人をつなげてビジネスを支援するコワーキングスペース「Shakehands(シェイクハンズ)」

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その18回目は、広島市の「コワーキングスペース Shakehands(シェイクハンズ)」さんにおじゃまし、運営者である株式会社3COの代表である市川 育夢さんにお話を伺いました。
(取材・テキスト / 伊藤富雄 取材日:2016年6月20日)

コワーキングスペース Shakehands(シェイクハンズ)
〒730-0031 広島市中区紙屋町中区紙屋町1丁目4−5
TEL.082-246-1340

フューチャーセンターからコワーキングへ

市川さんは元々、広島フューチャーセンターの創業メンバーだった。が、その前にNPOにも参加していたのでそこからはじめよう。

NPOは会社員しながらボランティアでやってたんです。地域活性化のひとつで、中山間地域振興のために放棄されている田畑や高齢化する農家の後継ぎ問題なんかを、大学生のボランティアを連れて行ったりとかしてました。

不動産会社や外食チェーンなどを経て、転職したある商社が9時〜5時の就労時間なので余った時間に何しようかなと考えていたところに、たまたま友人から地域振興を一緒にやらないと誘いがあった。「暇だしやってもいいかな」という軽い気持ちだったみたいだが、会社員との二足のわらじで始めたこの活動が、その後コワーキングへとつながっていく。

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NPO活動をする中で、人脈を増やすためにさまざまな異業種交流会に出かけて行った。その中に、ちょうど自分と同年代ぐらいの人がやっている、20〜30代の人ばかりを集めてやる会があった。そこで意気投合した人たちと一緒に何かやろうということで始めたのが、広島フューチャーセンターだ。その時の創業メンバーは5人。 

そこでは主にワークショップがメインでしたね。テーマはいろいろですけど、広島の地域の問題を解決するためのアイデア出しの場みたいな感じですね。すごく漠然と広島の10年後をどんな広島にしたいかとか。行政マンとか大学生とかいろんな人間を集めて、当時、月一回から2ヶ月に一回のペースでやってましたね。

聞けば、フューチャーセンターには「脱会議室」という概念があるのだそうだ。だから、公園でやってみたり、バーの昼間のアイドルタイムに貸しきってやったり、ちょっと非日常な場で考えるということを実践したというから面白い。
ちなみにそのあたりは、コワーキングにも共通する概念で、「ジェリー」と呼ばれるワーキング・イベントは参加者がそれぞれパソコンを持って集まり、そこで各自がコミュニケーションしながら仕事をするのだが、必ずしも特定のスペースを会場としない。カフェでもいいし、公園でもいい、いわば出張型のコワーキングだ。2006年2月にニューヨークではじめてジェリーをやったAmit Gupta氏は、最初の会場を自宅のアパートメントにした。

それを1年半ぐらいやってたんです。イベントをやるといっぱいアイデアが出てワーっと盛り上がるんです。で、終わってから、よかったよかったで懇親会に行って更に話が盛り上がって。でも、そこで終了みたいな、いい一日だったな、みたいな。それでは、アクションにならないんですよね。

フューチャーセンターのことを調べていく中で、似た概念としてコワーキングというのがあることを知り、ああ、そういう場所があればいいんじゃないか、と思いつく。

いろんな人が集まって自己実現のために協働したりする場所。サードプレイスといえばいいんでしょうか、会社でも家でもない第三のスペースみたいな場所が、広島にもあったらいいよねと。公民館みたいだとあまりにも堅苦しくて味気ないし。とりあえず、小さくてもいいから、まずやってみよう、と。
そういう場所があると人が来るじゃないですか。今日みたいにコワーキングツアーでやってきてくれたりとか、「どこそこのコワーキング使ってるんです」とか、「ぼくもやってます」とか「こういうところ初めてきたんですけど」とか。それがやっぱり人と繋がるきっかけや接点になります。
そんな中でなんとか生きていけたらいいなと。まあ、生きていくのが先か力尽きるのが先か、ちょっとチキンレースやってみようかなと思ってはじめたんですけどね(笑)。

