SOHOから始まった「あったらいいな」をカタチにする「SO@R Coworkin’(ソアラ・コワーキング)」(広島)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その19回目は、広島市の「SO@R Coworkin’(ソアラ・コワーキング)」さんにおじゃまし、運営者である株式会社 ソアラサービスの代表取締役牛来千鶴さんにお話を伺いました。
(取材・テキスト / 伊藤富雄 取材日:2016年6月21日)

SO@R Coworkin’(ソアラ・コワーキング)
〒730-0803 広島市中区広瀬北町3−11 和光広瀬ビル
SO@R ビジネスポート 4階
TEL.082-532-5662

SOHOから交流会、そして共同オフィスへ

SO@R Coworkin’(ソアラ・コワーキング)(以下、SO@R)の歴史は長い。牛来(ごらい)さんは、6年間の専業主婦業を経て企画会社に勤務した後、1999年、販促プランナーとして独立した。実はその企画会社でマーケティングの手法を学んだことが、後年大きく効果をもたらすのだがそのことはあとで書こう。 

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1999年に起業したんですけど、家でひとりで仕事していてはダメだと気づきました。情報が偏るんですよね、自分が得たいと思ってる情報しか入ってこない。でもそこに、他の人がいると思いもしない情報が飛び交うんですよね。それが大事だなと。
自分みたいに独立した人たちが集まって気軽に本音を喋ったりできて、そしてそこに情報がさまざまな飛び交う、要は人と情報が集まる場所が絶対必要と考えてました。

そうして、SOHOならではの悩みや課題を共有する場があれば、みんなに役立つだろうと思い、SOHOのための交流会を起ち上げた。2000年のことで、場所は今入居しているビルとは別のオフィスビルだった。「広島SOHO’s クラブ」といい、月に一回のペースで交流会を開いていたが、当初から50〜60人が集まった。

今でも忘れられない言葉があるんです。2000年頃から課金制で占いサイトをやってた人が、「ここ2ヶ月、家族以外と話をしていなかった」と言ったんですよね。「今日はすごくよかった、元気になった」って帰って行ったんです。こういう人がひとりでもいるのなら、続けていこうと思いました。

普段、自宅で仕事するのが当たり前だと思っている人も、ここへ来ると「よかった」と言ってくれる。これほどの励みはなかったろう。と同時に、そういうニーズは誰しもが持っている、潜在しているという気付きでもあった。みんな、求めているのだと。
「自分の繋がりたい仲間たちと本音を言い合えるような、人と情報が集まるところとして異業種交流会としてスタートした」この会は、その後、どんどん参加者を増やし、いまでは、スタイルを変えながら延べ8,000人規模にまで成長している。言うまでもなく広島最大規模だ。

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当時、交流会に参加するのは、すでに事業を起こしている人がほとんどだったが、そのうち、その交流の場をいっそ共同のオフィスにすることを思い立ち、賛同する10名とスタートさせたのが「広島SOHO’s オフィス 」であり、これが現在のSO@Rビジネスポートの前身だ。

部屋はたった30坪で、資金もわずか20万円しかなくて、ベニヤ板とペンキを買ってきて、それでパーテーションを作って10個ほど立てたんですけど、ベニヤって高いんですね、それで資金の半分がなくなって(笑)。あとはコンセントとネット回線を引いてスタートしました。

当時、インキュベーションという言葉を聞くようになっていた。実際、牛来さんは横浜にも見学に行っている。だが、そもそもインキュベーション施設にするつもりはなかった。だから、共同オフィスと名乗った。

当時いろいろ取材が来て、「インキュベーションですよね?」と訊かれました。でも、インキュベーションじゃないんです。5年間で卒業するわけでもないし、すごい起業家を育てるわけでもないし。そうではなくて、私も起業したばっかりだし、自宅で一年やったんですけど、やっぱり情報が必要だなと。自分もそういう場所が必要だったんです。

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この感覚はよく判る。ぼくもまったく同じ経路を辿ってコワーキングに至っているからだ。ひとりカンパニーで起業した。さまざまな人との交流の場として勉強会を続けていた。そうこうするうちに、そのための場所があったほうがいいということに気づく。自分にとって必要だった、それが一番の動機であり、その環境を維持していく根拠でもある。

声をかけたらスゴイ風変わりな10人が集まったんですけど(笑)、そこで交流会やったりしてました。そこへ、それぞれを訪ねて人が集まってくるので、真ん中に普通の長机を4本置いて椅子を並べて、人が来たらそこに座ってなんだかんだとしゃべるような、そういう環境でした。

要するに、その10名がこのコミュニティのコアになっていたわけだ。「そういう空間が作りたくて作ったんです」と牛来さんは言うが、ぼくからすればこの時点でコワーキング的発想になっていたと思えなくもない。そして、「何が大事かというと、人と情報が集まる場所かどうかですよ」と強調する。

