「いま、熊本にコワーキングができること」、その事始め

各地のコワーキングスペースを巡るコワーキングツアー。今回の熊本へのツアーはいつもと違い、2部構成で進行した。まずは、いつものように運営者の方にお話を伺うこと(これは、いずれこのサイトに掲載する)だが、もうひとつはタイトルに掲げるように「いま、熊本にコワーキングができること」は何かをテーマに、参加者みんなでディスカッションするイベントを開催した。この稿では、そのイベントのことをツアーリポートの番外編としてお伝えする。
(企画・テキスト / 伊藤富雄 イベント開催日:2016年7月26日)

徳島での経験を熊本で活かす

4月に熊本〜大分に震災が発生して3ヶ月余りが経過した。発生直後からコワーキングをベースにして何か役に立てることはないかを思案していたが、混乱の最中に県外から押しかけるのはかえって迷惑になると思い自重していた。そこに、「未来会議室さんが7月1日から再開」との知らせが入ったので、早速、ツアーの趣旨とおじゃましたい旨を伝えたところ快諾を得た。

しかし、残念ながら、現在ツアーでうかがえる熊本のコワーキングスペースは未来会議室さんしかないと判断するに至る。そこで、いつもは数ヶ所のスペースを巡っていくのだが、今回は、未来会議室さんを会場にし、県の内外から参加者を募って「いま、熊本にコワーキングができること」をテーマにディスカッションすることにした。

その告知ページは以下。(※Facebookのログインが必要です)

コワーキングツアーVol.5〜集まれ、コワーカー!熊本編〜

 「いま、熊本にコワーキングができること」というテーマは、一見、重々しい。だが、ここでごたいそうな結論を出すつもりは、最初から毛頭ない。ぼくらはあらかじめ答えを持って乗り込むのではなくて、その場に集まった人たちで共有できるものの中から、次のステップを導く緒を見つけよう、それが目的だ。

ただ、はじめて顔を合わす者同士がいきなりディスカッションするには、確かに対象が大きすぎて論点が散漫になる危険性がある。何か取っ掛かりが必要だ。そこで思いついたのが、以前、徳島県美馬市でやった「四国シャルソン・ミートアップ」だった。日中、参加者各自が街なかを巡りながら、発見したオモシロイことや人との遭遇を、順次Facebookにアップしていき、夕方、集合地点に帰り着いてから、それをみんなでレビューして、一番オモシロイ発見をした人は誰かを決めるイベントだ。

四国シャルソンミートアップ

これをやってみてよかったのは、地元の人ではない参加者が街のあちこちを移動する中で、オモシロイと思うことが実はたくさんあるということ、そしてそれは地元の人は普段あたり前のこととして気にも留めていなかったりすること、しかし実はそこに街の持つポテンシャルが潜んでいるということ、つまり、街を再発見できる、ということだった。

よし、これを熊本でもやってみよう。熊本に何ができるかを考える時、外から遠巻きにして覗いて観るだけでは実効性のあるアイデアには結びつかない。対象の中に自分を置いて、そこで感じられる物事の中に次のアクション起こすヒントがあるはずだ。各自が街に出て体験してきたコトを逐次共有し、それをディスカッションの起点にしよう、その中からヒントを掴みとろう、という発想だった。

この企画に賛同し、熊本シャルソン街歩きに参加したのは、地元の未来会議室さんから1名が途中参加、それ以外は全員県外からで、遠く仙台から1名、東京から1名、小倉から4名、それに神戸からぼくの計8名。蛇足だが、仙台では東日本大震災を、神戸では阪神淡路大震災を経験している。

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熊本シャルソン街歩き

こうして、シャルソン街歩きは、昼過ぎからスタートした。その後の、参加者の投稿は下記のFacebookイベントページのディスカッションのタブに時系列で掲載されている。

コワーキングツアーVol.5〜集まれ、コワーカー!熊本編〜 (ディスカッション)

従来、シャルソンは思い思いの方角を目指すのだが、当日のみんなの想いは「最初は、熊本城」だったので、まずは全員で城を目指し、その後、それぞれ気の向くまま、勘の働くままに散っていった。

ここで、そのすべては紹介できないが、帰ってからのディスカッションでみんなの注意を引いたスポットのうち、その一部をあげておきたい。いずれも県外からの参加者による。

・ビアレストラン「オーデン」
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(写真:篠原 毅氏)

・熊本城
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(写真:時松 順氏)

・城の西側にある二の丸広場
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(写真:伊藤富雄)

・熊本駅前おてもやん像の湧き水
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(写真:魚岸利安氏)