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そう決めてからの行動は速かった。在職中に起ちあげの準備に入り、会社も設立し、4年余り勤めた前職を2013年10月に退職し、11月1日に「Shakehands(シェイクハンズ)」をプレオープンした。
コワーキングの運営については市川さんがひとりで計画したが、開業にあたっては高校時代の同級生である舩場氏が加わった。

彼が内部のことを全部やってくれるので、ぼくが外に出て仕事作ったり、人間関係を作ったりできるんです。

ここは案外見過ごされがちだが、結構重要なポイントだ。コワーキングは単に「場所」を提供するだけではなく、日々、姿を変える生き物(=コミュニティ)として、その動きに常に目を配り、空気を読みながら、微妙に手綱を引いて居心地の良い環境を維持しなければならない。
そして、そういう環境を運営するには、役割を分担でき、かつ価値観を共有できる(気の赦せる)人とチームを組むのがベターだ。

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利用者との交流の機会をいかに持つかがカギ

はじめて2年近く、フューチャーセンターの時に抱いていたイメージと比べて、いま、どう見えているのだろうか。

あっという間という感じですね。まあ、どう計算してもコワーキングという事業は儲からないというところからはじめているので、そのへんは実はそんなにギャップはなくて(笑)。

それはぼくも同じ。コワーキングはいわゆるコモンズであって、自分の仕事領域を広げるプラットフォームという意味では有効だが、それ単一のビジネスとしては正直なところ成立させにくい。

そのコワーキングの文化を持ってるか持ってないか、そこがそもそもなんですけど、うちには単に電源とWifiを求めてお仕事しに来る人もいらっしゃるんですよね。で、ここはコワーキングだから、それこそ初対面でも友達のようにしゃべりましょうっていうスペースなのか、あるいは緩やか〜にお互い気持ちよく上品に少なくとも無作法でないようにするのか、そこの間をうまくつなぐのが、たぶんコワーキングスペースのスタッフやオーナーの仕事だと思うんですけど。
ぼくは最近、他の仕事を作っていて外に出ていることが多いので、なかなかそこが思うようにできていないなと。ぼく自身が利用者さんと十分交流できていないのが課題ですね。

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ここは非常に悩ましい。市川さんがこう言うのは、人をつなげるためのコワーキングを意識しているからだが、ぼくの場合、それが多分不安だったんだろう、自分の運営するコワーキングに貼り付け状態になり、あげくに行動範囲を狭めてしまっていた。
もちろん、自分もひとりのコワーカーとしてスペースで仕事しているので、ただ黙念と座っていたわけではない。だが、おいでになる方から得る情報や知見よりも自分から出かけて行って得るそれのほうが、はるかに貴重で役に立つことを忘れていた。
こちらから行動することで、情報に肉付けされるものの価値は格段に違う。それもあって、このコワーキングツアーをはじめた。いつまでも考えていてもしょうがないから、とりあえず行動に出たのだ。動いたら、なにか見えてくるだろうと、見えたらそれに食いついてみようと。
今のところそれが善循環していて、神戸でじっとしていては絶対に出会うことのない人たち、体験、情報、そしてその後も続くご縁、これらを予想以上に深いレベルで手にしている。
皆さんにツアーをお勧めする理由はそこにある。なにもぼくのツアーに同行するだけがコワーキングツアーではない。どんどん、ご自分で出かけらたらいい。ぜひ、おやりください。

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コミュニティが生み出すビジネスチャンス

ところで、市川さん自身が理想としていたコワーキングは、実現できているのだろうか。

コミュニティとしてはじめたコワーキングとしては、ある程度うまくいってると思います。ここをはじめたから出会えた人たちもいっぱいいますし、ここがあったから結びついて始まったこともたくさんあるので、振り返ってみたらあってよかったなと思いますね。
やっぱり、人の出会いですかね。そうですね、ぼく自身もそうだし、利用者さん同士の中でも少しはあるようですから。ここで出会って事業化までは行ってないですけど、一緒に仕事してみたりとか、仲良くなってその人の人脈の輪が広がったとかいうようなことがあります。
例えば、ここでぼくが紹介して話を繋いで大崎上島っていう島に移住した女の子もいますよ。そういう、人つながりのところは、本来ぼくのやりたかったことの一部でもあるんですよね。

