地域問題解決エンジンの浜魂(ハマコン)がめっぽう熱いコワーキングスペース「TATAKIAGE Japan」(福島:いわき)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その16回目は、福島県いわき市の「TATAKIAGE Japan」さんにおじゃまし、運営者であるNPO法人TATAKIAGE Japan理事長の松本 丈さん、理事の小野寺孝晃さんにお話を伺いました。
(取材・テキスト / 伊藤富雄 取材日:2016年5月30日)

TATAKIAGE Japan
〒970-8026 福島県いわき市平字白銀町2-10 夜明け市場2階
TEL. 0246-38-6586

それは寂れたスナック街から始まった

「TATAKIAGE Japan」のオープンは2013年7月1日だが、それに先立つ2011年11月に松本さんは株式会社夜明け市場を起ち上げている。いわき駅近くの一画を舞台に、飲食業でチャレンジしたいという方をサポートするのが主な事業だ。

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元々ここはスナック街だったんですよ。でも、時代の流れとともに寂れてしまって、もうほとんどがシャッターで30軒中23軒が空いている状況でした。
 ぼく(松本氏)は元々は東京で不動産業界にいて地域活性の仕事をしていたんですが、震災後、地元でできることは何かを会社のメンバーと一緒に考えたのがこの夜明け市場です。震災後の4月に企画し始めて、11月にスタートしました。
被災された飲食店の方が結構いたんですね、自分の町ごと津波で流されてしまったり、原発エリアの近くだから戻れないとか、自分の地元に戻るまでに結構時間がかかるだろうということは判ってましたので。
でもお店やりたいという話は聞いてたんです。そういう人たちのお店が一箇所に集まっているところを作れば、一店舗だけだと難しいような情報発信とか集客とかができるんじゃないかということで、この夜明け市場という企画が始まったんです。

その場所を探し求めて最後の最後に行き着いたのがこの寂れたスナック街だった。まとめてそういった空き店舗が沢山あったということ、それに内装もうまく使えばほぼ居抜きで使えるので低コストで出店もできたことが決め手となる。オーナーも見放してるような物件だったが、直接企画を持ち込んでこの一角全部のプロデュースをする契約をした。
それから一年少しで10軒ぐらいが出店した。ある程度形が見えてきたと思っていた頃、被災者ではないが飲食で起業したいという人たちからも相談されるようになり、さらに出店者が増えていった。その中には、東京に店があるけれども自分も地元をなんとかしたいという熱い方もおられる。
こうして夜明け市場は、「日本一前向きな飲食店街を作ろう」という理念のもと、被災者かどうかの区別なく新しいチャレンジを応援する場所になっていく。

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出会いを作るためにコワーキングを始めた

その後、飲食だけではなく、地域にもっとふれあいを増やしていく、そのために「何かをやる」という人をどんどん増やしていくことが、街をもっと面白くするという考えに至る。

何故かと言うと自分がちょっとここに飲食街を作ったからといって、街全部を活性化できるほどのパワーがあるわけではないんですよね。
で、いろんな人がいろんな事業を同時多発的にはじめるようになれば、この寂れた田舎の駅前というか街自体も面白くできるだろうと思ったんです。しかも、何かやりたいって言う人は多かったんですよ。地元、福島で何かやりたいという人が。
そこで、そういった人たちを後押しできるような組織として、NPO法人TATAKIAGE Japanを設立しました。

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彼らも最初起業した時には、「ヒト」「モノ」「カネ」全部で苦労したと言う。

こっちに戻ってきても、ぼくは隣の隣町ぐらいの出身なので、この駅前の人間関係なんてまるで判らないんですよ。どこに何話していかも分からずに、田舎ならではコミュニティに最初全然入れなくて。いきなりこんな事業始めたものですから、なんか若い奴が変なコトはじめたみたいな(笑)。街の変な噂になってしまって。それと、事務所がないこと、これですね。

当初、この飲食街の中の空いてるスナックを拠点として、転々としながら仕事していたらしい。どこででも仕事できるノマドワーカーならまだしも、拠点づくりをする者にとって、店舗に入居が決まるたびに引っ越さなければならなかったのは、正直つらかったろう。そんな時、そういう問題を解決するのに、コワーキングがいいんじゃないかという話が持ち上がる。

ちょうどその頃、同じいわき市出身の知人がシアトルに行ってコワーキングを見てきたんです。「いいもの見てきた。あれをやろう」と。
ぼくらも最初、場所もなければネットワークもなくて困ったよね、と。だから、次に何かやる人にプランを聞いて、それだったらこの人に会いに行ったらいいよというように、間に入ってあげて次に来る人が地域に入りやすい仕組みを作ろうよ、と。そのひとつがコワーキングだったんです。ちょうど自分たちも事務所がありませんでしたし(笑)。

