがあって、例えばシェアハウスを経営されてる方なんかもおられます。うちは登記ができるので、事務所として使っておられます。あとは、元IT系でセミナー講師を始められたり、アンガーマネージメントの方とか、3D関係の方とか。あ、ライターさんもおられますね。それ以外では、勉強に使われる方が多いですね。土日だとドロップインの学生さんが増えるんです。基本的には、平日は仕事系で、土日は勉強系という感じです。

もちろん、学生はコワーキングのなんたるかは判っていない。いわば自習室として使っているだけだ。最近では、高校生はおろか、中学生までが使っている。その中から起業する人が出てきたら面白い。いまや、そういう時代だ。

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見ると、会議室でスーツ姿の人たちが会議中だった。そういう利用は多いのだろうか。

おしゃれな所で会議しませんか?空気を変えませんか?とうたって宣伝しているから、よくご利用になります。今日、利用されているのはアライアンスを組んでる企業さまで、月極で利用されている企業ですけど。

アライアンス?そう、「未来会議室」には、一口いくらで支援いただくアライアンス制度があり、地元企業や大学が名を連ねている。ここの利用者が会社設立などした場合、アライアンス企業からのサポートもあるそうだ。
地方のコワーキングを取り巻く環境のうち、もっとも重要な要素のひとつが地元企業の存在だ。起業するにしろ、受託するにしろ、コワーカー(フリーランサーおよびスモールカンパニー)がローカル経済の活性化に貢献し、かつ、業績を上げる方法として、地元企業とのコラボレーションが欠かせない。
もちろん、グループ企業の地元における長年の実績の賜物だろうが、実は企業の方もあらたなアライアンスによってなんらかのイノベーションを起こすべく、その機会を窺っている。そういう意味で、平生からコワーキングが企業へのパイプ役を担っているのは、大変、都合が良い。

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コワーキングを人生の踏み台にしよう

小畑さん自信としては、この仕事はどうなのだろう、楽しいのだろうか?

大変ですけど楽しいです。一つのことをずっとやるわけではなく、毎日いろんな方と出会って、つながりが生まれて、いろんな要望があったり、こんなことやりませんか、という話になったりするので。東京で働いてた頃よりも、刺激というか、どんどん知識が増えていきます。いろんな会社の人が訪ねて来て、いろんな方の話を聞くからですね。それは、自分の目指してるITの分野だったり、それ以外の分野だったりしますけど、そういう意味では恵まれていると思います。

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そして、「仲間になる仕組みを作るのが自分の課題」と小畑さんは言う。それができれば、結果は自ずとついてくる、と。

ずっとこれは課題です。正解というかゴールがない。自分の課題というより、コワーキング全体の課題だと思いますけどね。

そう、まさにそのとおりだ。ゴールはない。コワーキングは生き物だから、ずっとやり続けるしかない。
最後にPRをどうぞ、と言ったら、

震災の影響で個人事業を辞める方がいらっしゃるんですよ。シェアオフィスを退去してる人もいるんですけど、ぜひコワーキングスペースを復活の場として利用してほしいと思います。月額9000円なので、ここからもう一度はじめてほしいです。

そして、「ここにかぎらず、どこか他のコワーキングでもいいので、再開してほしいんですけどね」と付け加えた。もう、自分事なのだ。熊本地震の復興が遅々として進まないという声も聞こえる中、小畑さんはコワーキングの果たす役割が何かをしっかり認識している。
「コワーキングスペースを人生の踏み台にしてくれればいい。スタートアップのシードとして」。最後にそう言って、小畑さんはにっこり笑った。

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未来会議室

〒860-0807 熊本県熊本市中央区下通1-12-27 CORE21 下通ビル5F
TEL.096-356-0120

・ドロップイン 最初の1時間 / ¥300 以降30分ごと / ¥200 ※最大料金¥1,500/1日
・ドロップイン学割
 最初の1時間 / ¥150 以降30分ごと / ¥100 ※最大料金¥750/1日
・マンスリーチケット会員
 ¥15,000/月 ※1ヶ月から利用可能
・マンスリーチケット会員(学割)
 ¥12,000/月 ※1ヶ月から利用可能
・月額会員(フリー席) 
 ¥9,000/月
・月額会員(固定席A)
 ¥18,000/月
・月額会員(固定席B)
 ¥15,000/月
・月額会員(法人団体)
 1口¥20,000/月(同時に入室できる人数を追加する場合はお一人当たり¥15,000/月)
※すべて利用時間は、09時00分~23時00分 (22時00分最終入場)

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伊藤富雄
Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など