そういえば、ぼくのところでも知り合ったふたりが会社を作ったという話はいくつかある。そのうちひとつは早くもなくなってしまったけれども、その後の関係はまだ普通に続いているのが面白い。
起業するということは、命をかけることでも何でもなくて、自分(たち)のやりたいことを実現するためのひとつの方法でしかない。だから、それが効果なしとなれば別にやめてしまっても一向に構わない。むしろ、それぐらいのフレキシビリティがないと、逆に変化の激しい今の世を生きていけないと思う。
一方で、「Shakehands」があることが市川さんご自身のビジネスに良い方向に作用しているのだろうかという問いには「していますね」と答えた上で、こう続ける。

今、ここの運営以外に、地域振興の場作りや人つなぎやイベントなどのワークショップ的な行政系の仕事をしているんですけれど、そこから脱却しようと思ってるんです。ワークショップばっかりだと、盛り上がって終わりというところがあって、ぼくの中で違和感があって。一年間通してワークショップをやってきて、また次の一年間ワークショップをやるというのはちょっと違うなと。

この3年間、毎年同じことやって、だいたい同じメンバーが来るらしい。それはどうなのだろうかと。参加者は自分の時間を使ってワークショップに参加する。だが、そこで得られるのは単にコンサルタントのノウハウであって、ただの二番煎じ三番煎じに終わりかねない。もしかするとこれは全国の行政が抱える課題かもしれない。

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それよりも、もっと人のつながりの中でお互いの可能性を開いていったほうが実効性があるのではないか。
「Shakehands」の利用者の属性は適度にばらけている。プロググラマー、ウェブデザイナー、経営コンサルタントのほか、英語の先生、資格勉強に来ている学生さん、それにiPhoneの修理屋さんもいる。中には、ここを支社として法人契約している人材派遣会社の営業マンもいる。
ちなみに、毎週水曜日にIT系の人が集まって「すごい広島」という、いわゆる「もくもく系」のイベントも開催している。

例えば、iPhoneの修理屋さんがいて、ウェブデザイナーさんがいて、英語の先生がいますよね。で、ちょっと教えてという時に、もちろんお金をお支払いして勉強会を開催してもらったりするんですけど、例えばウェブの相談をして、結局それが発注に結びついたりするわけです。そういう事例が増えていけばいいなと思うんですよね。

コワーキングというコミュニティ内で、相互に補完しあう中でビジネスに発展するのは健全な姿だ。また、コワーキングがひとつのチームとしてさまざまな仕事を受託するケースもチラホラ現れていて、これも個人的には好ましいスタイルかと思う。ただ、コワーキングがそういう集団であることを、外に向かっていかにうまく伝えるか、ここにまだまだ試行錯誤が必要なのも事実だ。
また、市川さんは「経洗塾」でも活動している。これは、「経済を洗う、経営を洗う、経歴を洗う」のスローガンのもと、本気で起業したい人が新規事業構築のためのプログラムを6ヶ月間にわたって作成し、ブラッシュアップしていく起業塾だ。うっかり聞き漏らしたが、もしかするといずれ、「Shakehands」独自の起業塾が始まるのかもしれない。

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強い味方、キッチンをいかに活かすか

「Shakehands」には、羨ましいことにキッチンがある。仕事するだけの場所ではないコワーキングのさまざまなイベントに、キッチンは大いに役立ってくれる。

キッチンは最初から入れる計画だったんです。仕事している人が、交代でバーテンダーとして立ってお酒を振る舞いながら話をするのも面白いなと思って。
あるいは、もし需要があれば日替わり飲食店のようなことをしてもいいかなと思っています。その日、メニューを出す人が入れ替わるような感じですね。ちょっと社食的な。

実は、当初の計画から言うと一番うまく稼働できていないのがキッチンだと、市川さんは言う。ランチミーティング的なこともできたらいいなと思ってはいたが、それをする人間が今のところ結局、市川さんしかいないので、まだ実現していない。
ちなみに、昼ごはんを同じ時間にみんなで一緒に食べるというコワーキングも、チラホラある。PAX Coworkingでは、昼時には全員が同じ店にランチに出かける。あるいは、イベント式に、月に何回かメンバー全員でお昼ごはんを作ってみんなでいただく、というコワーキングもある。これは楽しい。キッチンがあるコワーキングなら、ぜひ真似したいところだ。
ランチタイムに、限定で食事を出すことも検討中だ。実は、丹精込めて美味しいものを生産する農家さんがおられるのだが、コワーキングの料金体系などを考慮すると、価格帯がうまくマッチしない。だったら、ランチタイムだけ、コワーキング以外の方にも提供する形にするのも手だ。うまくいけば、年内にはスタートするらしい。
「ついでに、地域異業種交流会的なランチミーティング、みたいなのはやってみたい」。どこまでも、人をつなげるのが市川さんのテーマだ。