復興から端を発してスナック街を拠点にし、起業する方をサポートするためにNPO法人を作り、さらにステップアップするプロセスとしてコワーキングというスキームを持ち込む。ここへ来るまでの2年間のご苦労が偲ばれる。

自分たちには場所が必要でした。事務所がなければ、出会いの場もないですし。こちらから突撃していろんな人に会いまくってはいたんですけど、やっぱり場を持つっていいな、と。そこに人が集まってくる状況になればいいな、と。
で、都内のコワーキングスペースを10箇所ぐらい見に行きました。でも、田舎モデルがなくて。当時、地方にはあんまりなかったですから。まあ、やれば人が来るんだろうなぐらいに思ってたんですけど、それがなかなか来なくて。
それで、もっとこの場が活用される仕組みを作るにはどうしたらいいかを考えたんです。

それで、昨年からはじめたイベントが浜魂(ハマコン)だ。

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浜魂(ハマコン)がもっと人をつなげる

キャッチフレーズは、「浜通りで本気でアクションする人を地域のみんなで全力応援」。

月に一回、毎回4人ずつが登壇して3分〜5分プレゼンする。ただし、この地域で何か課題を解決するために活動している人でなければならない。それは、街の改善に繋がることであれば、必ずしもビジネスでなくても構わない。時には、高校生が「この街のここがおかしい」とプレゼンする。それを聞くのも地域の人たちだ。
プレゼンのあと会場の人も巻き込んで30分間のブレストをする。最後にアイデアをまとめて発表する。参加しているうちに、この人を応援しようとか、一緒にアクションを起こそうというように仲間になっていく。

去年の8月が第一回で、この6月30日のがもう10回目になります。こんなことを私はやりたいんです、事業でここでつまずいています、とかいろんなプレゼンをしてもらってます。別にここの利用者かどうかに関係なく。
ただのイベントじゃなくて、プレイヤーの発掘とか育成とかも同時にしたい。しかも、地域を上げてやるほうがいい、という立て付けがよかったんでしょうか、毎回100人近く集まってしまって、ここでは狭いので近所で会場を借りてやっています。

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10回で毎回4人ずつ登壇するので、すでに40人ぐらい発掘していることになる。TATAKIAGE Japanの会員は、元々、新しいプレイヤーを応援しようという人たちだ。そこに、「このイベントが楽しそうだから」と一般市民が加わり、ものすごい盛り上がりを見せる。
元々は、鎌倉のカマコンからヒントを得てはじめた。最初のうち、ブレストや登壇の仕組みなどはそのまま真似していたが、そのうち進化して独自のスタイルを築くようになる。そして浜魂を開催しながら、自分たちの活動の賛同者をどんどん巻き込んで会員にしていっている。

ぼくらも起業経験があるので相談しに来る人もいます。そうやって、ここをまた使うような流れを作ろうよみたいな考えだったんですが、先着順にテーマもフィルターかけないで誰でもOKにしているものですから、もう、プレゼンしたいという人が多すぎて来年の1月まで埋まってしまってるんです。

そこで、浜通りで応援すべき活動やみんなに聞いてもらうべきものは浜魂で、その他の問題解決に関してはスピード重視でここでやることにした。

こちらも浜魂と同じような流れですが、ブレストするメンバーがTATAKIAGE Japanの会員さんなので高いレベルのブレストができるんです。
ブレストには、商店街の会長さんとか、起業創業系の方、それと行政の地域創生課や市民協働課の人とかも来られます。テーマによっては、事前に呼んでおくということもします。新規創業助成金などに絡んでいる人もおられますね。

「ボランティア団体だって、大きくなってくれば影響力を持つし、街を変えられるとぼくは思う」と松本さんは言う。

別に起業家だけじゃなくていいんですけど、この中から起業家が生まれてきたらいいよね、というのはもちろん内には持っています。単に事業やりたいというだけじゃなくて、ソーシャルな事業をやりたいという人が多いです。地域を巻き込みながら事業をやりたい人は必ず出てきますよね。

さらに小野寺さんはこう続ける。

ただ、我々は事業家を「育てる」というのがコンセプトなので、やりたいって言った人たちに会員がなにか本気で応援する、そのための良質なプラットフォームを作ろうと思っています。そもそも、ふたりしかいないんで。そのプラットフォームを磨き続けるというのがぼくらの役目です。

