社長だらけの街で能動的につながる場を目指す「Ha-Lappa Coworking Space」(広島県福山市)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その21回目は、広島県福山市の「Ha-Lappa Coworking Space」さんにおじゃまし、運営者である株式会社フューレックの延岡英憲さんにお話を伺いました。
(取材・テキスト / 伊藤富雄 取材日:2016年6月22日)

Ha-Lappa Coworking Space
〒720-0062 広島県福山市伏見町4-33 藤本ビル1F
TEL.084-959-5000

つながる広島のコワーキング

「Ha-Lappa Coworking Space」(以下、「Ha-Lappa」)を運営する株式会社フューレックのメイン事業は映画館の経営であり、「Ha-Lappa」が入居するビル自体が映画館だ。その1階にあるここはもともとコンビニだったが、その事業転換を検討している時、延岡さんが偶然見つけて読んだのが、コワーキングについてはじめて日本語で書かれた新書『つながりの仕事術~「コワーキング」を始めよう』だった(残念ながら、現在絶版)。

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地方都市の駅前で、電源カフェみたいなスポットがビジネスマン向けに需要があるのではないかと考えていた延岡さんは「これは面白い」と感じ、すぐさま著者の佐谷恭氏が運営するPAX Coworkingを訪ねて、コワーキングの可能性を確信する。福山に帰って企画書を書き、コンビニ跡の事業として承認を得た。同社の社長もこの本を読んでコワーキングの可能性を感じ、いくつかのコワーキングを自ら見学して回ったそうだ。そうして、2014年7月31日に「Ha-Lappa」はオープンする。

最初からコワーキングの運営には違和感はなかったですね。ぼくはもともと宣伝部門で広告の企画制作をしたり、イベントを打ったりしてるんですけれど、コワーキングならぼくらも事務所として使えるし、変な言い方すると、ぼくらの事務所を誰かに開放して、それでお金が発生するんだ、みたいな感覚でいました。

それまで、広島にはコワーキングはなかった。興味深いことに、「Ha-Lappa」のオープン時にフューチャーセッションのイベントを行ったが、その際にやってきたのが、当時、フューチャーセンター広島にいた市川育夢さんであり、後年、彼は広島市内に「Shakehands」を開業する。延岡さんと市川さんはそれ以来の付き合いで、ぼくが今回、「Ha-Lappa」を訪れたのも、実は市川さんの推薦があったからだ。
また、「Ha-Lappa」では、同じく広島市内の「ポートインク」が企画する9月のイベントにも会場提供として協力関係にある。こうして、地方のコワーキングがなんらかのつながりを持ち、相互に連携できる体制を作っておくのは、コワーカーの流動性を促進するためにもとても重要な事だとぼくは考えている。
なお、そのフューチャーセッションに絡むイベントは年に3回ぐらい開催している。

やってみたら面白くて、その関係で『里山資本主義』の藻谷浩介さんを紹介してもらって仲良くなって。年に3回、手弁当で来てくれるようになって、彼と郊外に出ていろんなイベントやったりとかしています。鞆の浦では、里山じゃなくて里海を考えようとか。

そう、フューチャーセッションは、地域の課題をみんなで考える時に非常に効果的だ。小倉の「秘密基地」でもよく開催しているし、先日は震災後の熊本を考えるというテーマで「未来会議室」で我々もやってきた。

フューチャーセッションのテーマとコワーキングって結構マッチするんですよね。新しい働き方とか、100年後の福山とか、そういうテーマでみんなでディスカッションすると、結構わかりやすい。しかも、こういう会議室じゃない、オープンなところで、セッションとしてやるってのはすごく合うんです。

そして、そのなかで各自のビジネスが地域の課題解決に貢献するというシーンを迎えたりする。プレゼンターがバラバラに事業プランをピッチするよりも、ひとつのテーマに対して自分がどうコミットできるかを共同で考える場を作ったほうが、確かにコワーキング的だ。

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孤独を解消するのもコワーキングの役目

「Ha-Lappa」の営業時間は、当初、9時〜21時だったが、主に勉強目的でコワーキングを利用する人たちから、もっと早い時間帯での利用を望む声が上がる。そこで新たに設けられたメンバーシップがスタディ・メンバーで、なんと朝4時から利用可能だ。

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一方、起業準備の利用者もいるのだろうと思いきや、「いや、ここは田舎なので起業準備するというより、もう一気に起業するんです、それができるんです」と、延岡さんは言う。

福山市って社長だらけなんですよ。石を投げたら社長にあたるっていうぐらい(笑)。そういう気質なんでしょうか、起業精神は旺盛ですね。大企業がないので、だから自分でやるという気風なのかもしれません。
就職する場合も、いずれ自分が起業するときのためのステップとして考えている人が多いですよ。さる起業家団体の中でも福山は全国でトップクラスに多いと聞きますし。コワーキングスペースって月10,800円とかで、料金としては安いんですけど、それでもやっぱり自分で旗を掲げてやるという人が多い。一気に行っちゃいますね。
なので、案外、起業準備という人の利用は思ったより少ないですね。