入居した10名は当時、起業したばっかりなんですよ。私もまだ2年ぐらいで。で、お互いを見て切磋琢磨して自然発生的にみんなが育っていく、そんな場所という想いが強いですね。
結果的にインキュベーションみたいなことになっていますけれど、でもそこを拡大させることを目的にはしていません。一人親方OKと思ってますよ、今でも。

ただ、起業家同士でコラボし、事業を興すことは時としてある。しっかり統計は取っていないが、その数は相当な数にのぼるようだ。

「なんで牛来さんとこ稼働率100%近いんですか」と聞かれるんですけれど、15年前からずっと、「いや、うちは目の前の空気の中に価値が詰まってますから」と言っています。

つまり、「人と情報が集まる場所」なのだ。この施設はその後どんどんフロアを広げ、組織としても拡充するために7年前に現在のビルに転居してきた。いま、1500㎡で約100名が入居している。

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そして、原点に帰ってコワーキングを

SO@RがSOHOから発展してきたとはいえ、コワーキング的要素を兼ね備えているなと感じるのは、牛来さんのこの言葉のせいでもある。

私は、ここの利用者をユーザーさんとは思っていないんです。「仲間」なんですよ。もうずーっと10何年も「仲間、仲間」と言い続けています。なんでここが実現したかというと、その仲間たちがイベントにしろ何にしろ、ボランティアで手伝ってくれたおかげなんです。
だから、いま、コワーキングってよく聞きますけど、振り返ってみたら私たちのやってるのはコワーキングだったんだ、と。

これだけの規模の仕事環境を提供する会社が、こうしたシェアの精神を持ち合わせていることに正直驚いたが、その来歴を見ればいたって自然かもしれない。
実はぼくも自分の運営するコワーキングの利用者をお客さんとは思っていないし、そう呼ばない。コモンズであるコワーキング(これを牛来さんに言わせると共同オフィスかもしれないが)を共用する仲間として応接している。ちなみに、カフーツという名前はアメリカの俗語で「仲間」を意味する。
ただ、スタートの時はそういう精神でやってきたものの、その後、事業として成長する過程でここへ移って来た時に組織としてのあり方が変わったのも事実だ、と牛来さんは明かす。しかし、その後SO@Rは次のステップに移る。フロアの一部を利用して、コワーキングスペースを開設したのだ。

なぜこのコワーキングスペースを2年前に作ったかというと、無機質なオフィスにありがちな、なんかこうフロントのスタッフが対応して、というのが、元々やりたかったことじゃないんだよ、と思ったからです。
で、ちょっと原点に戻るというわけでもないですけれど、ちょっと余裕ができた段階で、じゃ作ろうとなりました。でも、そもそもが、こういう精神ですものね。

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交流会から共同オフィスの開業に至る想いを忘れてはいなかったということだろう。壁にはその当時、スタートした頃の写真が飾られている。蛇足だが、こういう記念になるものをちゃんと保存して、スペースで活用するのは女性ならではのきめ細やかさかもしれない。少なくとも、ぼくはこういうのが下手だ。
ちなみに、SO@Rの利用者(仲間)は、SE、ウェブデザイナー、グラフィックデザイナー、流通業、販売業、あるいは士業、コンサルタント、コーチング、など多様な職種の人たちがいる。中には、学生起業してもう10年ぐらいの人もいて、「学生時代から見てるので、もうお母さんの心境です」と牛来さんは笑う。
ついでながら、SO@Rでは利用者が参加するいくつかの部活動も活発だ。例えば、マラソン同好会、着物同好会、神楽同好会、そしてこれは定番だろう、カープ同好会など、不定期ながら開催されている。さらには、2ヶ月に1回のペースで牛来さんがちいママを勤める「牛来’s Bar」なる懇親会もある。ここでも、SOHO’sクラブ時代からの和気藹々とした空気が流れているようだ。

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3本の事業テーマからブランド構築へ

SO@Rには、「”あったらいいな”をカタチにする」というキャッチフレーズがある。(どこかの製薬会社も似たようなコピーを使っているが、SO@Rのほうが先らしい。念のため)
そして、広島の新しい価値と魅力をつくりだすことを目的として、SO@Rビジネスポートを拠点にした、3つの事業テーマを掲げている。「拠点事業」「モノづくり事業」「支援事業」がそれだ。
「プロ意識の高い個人事業者や小規模の会社がネットワークをつくることで、互いに刺激しつつ化学反応を起こし、あらたなものを生み成長する」(以上、同社発行のパンフレットから引用)、そのための仕組みを構築しているわけだ。

実は、「モノづくり事業」では、ここの入居メンバーだったり、ここに集まる人たちとコラボしていろいろ商品開発をしてるんです。ただ、今まではお土産物というカテゴリの中で食品が多かったんです。
例えばもみじ饅頭だったら、今までちょっと違ったもみじ饅頭作ろうよというところから発案した、2008年の竹炭入りのもみじ饅頭「黒もみじ」とか、続いて出した夏イチゴ入りのもみじ饅頭「朱もみじ」とかなんですが。もちろん、これ全部、広島の生産者が作った素材入りです。