・味噌天神
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(写真:木村 忠宏氏)

・熊本ラーメン「めんきち」
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(写真:中川 康文氏)

・畑にくまモン
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(写真:魚岸利安氏)

・お城型ポスト
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(写真:時松 順氏)

・キリンの手すり
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(写真:中川 康文氏)

シャルソンのいいところは、自分でコースを選んで街を移動できることだ。途中で誰と会って何をしようが、何を食べようが飲もうが、一向に構わない。ただ、その出来事を共有することに意義がある。そして共有する相手によって、時に大きなヒントの火を灯すことにもなる。

その他の写真は、以下のアルバムページにアップされている。

コワーキングツアーVol.5〜集まれ、コワーカー!熊本編〜(1) 熊本シャルソン街歩き+フューチャーセッション

これらのひとつひとつに参加者の発見がある。それを語るうちに、地元の人から追加情報がもたらされる。今回、市内だけではなくもっと市外へ、周辺部へ出かけていったほうが、また違った発見があったかもしれないという反省点は残ったが、それでもディスカッションの起点を作るには十分だった。

フューチャーセッション、手がかりは「水」

さて、こうして全員が炎天下あちこちを訪ね、夕方、汗みどろになって未来会議室に帰り着いたところへ、地元からも5名参加いただき、18時30分より13名でディスカッションへと移った。今回は、小倉から参加いただいた中川さんと篠原さんの実に巧みなファシリテーションにより、フューチャーセッション形式でそれは進んだ。

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そして、今日のシャルソンで出会ったことをレビューするうちに、「水」というキーワードが浮かび上がる。それは、上記で紹介した写真のひとつ、おてもやん像のそばから湧き出る水の話になった時だ。にわかに地元参加者が、熊本の水について色めき立って話しだした。

熊本は水が美味い。聞けば、熊本市の水道水源は100%地下水でまかなわれており、しかもこの水道水源と同じ地層から湧き出る地下水がペットボトルで販売されている、というのだから驚きだ。

熊本オフィシャルウォーター『熊本水物語』について | 熊本市上下水道局

これを起点として、その後、熊本の水にまつわる話が次々と出てくる。井戸を掘れば温泉が湧いてくるという話や、用水路をカヌーで下る「イデベンチャー」なる遊びがあるなど、我々にすれば非日常であり実に興味深い。\

そのイデベンチャーはここに詳しい。

原井手下り「イデベンチャー」(H27.6.29) – 菊池市

動画がわかりやすい。

「水」をコアテーマにした途端、「熊本にコワーキングできること」について、それまでアトランダムに話していたアイデアの切れ端が見事につながっていく。

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例えばぼくは、いつものように、欧米におけるコワーキングとバケーション(休暇)をミックスしたコワーケーションのトレンドを紹介した。

コワーケーションについては、以前、ブログで説明しているので参照されたい。

Co+Work+Vacation=Coworkation、やろう。

要するに国境を超えて移動しながら仕事するデジタル・ノマドを対象にしたインバウンドだが、欧米からデジタル・ノマドを熊本に呼び込んで長期滞在型のコワーキングをしてもらおう、ついでに熊本で遊んでもらおう、いや実はこちらがメインだが、つまり、ただモノを買ってさっさと帰るのではなくて、しばらく滞在して熊本のあれやこれやを体験してもらおう、でもってローカルに相応にお金を落としていただこう、という企画だ。

すでにお気付きの通り、これは熊本に限らず日本全国でできることなので、行く先々でお話している(し、賛同を得ている)が、熊本は「水」というテーマを絡ませるとより明確にメッセージとプログラムを提供できることに、全員が気づいた。つまり、デジタル・ノマドに向けて、「熊本の水を巡る旅」といった主題でツアーを企画するのだ。もちろん、熊本にコワーキングができること、というテーマに答えるためには、海外のノマド・ワーカーに限らず、国内のコワーカーに対してもアピールするべきだろう。

そこで、未来会議室でザコ寝するのはどうかという案も飛び出たが、実はこのディスカッションには、熊本県北部にある山鹿温泉のホテル関係の方も参加されていた。例えばだが、ノマドワーカーの宿泊先として、ホテルがコワーキングとの連携を検討する価値は十分ある。閑散期だけでもいいかもしれない。距離はあるがバスの送迎も可能だろう。と、ここまで来ると、プランはかなり具体性を帯びてヒートアップしてくる。