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地方のコワーキングが連携

地方都市におけるコワーキングスペースの連携については、なにか動きはあるのだろうかと訊いたら、意外な答えが返ってきた。

実は、 以前、広島のコワーキング協同組合みたいなのをやろうという話があって一回起ち上がったんですけど、そこから先が続いていないんですよね。
ハラッパ(Ha-Lappa Coworking Space)さんとうちと、なくなったムービン・オン(Movin’on)さんの三者がとりあえず最初入ってて、ポートインクさんとかソアラさんとかも是非仲間に入れてくださいって話になってたんですけど、そのうちムービン・オンさんは閉められちゃったし。
なかなか難しいんですよ、例えば共通チケットを作ろうとか、コワーキングパスで出入り自由にしようとかのアイデアもあったんですけど、それぞれ料金体系も違うし、立地も違うしで。

このアイデアは他の地域でもずっと以前からあるけれども、まさに同じ理由でなかなか実現にこぎつけていない。あるのは、チェーン展開しているコワーキングがフランチャイズする(名前だけ使って経営にはタッチしないケースも含む)パターンか、今後目立ってくるであろう電鉄会社系や不動産会社系の複数店舗展開のそれぐらいだろう。

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ただ、コワーキングのムーブメントを盛り上げるために、共同でイベントを企画するというのはありだと思っています。コワーキング文化をもっと普及させ、チャレンジする人間を増やすという意味で、もっと広島市民に向けた場作りはしていきたいとは思っています。

そうなのだ。日本のコワーキングもすでに、もっとローカルな感性で設計するフェーズに入っている。東京発信の情報で固定観念に縛られるのではなく、地元のために地元でできることを地元の人みんなでやるほうが、よっぽど効果的かつ機能的なコワーキング(および、それを取り巻く環境)を実現できる。そのために、地方のコワーキングは手を組んだほうがいい。
かつて、東京でコワーキング関連のイベントをドカーンとやった。まだ、耳馴染みのないコワーキングというムーブメントの、それはちょっとしたきっかけになったと思う。しかし、今や、年に一回、どこかで巨大なイベントをぶち上げる時代ではない。各地が各地相応に、それこそ同時多発的に開催すればいい。そして、それらをつなげる人がいて、コワーカーそれぞれが都合の良いタイミングで参加すればいいのだ。
とはいえ、まだまだコワーキングはマイナーな言葉だ。徐々にクチコミで利用者が増えているのは、言ってみれば時代の流れだ。そのパイをいかに増やすか。不毛な価格競争に陥らず、共同して知恵を絞り、その輪を広げるのは、コワーキングスペースの役目でもある。

コワーキング文化はやっぱりいいなと思うんですよ。各地域にそういう場所があってはじめて人が集まる。場所があるから仕事したり、お茶のんだり、本読んだりできるし。というか、人がいるから場所ができるんでしょうけれども。

いずれ、市川さんたち広島のコワーキングが手を携えてローカル・イベントをやってくれるかもしれない。そして、日本全国でその狼煙が上がることをぼくは期待している。

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コワーキングスペース Shakehands(シェイクハンズ)

〒730-0031 広島市中区紙屋町中区紙屋町1丁目4−5
TEL.082-246-1340

・ドロップイン
非会員:最初の2時間600円 以降1時間毎300円 最大1800円
一般:最初の2時間500円 以降1時間毎250円 最大1500円
学生:最初の2時間400円 以降1時間毎200円 最大1200円
・月会員
個人 12,800円(10時-22時)
団体 17,800円(10時-22時)
学生 5,800円(10時-22時)
ハーフタイム 7,800円(10時-18時 or 16時-22時)
コミュニティ 5,800円(月4日)

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伊藤富雄
Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など