起業と連携を実現するコワーキングスペース「co-ba koriyama」(福島:郡山)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その15回目は、福島県郡山市の「co-ba koriyama」さんにおじゃまし、運営者である一般社団法人グロウイングクラウド代表理事の三部香奈さん、理事の三部吉久さんにお話を伺いました。
(※取材 2016年5月30日)

co-ba koriyama
〒963-8023 福島県郡山市緑町9番12号
TEL. 024-922-1377

コワーキングは危機感から始まった

三部さんがコワーキングスペースを始めたきっかけ、それはやはり東日本大震災だった。「自分たちもなにかやらねばならない」という危機感が三部さんに募った。震災後、半年が経って仙台のコワーキング「cocolin」を訪れる機会を得る。

それがすごいショックで、優秀な若い人たちが「社会をどうしよう」という話をしてるわけですよ。衝撃的でしたね、これはなんなんだろうと。若い人たちが熱く語ってる、そういう場ってこのへんにはなかったし、ああいうのやりたいなと思いました。それ以来、コワーキングてすごくいいという想いがありました。

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そんな時、郡山と東京を拠点にするふたりの若い起業家と知り合う。入居するオフィス物件も決まっているというので見に行ったが、ちょっと待て、ここの家賃払うのは大変だろう、だったら、うちもここでやるから一緒にやりましょうよという話になった。
その起業家がたまたま渋谷の「co-ba」に入居していたので見学に行ったという、その巡り合わせも面白い。ちょうど、「co-ba」がフランチャイズを展開し始めたばかりのころだ。「あ、こんなところもあるのか」と、そこでスイッチが入った。
東京は、その震災後あたりからから急速にコワーキングが出現しだす。元々、分母(人口)が多いし、ノートパソコンひとつで仕事をするワーカーのニーズも高いから、カフェに代わる手頃な仕事場として一気に感染していった感がある。
しかしこれが地方にまで累を及ぼすには、随分時間がかかった。ぼくの印象では、地方都市にちらほらコワーキングができだしたのは、2014年あたりではなかったかと思う。そもそも人口規模が小さいところに果たしてそういうニーズがあるのか、地方自治体の主導で開設するケースを除くと、民間レベルでスペースを開設するのは結構勇気がいる。
それ以前に、コワーキングとはなにかを説明し理解してもらうのが難しいということもあるが、そこに地方独特の事情も関係する。

このへんだと、安いワンルームとかだと家賃2〜3万円で借りられるので、割りとオフィスを構えるのは楽なんですよね。やっぱりプライドもあるでしょうし。だから、コワーキングという発想はなかったのかなという気がします。

家賃だけを考えるとその選択肢は正しいかもしれない。しかし、コワーキングはただ「場所」だけを提供しているのではない。
そこで毎日いろんな顔を見せるコミュニティの持つポテンシャルが、利用者にさまざまな機会をもたらす。要するに利用者にとって肝心なのは「場所」ではなくて、そこに集う「人」なのだ。そのことがイメージできれば自然と人は集まってくるのだが、それには地道な活動が必要であり、一足飛びには行かないのが現実だ。
ただ、東北ではコワーキング運営者が一同に会して情報共有する会議もあって、ローカルにおいてともにコワーキングを広めようとする動きはしっかり進んでいる。このことはこれからの地方でのコワーキングのひとつの指標になると思う。

学びへの取り組みがすべて

「cocolin」、ふたりの起業家、そして「co-ba」との出会いにより、背中を押されるようにして、「co-ba koriyama」は2014年11月にスタートするが、「co-ba koriyama」を運営する一般社団法人グロウインクラウドは、それに先立つ2014年3月に設立された。

会計事務所のほうでは、地元の中小企業をメインにサポートしているんですが、人を育てて、将来事業を起こすような人をもっと増やそうと思ったんです。起業してもいいし、会社に入ってもいい。いずれにしろ、主体的にアイデアやビジョンを持って行動できるような人を育てたいと。起業マインドのある社員もこれからは必要ですし。
要はすべて「人」だろうと思います。全部人がやるので、そこをやらないとよくないだろうと。で、それは大人になって、会社に入ってからでは遅い。子どものうちから、いろんな接点を持つような場を提供して、そこで長期的な種まきをする。子供から大人までいろんな人が集って、いろんな学びの場を企画運営するようになってきたんですね。
コワーキングスペースもその一環という形です。定期的に勉強会したり、場所があると集まりやすいから。もちろん起業家さんを低コストで支援するということにもなりますし。