え?いま、ふたりしかいない?それで夜明け市場とコワーキングの両方を?と驚いたら、

有難いことに、TATAKIAGE Japanの方は会員の方が逆に「俺たちにやらせろ」みたいな状態になっていて、いずれはそうなったらいいなと思ってたら、本当にそうなりはじめて、市民が勝手にやるみたいな。夜な夜な打ち合わせやってますからね、ぼくら、もう帰ってるのに(笑)。

仲間が仲間を助ける。コワーキングでは、自然にそうなるものだが、それも当人らの頑張りがあったればこそだ。

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24時間営業への転換が次の展開を生む

そんな盛り上がりを見せるTATAKIAGE Japanだが、もちろん彼らにも課題はある。

月額会員がなかなか集まらないのがぼくらの悩みのひとつです。月1万円でも借りたいよというフリーランスの方はおられるんですが、でもまだ2社とかそんなもんです。売上げ比率的にはドロップインのほうが月額会員より高いんじゃないかな。

地方都市は人が少ない。だから、固定利用者が安定的な売上に貢献しているものとばかり思い込んでいたぼくは、少々虚を突かれた。
想定していた月額利用数が減ってきたので、試しに使ってみて気に入ったら、そこからスムーズに月額会員に移行するよう料金設定を見直した。実はそこには、最近導入した24時間営業体制もモノを言っているようだ。

それまで、夜も使いたいという要望はあったんですが、でもぼくら二人では管理できないのでどうしようかと。で、スマホがキーになっててブルートゥースで開け閉めできるシステムを取り入れたんです。利用者によって細かい利用権限も設定可能ですし、カメラを連動させて遠隔監視もできます。うちの場合、正会員と賛助会員は24時間使えるようになっています。

実際のところ、24時間営業にしたら稼働率が上がったそうだが、賛助会員のドロップインユーザーもスマホキーで入退室できるのが有難い。現場の運営コスト、とりわけ人件費に頭を悩ますコワーキングは多いが、思い切ってこうしたシステムを採用するのもいいかもしれない。
24時間営業にしたおかげでドロップインが増えた。これをいかに月額会員にもっていくかが目下のテーマだが、その効果は徐々に現れるのではないだろうか。

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起業系のイベントをコラボする

さて、当初、夜明け市場としてスタートし、次いで、コワーキングをはじめたわけだが、ご自分たちの想いとそれはうまくリンクできているのだろうか。

だいたい目指した方向に来たと思いますけど、最初、ぼくらはもっと起業家志向のことを考えてたんですよ。起業家を増やすんだという気持ちで。それに刺さる人もいるんですけど、そんなにパイは多くないんですよね、田舎なので。そこに気づいてしまったわけで。
で、なにか種まきみたいなところをやって増やしていかないとダメだな、と。プレイヤーを育てるみたいな、もっと広く捉えないと。そこがあってはじめて起業家が出てくるんじゃないか。だったら、もっと前段階をやろうって思ったんです。

奇しくもこの話は、このコワーキングツアーで訪れるコワーキングスペースの各所で聞く話であり、徳島の「フューチャー・コワーカーズ」などは明らかにそこに特化している。
だから、彼らは意識して「起業家」という言葉は使わないようにしている。アクションする人とか、プレイヤーという言い方に変えて表現する。

自分は対象じゃないんだと思ってほしくなくって。起業家ていうと、あ、俺違うしって思う人いっぱいいるんですよ。それに、「起業」を目的にした瞬間、全然うまく行かなくなることっていっぱいありますからね。なので、ウェブサイトからも「起業家」の気配を消しました(笑)。

呼び方を変えるだけで反応する人も変わるのは世の常。こうして、自分たちが直面する現実に即して、決まり文句を疑ってみるのもひとつの見識だ。

でも、TATAKIAGE(たたきあげ)という暑苦しい名前は残っちゃったんですけどね。ま、しょうがないかと。本当に叩き上げてるから、いいかみたいな(笑)。

いや、それもまた彼らの気骨を表していて好感が持てる。

 

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起業といえば、コンテスト形式で起業家を集めるイベントが地方でもよく開催されるが、そのへんはどうなのだろうか。というのも、以前、コンテストのための事業プランでは何ものも生み出さないと苦言を呈したコワーキングスペースの主宰者もおられて一理あったからだ。

そこが我々の課題です。尖ってる人がうまく影響を与えて、他の人も叩き上げられていくような、そういう仕組みにしないと仲良しクラブに陥っちゃうんですよね。時折、会員の中から「身内感出てるんじゃないの」と言ってくれるんです、いい会員さんたちです。