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では、会社員の利用はどうなのだろう。

普通に会社のオフィスとして使う人はいますよ。製薬会社にお勤めだけど支店がなくて、各々が散らばっている人たちとか。それと、東京の会社に勤められてて、いわゆるリモートワークしている人も。
ここんとこ、そういう働き方になってきましたね。自宅はダメですよね、メリハリなくて。ここへ来れば知り合いはいるし、なにか困ったら、聞けば教えてくれるし。そういう使い方が一番多いかなぁ。

そう、ホームオフィスにはさまざまなデメリットがある。フリーランサーは気楽だと思われがちだが、長時間ひとりで仕事していると、課題を抱えたままだれにも相談できずに孤独を感じたり、正常な思考回路が働かなくなったり、またそのことを悩んだりと、特に精神面で辛い場合が多い。ぼくもしばらく自宅で仕事していた時期があったが、必ずしも生産性が良かったとは言えない。
コワーキングはそれを解消してくれる絶好のスキームだ。こう言うと、コワーキングをただの「作業場所」としてしか利用していない人は怪訝に思うだろうが、コワーキングは本来コミュニティとして利用者を受け入れている(はずな)ので、その機能を利用しないのはもったいない。そもそも、人はだれかと繋がっていなければ生きていけないのだから。

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映画にまつわるイベント群

その他に「Ha-Lappa」では、ウェブデザイナーやEコマース関連の方、銀行関係や証券関係、また昇進試験や資格試験のある方の利用が多い。中には、ミーティングルームでマッサージの施術をする方も2組おられたり、マンツーマンの家庭教師もおられる。いわば、パブリックな場であることが好感されているようで、「うちでは個室はもう少し増やしたいですね」と延岡さんは言う。

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母体が映画館だから映像関係の方もおられるのかと思ったら案の定で、「Ha-Lappa」では映像に絡めたイベントを数多く開催している。面白いところでは、こんなのもある。

劇場でプロポーズ大作戦やりましたよ。映像作品を作って、予告編まで作って、それを映画館で流したんです。そこへ男性が入ってきて女の子にプロポーズするんです。結果は大成功でしたよ。思わず泣いてしまいました。

監督をお呼びしてティーチインするなど、映画館ならではの催しもあれば、映像技術を学ぶセミナーやワークショップも精力的に行っている。また、スマホで短編映画を撮るといったイベントもあり、これなんかは、他のコワーキングでやってもいいかもしれない。

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これからは、映画館で映画を観てもらって、その後、ここで参加者みんなでワイワイ語り合う会をやろうと思ってるんです。2ヶ月に一回ぐらい、ローカルのアナウンサーが選んだ映画を観る、という趣向で。裏話なんかも含めて、その映画についてしゃべり倒すんです。きっと、面白いと思いますよ。

面白いに違いない。それこそ、映画館の系列にあるコワーキングだからこそできる技で、もはや羨ましいとしか言いようがない。
余談だが、全国のコワーキングに毎月一本ずつ光回線で映像作品を配信し、製作者を交えてのトークセッションもやろう、という企画があり、コワーキング協同組合が関わることになりそうだ。詳しくはあらためてご案内するので、スペース運営の方々はぜひご参加いただきたい。
ところで、映画で思い出したのだが、ダニエル・ピンクが書いた名著、『フリーエージェント社会の到来』では、これからはプロジェクトチームで仕事をするのが当たり前になるとあって、その判りやすい例として映画製作のプロセスを引用している。
映画には、原作、脚本、監督、カメラ、美術、照明、音声、その他、さまざまなプロフェッショナルが集結して作品に取り組む。つまり、プロジェクトチームだ。彼はこれを「ハリウッド方式」と言っているが、ハリウッドに限らず世界中、どこでも同じだろう。この話をすると、延岡さんは「登山のパーティにも似ていますね。過酷だが最後まで頑張ろう。で、登頂したら、やった〜って」と笑った。

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やっぱり、究極のテーマはつながり

「Ha-Lappa」の今後の課題について、延岡さんはこう考えている。

結局、みんな、つながりたいという願望はあるので、そこをうまくコーディネートできるような切り口を見つけないといけないなと思ってます。今はなんとなく偶然知り合って仲良くなってるんだけど、もうちょっとこっちから仕掛けていくような仕組みは作っておきたいなと。じゃなかったら、地方だったら家賃も安いので、仕事場なんて自分でできるので。
言い換えると場所だけの問題ではないってことですね。そこはやっぱり、「つながり」になってくると思うんです。それができないと、(コワーキングの)意味がないじゃないですか。自分だけのつながりが増えてもねぇ…。

それはコワーキングの究極の命題であり、終わりのない問いだが、それがなければコワーキングにならない。「そうそう、そのためにあるんですもんね、じゃなかったらシェアオフィスでいいんで」と、延岡さんも頷く。
「能動的につながることをしないといけない」という延岡さんは、その後、「みんな、寂しいんだよ」と言葉を継いだ。その、柔らかく温かい視点が、「Ha-Lappa」のこれからを導くに違いない。

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Ha-Lappa Coworking Space

〒720-0062 広島県福山市伏見町4-33 藤本ビル1F
TEL.084-959-5000

・ドロップイン 2時間 540円 1日 1,080円
・フルタイム 16,200/月
・デイタイム(平日 9:00~18:00) 10,800/月
・ナイト&ホリデー(平日 17:00~21:00 土日祝 9:00~21:00) 10,800/月
・スタディー(4:00~10:00 or 6:00~24:00) 5,400/月

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伊藤富雄

Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など