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そして、さらにそれを推し進めるために、自らブランドを起ち上げようとしている。え、ブランド?と、おもわず声を上げると、こう返ってきた。

広島はレモンの生産が日本一なんですよ。食品加工でなら、レモンでなんでもできますよね。お菓子もできれば、ドレッシングもできれば、お酒までできる。それで食品業界はみんなで一緒になって展示会なんかにも出て行ってるんですよ。もちろん、県が応援して。
じゃ、非食品はどうなのかとなった時に、何で横串刺すかというと、やっぱりブランドしかないんですよね。バラバラにいろんなモノを作っても売れないじゃないですか。売るためには統一ブランドだなと。

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なるほど、このへんで牛来さんが以前、企画会社で仕事されていたこと、販売プランナーであったことが脳裏をかすめる。

で、去年ぐらいから力を入れてるのが、金属とか樹脂の加工製品です。広島にはいろんな製造業さんがいるんですよ。一方、うちにはプロダクト・デザイナーたちもいるので、そういうところとコラボして、外国から来られる観光客向けにお土産として買ってもらえるようなブランドを起ち上げるんです。それには必ずしも入居者とだけでコラボするのではなくて、ここに集まる多くの広島の仲間たちとコラボしたいと思っています。

そのブランド名は、「EARTH」。 地元の事業者とコラボを組んで、すでにEARTHプロジェクトとして動いている。

広島は化粧筆が有名なんですよ。ブラシのように毛先を切らずに最初から筆状に整えたものの逆側をカットして作るんですけど、すごく手間がかかってます。海外の化粧品ブランドも注目していて、一部、セレブたち御用達なんですね。それに折り鶴のデザインを施してEARTHブランドで販売します。
あとは、樹脂加工ですね。折り鶴というと今まで和紙というイメージだったんですけれど、そうではない、もっとシャープな感覚でデザインしたピアスや置物を予定しています。

EARTHのコンセプトは、すべて牛来さんが考案していて、今年、20アイテムぐらいを市場に送り出す予定だ。余談だが、条件によっては、「ものづくり助成金」などの活用も想定しているところなど、事業者のために隅々に気を配られている様子が伺える。

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コワーキングスペースの中には、スペースが窓口になって(例えばウェブ系の)仕事を受託し、コワーカーでチームを編成して仕事とする仕組みを持つところもあるが(かく言うぼくのところもそう)、スペース自らがブランドを起ち上げて商品開発までしているところは、他にないのではないか。
地方のコワーキングでは地元の行政と連携して、起業・創業関連のセミナーがよく行われているが、SO@Rもその例外ではない。インキュベーションを目的とはしていないが、育っていく人はいるので、当然そのニーズはある。
しかし、このSO@Rの「モノづくり事業」は、まさしく事業そのものであり、創業支援というより、むしろ、「協業支援」とでも言うべき領域に入っていると言えるのではあるまいか。その意味では、くだんのセミナーとはいささか異なるポジションで価値を創造していると言えるし、コワーキングの未来形としても注目に値する。

そのブランド発表のイベントを、9〜10月頃にやるんです。このブランドで、5年で50億円の市場を作ると宣言しました。目標はでかく(笑)。弊社一社では12億円の市場を作ります。参画企業は300社。我々がプロデュースする商品の他に、ロゴを使うロイヤリティ商品もあります。

なお、これらの商品開発は成功報酬制で進められているそうで、売れれば規定のコミッションが入ってくる条件だ。製造業者も初期費用が少なくて済むし、デザイナーたちも継続的な収益を期待できるので、双方に利はある。共同開発として理想的なスキームだ。

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それにしても、お話を聞くうちに、ますますその企画マインド、いや、起業マインドに舌を巻く。

必要なのは、ディレクションとコーディネートの能力ですね。それと、パブリシティをうまく使うノウハウを持ってるといいんでしょうね。

人ごとのようにおっしゃるが、こうした人材がコワーキングにいたら思いついたアイデアを次から次へと試してみたりして、さぞ面白いだろうなと思う。
牛来さんにとって、ここへ至るまでの行程には何も無駄なものはなかった、いや、そうなるべくしてなったと言ってしまってもいいかもしれない。
そのことを象徴するように、共同オフィスをスタートした時のベニヤ板は、いまも入居エリアのところに10個残されている。「初心忘れるべからず」という自戒を込めて。

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SO@R Coworkin’(ソアラ・コワーキング)

〒730-0803 広島市中区広瀬北町3−11 和光広瀬ビル
SO@R ビジネスポート 4階
TEL.082-532-5662

【施設利用】 (消費税別途)
 ・最初の1時間:300円 ※以降1 時間200 円
 ・1日:1,000円
 ・1ヶ月:8,000円
【ご利用時間】
 ・平日 AM9 時~PM7 時
 ※土日祝、年末年始・盆は休業
※その他、ブース型、個室型の料金体系があります。

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伊藤富雄

Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など