シェアリングエコノミーを実践する「コワーキングスペース秘密基地」(小倉)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その第1回目です。今回は、小倉の「コワーキングスペース秘密基地」におじゃまし、主宰の岡秀樹さん、浩平さんご兄弟をはじめ、「秘密基地」に深く関わる方々にお話を伺いました。

コワーキングスペース 秘密基地
〒802-0002 福岡県北九州市小倉北区京町2丁目2-19 小倉ジャンジャンビル3F

まちはチームだ

北九州市小倉のコワーキングスペース「秘密基地」には、このスペースを象徴するスローガンがある。それは、“集めて 混ぜて 繋げて 尖らせる”

文字通り、さまざまな技能や価値観や知見やリソースを持つ人々を集め、つなぎあわせて新しい価値を生むことを表している。よくコワーキングの根幹とはなにかという時、ひと言で「コミュニティ」というが、ここにはそのコミュニティを活かして意図的にローカルの地において何かコトを起こすという強い意志が感じられる。

そして、この概念を元に「秘密基地」がさまざまなプロジェクトを実践していく中で、目指す未来を表現する言葉が生まれている。それが、「まちはチームだ」だ。

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(岡 秀樹氏)

まちとは、もちろん街のこと。昨今、バリューシェアリングとかソーシャルキャピタルなどという言葉を聞くけれども、「難しいことは抜きで、まちがチームってことで、みんなで一緒にやればいいんじゃないか」と、自然に出た言葉だそうだ。

「結局秘密基地って何やってるの?」という問いに対して、あんまり高尚なことを考えないで、「まちというチームを作ってるんだ」ということに気づいたんです。チームというくくりだと、理解が早いですよね。地縁はもちろん、たまたま交流したりして、いろんな縁のつながりがあると、共有の体験が起こります。そこで、いろんな資産やノウハウや、それに人もみんなシェアできるわけです。要するにシェアリングエコノミーを実践しているだけです。

「秘密基地」では、実に多くのプロジェクトが同時多発的に起ち上がり進行している。それは、異業種間でのコラボであったり、ローカルフードのフェスティバルであったり、あるいは、地元の起業家を地元の人たちで支援するローカルクラウドファンディングであったり、または事業家育成のための塾であったりと、実に多彩だ。そして、そのプロセスを都市空間に広げて理解すると、実は街自体がそもそも多様性を持つものであり、コワーキングであることに気づく。

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(岡 浩平氏)

そうして、コワーキングがローカル経済を駆動する地方創生のためのエンジンとしてどこに位置するかがわかってくる中で、「秘密基地」は地方自治体はもとより、国土交通省、経済産業省などとも連携し、さまざまな形で新しい場作りに貢献している。

ちなみに、取材時点で「秘密基地」においてはこれまでに12社が創業し、国の予算から総計2億円近い事業資金を獲得している。また、前述のローカルクラウドファンディングでは、5件の案件が成立しており、昨年の北九州フードフェスティバルでは実に35,000人の来場客を動員した。さらに、観光ガイドの育成事業として北九州観光検定も実施し、これまで300名が受験しているが、これは「秘密基地」が目指す未来への次のステップであることを予感させる。

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シェアリングエコノミーからの発想

ここで、「秘密基地」の提唱する、21世紀型の社会システムについてご紹介しておこう。

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これまでの20世紀型のミッションは「パイの奪い合い」によって構成されてきた。他人より多く限られたリソースをいかに所有するか。多くのものを所有することが成功となる。一方、その努力の裏側で所有できなかった者たちが必ず泣いている。

しかし、21世紀型のミッションでは、「共有」を通じて新しい価値を創造し続ける事が可能になる。多くの価値観を共有することで、まだ見ぬ世界や市場と出会い、自ら貢献できる部分を見出す。中間領域に新たな可能性を見つけ、価値を生み出していく。もはや所有することにこだわる必要もなくなる。その結果、いかに成功するかではなく、いかに幸福であるかがもっとも重視される指針となる。

「秘密基地」では、こうした所有する社会から共有する社会への移行を、地方都市が目指すべきパラダイムとして明確に志向している。コワーキングが、そもそも「シェア」精神の賜であることを考えれば、持ってしかるべき思想であり、コワーキングスペースはそのためにこそ機能させるべきだろう。