実は、もう15年ぐらい続いているいわき市のビジネスプランコンテストの応募者がどんどん減ってきているという現状がある。
一方で、ふくしま復興塾という社会起業塾がある。そこで、「もっとプレイヤーの種を育てるところからやりませんか」と持ちかけて、連携することになった。
ふくしま復興塾は今年で4期生を迎えるが、福島県の海辺での事業プランが多かったこともあって、浜通りに拠点を置く方向で動いている。その復興塾の中間発表を浜魂がある9月22日にやりましょうということになった。ここで浜魂形式で民意を問う、という趣向だ。だがそれだけではない、まだその後がある。

復興塾から事業計画がブラッシュアップされたものが事業構想として出てくるので、それをビジネスプランコンテストに応募するという条件にしたんです。我々と福島復興塾とビジネスプランコンテストの三者で記者会見もやりました。
だから9月22日の浜魂は、全員ふくしま復興塾の方たちです。何人出るかはわからないですが、みんなで取り囲んでブレストするので中間発表のアイデアもいいものになってくるはずなんです。
それをまた卒業論文までまとめて、全部コンテストに提出してくださいというスキームにしたんです。つまり、みんな嬉しい条件に設計しなおしたんです。

すでにあるものをつなぐ、コラボすることでまた違った仕組みに仕立てあげられる。ここもお手本になるのではないか。
こうした柔軟な発想と行動力が自治体からも期待されている所以だろう、このところコラボイベントの話がよく持ち込まれるし、コンサルを請けることもある。地域のネットワークを活かして街づくりを行う浜魂が、いわき市の創業戦略の中核としてしっかり機能している証左だろう。
ちなみに、7月23日は廃校になった母校の再活用をテーマに浜魂をやる。また、来年の3月には、高校生の教育に関するテーマで行政とコラボしたイベントを催す。今後、こうした企画は増えそうだ。

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大学の街づくりカリキュラムにも参画

また、TATAKIAGE Japanでは、いわき明星大学の2年生のキャリアデザインの必修科目にも深く関わっている。
これは、学生が地域に入り込み、地元で頑張っている人たちとディスカッションしながら、地域の課題解決のために学生はなにをするのか、それを企画するというカリキュラムで、今年9月上旬からはじまる。これは実に興味深い。

要は寂れた商店街とか街づくりとかについては、ぼくらは最年少なんですよ。で、せっかく大学あるんだから巻き込もうという発想です。
大学としても、もっと地域に入り込んだりして学生が地域に愛着持ったりする機会を作りたいわけです。そこでこのカリキュラムをすることになりました。

これは、11月の浜魂で中間発表することになっている。起業家育成ということから地域活性化へつながるよう、しっかり設計されている。
さて、そのTATAKIAGE Japan がこれからやりたいことはなんだろう。

会員のメリットを意識してコミュニティを設計するというところに力を入れようとしてるんです。そこをきちんとやってみると、また次の動きとかニーズがはっきりしてくるんじゃないかなと思っています。
それと、ふくしま復興塾から輩出した起業家のたまごさんをもう少しうまくとりまとめるということ、ですね。実際に業を起こしてからもいろいろサポートしていく、あるいはつなげていくということもできたらなと思います。
あとは、今までなんとなく勢いでワーっとやってきたものを、どう満足度を上げてちゃんと収益構造にもっていくか、そこですね。

そう、そこは大事だ。勢いだけでは継続できないし、目標も失いがちだ。
一方の夜明け市場の方はどうだろうか。

夜明け市場では、駅前の空き不動産に起業家として育ってきた人が入居する、という動きを最終的には作りたいと考えています。そもそも、街を変えたくてやっているので。

彼らの視点は当初から「街」だ。「そうですね、そこから全部始まっています」と明快に答える彼らの名刺には、これまたはっきりと「地域問題解決エンジン」とある。
ひとことでコワーキングと言ってもさまざまな目的や想い、もっと言えば理念がそこにある。なければおかしい。TATAKIAGE Japanの場合、徹頭徹尾、視線が内にではなく、街に向いている。
街を生き生きとさせるための、文字通りエンジンとして動かすこと、彼らにとってのコワーキングはそれがすべてだ。

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TATAKIAGE Japan

〒970-8026 福島県いわき市平字白銀町2-10 夜明け市場2階
TEL. 0246-38-6586

・一時利用 / 3時間500円 一日1000円(平日10時〜19時
・正会員・賛助会員 / 3時間250円 一日500円(24時間)
           月会員 個人10,000円 団体20,000円(24時間) 

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伊藤富雄
Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など