そのセッションの様子は、ホワイトボードにマインドマップ形式で記録されている。

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左側の青い部分が「水」にまつわる要素、右側の緑の部分が「コワーケーション」または「インバウンド」にまつわるそれだ。ちなみに、赤い部分は「熊本城」。あの二の丸広場でコンサートをやろうという案も出た。ディスカッションの流れがマップでよく判るが、やはり、地元の人が混じらなければこういう展開にはならない。

そして、コトははじまった

このイベント開催に先立って、地元の街づくり系の団体や行政からの参加も期待していた。ここで議論されたアイデアを次に形にしていくためには、地元で活動する人たちのコミットが絶対に必要だからだ。ぼくらはあくまで県外からの来訪者であり、震災後の熊本に対して継続的にできることは、本当のところごく一部に限られている。そしてそれは、地元の人がするほうがいろんな意味で理に適っているのは言うまでもない。

残念ながら結局その参加はなかったが、しかし、ディスカッションには熊本県立大学の藤井先生とそのゼミ学生が2名参加してくれた。ホワイトボードの上部に「県立大生が企画する『熊本の水を巡る旅』」というタイトルが見て取れると思うが、そう、ぼくらはこのアイデアを具体論に落としこむ役割を、彼らに託すことにした。彼らもまた、未来の熊本のつくり手になり得るからだ。

ここまでを簡単にまとめておくと、

  • テーマは「熊本の水を巡る旅」
  • 国内外からのインバウンドを企図する
  • 熊本ならではのアクティビティを来訪者の視点でピックアップする
  • 宿泊先としてホテルないしはゲストハウスと連携する
  • 仕事環境としてコワーキングスペースを用意する
  • 企画は地元学生が行う

という骨子になり、これに、いろいろと枝葉がついていく。そして、その前提は、モノやハコではなく、ヒトとコトを前提に企画することだ。人は体験するために熊本へやってくるということを忘れてはならない。

そして、小倉の岡さんが言うように、「コワーカーとは誰とでもチームを組める人のこと」であり、スペースを共用する場合でも、インバウンドで熊本を訪れる場合でも、コワーカーであるかぎりそれは変わらない。海外のデジタル・ノマドが平気で国境を超えて未知の地でコワーキングするのも、そこでの出会いを楽しんでいるからだが、その根幹には「Contribution(寄与・貢献)」精神がある。「熊本の水を巡る旅」にコワーキングを絡めるのならば、ここをきちんとおさえて企画するのが望ましい。

付け加えておくと、こうしたローカル経済を回すための地方発信型のプログラムには、地元企業と大学が関わったほうがいいのはもちろんだが、やはり自治体の役割も無視できない。いずれ、そのためのミーティングを持たれることを期待する。ちなみに、コワーキングと地方行政とのコラボレーションにおいては、今回参加していただいた小倉の秘密基地さんが豊富な経験と実績をお持ちなので、これを機に一度ご相談されるのがよろしいかと思う。

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ここまでをわずか2時間弱でまとめあげることができたのは、参加者の皆さんのアクティブさもさることながら、ファシリテイターのおふたりに負うところが大きい。次のアクションを起こすためのスイッチを、その場でカチっと入れてしまうスピード感は、ぜひお手本にしたいところだ。

ところで、ぼくはこのコワーキングツアーで、シャルソンを3回経験した。そのうちふたつは自由に街歩きをするものだったが、コワーキングと街歩きシャルソンは思いのほか親和性が高いと感じている。各地のコワーキングが、非地元の人を交えて開催することで、街を再発見するとともに、新しい人間関係を結べる機会も得ることができる。そしてそれは、コワーキングがローカル経済を動かすエンジンとして機能することにもつながると考えている。

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こうしてコトは始まった、まさに事始めの段階だ。8月26日には、早速、「熊本の水を巡るツアー作成会議」なるイベントが、学生主体で開催される。試験がなければ、もう少し早かったかもしれないが、無理のないペースで続けていく事のほうが今は大事だ。

ホワイトボードには、「水が集まるところには、人も集まる」という言葉も見える。人の集まるところには、必ず未来が開ける。熊本の未来のために、コワーキングもその役割を果たしていきたいと思う。

なお、当日のセッションの様子は、Googleハングアウトを利用して生配信され、YouTubeにアーカイブされている。音声がやや聞き取りにくいところもあるが、ホワイトボードにマップを書いていくあたりからの盛り上がりはオモシロイのでご紹介しておく。(ただし、2時間あるのでお時間のある時にどうぞ)

今回、熊本シャルソン街歩きならびにトークセッションにご参加いただいた皆さん、会場を提供くださった未来会議室さん、そして熊本の人たちみなさんに、あらためてお礼申し上げます。誠に有難うございました。

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伊藤富雄

Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など