創生塾の役割

「秘密基地」で毎週水曜日に開催される起業家育成講座「北九州創生塾」では、これまでに延べ8,000人以上が受講している。主に5〜6人の講師がそれぞれの得意分野の講義を受け持つが、必ずしもセミナー業を生業とする人たちが講師をやっているわけでもない。むしろ、「必要だから、このことは大切だから皆に伝えたい」という気持ちでやっている。その意味では、講師自身がシェアリングソサエティを実践しているとも言える。

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(KA-TSU氏)

講師のひとりであるKA-TSU氏は言う。

そこでは「やり方」よりも、「あり方」または「考え方」のベースを学ぶことに重心を置いていて、そこで共感した人たちが、ただの受講者ではなく、仲間になっていくんです。そこには、誰かが何かをするときにお互いにフォローしあう関係性があります。始めるときに決してひとりではないので、すごい勇気をもらえます。そうやって、自然に背中を押されてスタートしていくんです。

また、創生塾自体は、セミナーで儲けるという発想ではなくて、その先でみんなで儲かればいい、という考え方を持っている。

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(渋谷 健氏)

ここを拠点にするプロのファシリテイターである渋谷健氏はファシリテイター育成講座を持っているが、その卒業生は北九州市の事業に関連した利害関係者をコーディネートするファシリテーションに携わっている。

投資的な言い方をすると、受講者が育ってくれないと、やりたいことができないんですよね。一緒に戦えるチームになってもらうには、これが必要なんだというところをしっかり抑えておく。例えば、みんながソーシャルメディアの使い方がうまくなってくれば、みんなで(SNSを使って)底上げができる。ブログを書くのが上手になってくれば、なにか書かねばならない仕事をする時にみんなに振ればできる。要するに、講義の先の出口のところまで形を作ってるわけです。

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(山崎 進氏)

また、北九州市立大学でプログラミングを教える山崎准教授は、「秘密基地」にいると、時折、「こういうものはできないか」という開発の相談を受けることがあるので、学生を連れて来て、開発力アップのためにプログラミングさせている。いわば、OJTであり、腕を上げることで就職活動に有利に働くことも意図されているのはもちろんだが、いずれその中からスタートアップする者も出てくることだろう。

「秘密基地」の今後

最後に、「秘密基地」が今後目指すところについて伺った。

この社会が今後、シェアリングエコノミーをベースに走っていく、動いていくのは間違いないですが、そこには既存のビジネスとの対立があるのも事実です。それを越えていく役目を果たしたいと思っています。例えば、我々は民泊大賛成なんですが、今その方法論をたくさん蓄積中で、まずは既存ビジネスとの対立を解消するアドバイザーのセクションを作っていて、これは仕事になるだろうと考えています。新しいイノベーションをさまざまなスタートアップが起こしていますが、それを支えるコミュニティがないのが現状です。そこに、コワーキングだとかシェアリングエコノミーをわかってる人たちがやれる仕事があると思います。

今までやって来たことの多くが、必然として社会的ビジネスにつながっているという確信のもと、「秘密基地」はすでにコワーキングがローカルコミュニティとして果たせる次のステージに視点を置いている。そこには、どうやら「観光」という要素も織り込まれるようで、その展開は大いに気になるところ。近い将来、その動きもぜひリポートしたい。

なお、今回のインタビューは、3月28日に「トーキング・コワーキングVol.1〜北九州小倉編〜」として、Googleハングアウトで生配信した。アーカイブはYouTubeにあるので、ぜひご覧ください。

(取材・テキスト / 伊藤富雄)

コワーキングスペース 秘密基地

〒802-0002 福岡県北九州市小倉北区京町2丁目2-19 小倉ジャンジャンビル3F
Tel: 093-967-1003 月~土曜8:00~24:00 (休日:日曜、祝日)

【コワーキングタイム】 (8:00~18:00) 
 ドロップイン 1000円/1日
 ショートタイム 500円/2h
【パブタイム】 (18:00~24:00)
  ドリンク等の料金のみ

・月額会員や個室契約のプランもあります。
・セミナーや二次会、キッチン貸出等も受け付けておりますのでお気軽にお問い合わせください。

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伊藤富雄

Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など