三部さんの「教育」「育成」あるいは「学び」に対する意識は極めて高い。「全てそれだと思う」と言い切る。コワーキングの目的があくまで「人」であるとするならば、そこを運営する者にとって最も必要な資質はこの意識だろう。
そして、「co-ba koriyama」でもまた、起業家育成プログラムを持っている。

「プチ起業カフェ」はセミナーというほど堅苦しくなくて、ちょっと自分の趣味とか特技を活かしてなにかやりたいな、起業したいな、という女性の方々に集まってもらって、情報交換するみたいな感じでやっています。参加費は無料です。

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実はこの「プチ起業カフェ」は、福島銀行の主催で三部会計事務所とグロウインクラウド社が協力するという形を取っている。

最初、銀行さんから相談を受けたんですよ、創業支援事業をやりたいんだけどと。そこで講師をおねがいしますというお話だったんですが、でもつまんないなと思いまして。いかにも金融機関の当り障りのない内容だったので(笑)。
それで、女性対象にしましょう、名前はこうしましょうと、企画編成を全部こっちでやったんです。そしたらこれがすごくあたって、最初の定員10人のところに80人も応募があったんです。で、一気に回数増やして、今までにもう5回開催していて150人ぐらいが受講しています。(※取材日現在)

これには、ネットショップをやりたい人やアクセサリーを作って売りたい人、カフェやヨガ教室、料理教室をやりたい人など、実にさまざまな女性起業者が参加する。各自がビジネスモデルキャンバスを使って、自社のビジネスを組み立てていく構成だ。
銀行本部からは、「対象が女性というのはどうなのか」という心配もあったらしいが、「他と同じことやってもしょうがないでしょ?」という三部さんの熱意に押されてスタートしたとのこと。今では銀行の説明会ではこれがメインになっているというから、なにがどう幸いするか判らないものだ。

女性は元気です。ここを卒業された方がここでイベントをやるんです。そうすると、女性がまたお友達を連れてくる。そしてまたその中から起業したい人が出てくるんです。

金融機関にとって女性起業家は新しい領域かもしれない。だが、かつて、ムハマド・ユヌス氏が設立したグラミン銀行は、5人一組のグループに対して事業資金を融資するマイクロファイナンスで世界を驚かせたが、その融資対象の実に97%が女性だったという報告もある

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再生を目指す起業家を支援する国内初のファンド

ちなみに、そうした起業家との接点があらたな発想につながったのだろうか、福島銀行は日本政策金融公庫と共に、Challenge Star(チャレンジスター)というクラウドファンディングと連携しながら起業家支援を行っている。
銀行とクラウドファンディングという取り合わせは一見不釣り合いに見えるが、ファンディング達成後、段階的に事業拡張を図る時の資金調達方法としては一考の価値がある。
さらにぼくをもっと驚かせたのは、福島には一度破産した人にしか投資しないファンドがあるということだ。
これは、一般社団法人MAKOTO(マコト)と福島銀行が設立した、日本初の再チャレンジに特化した投資ファンドで、その名も「福活ファンド」という。実ににくいネーミングだが、そのサイトには以下のように謳われている。

日本は、一度でも会社経営に失敗すると再チャレンジがしにくい社会だと言われています。
倒産後、再チャレンジを果たせる率は13%(2002年中小企業白書)であり、多くの経営者が失敗からの再チャレンジの機会を得られず全国で埋没しています。
(中略)
失敗経験者こそ日本における未活用資源です。そして、その貴重な人材資源を何よりも求めているのが、福島県です。
私たちは、起業家が何度でも復活できる環境をこの福島県に作ることによって福島県のみならず、全国からも失敗経験のある起業家を招き入れ、国内随一のあきらめずにチャレンジする人間のフロンティアにして参ります。

地元福島の復興のみならず、日本全体を再生させようという意気込みが素晴らしい。その第一号の方は、実はここ「co-ba koriyama」に入居していて、テレビ番組「ガイアの夜明け」でも取り上げられる予定だ。「co-ba koriyama」はまた、創業支援をする側の人たち、サポーターたちの交流の場にもなっている。当初、郡山市は起業支援にあまり予算をかけなかったが、グロウインクラウド社を起ちあげてコワーキングをスタートさせ、市長が訪れてその現場を間近に見て以来、予算も増えたらしい。ここに集う人たちの真剣度、熱気に「これは」と感じるものがあったのに違いない。

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スペシャリストの育成もコワーキングの役目

当初からある程度具体的な像を持って始められたと思うが、この1年半やって来て、さて考えたとおりになっているのだろうか。

考えたとおりにはなっていますけれども、物足りなさも感じています。やっぱり創業って難しいです。でも熱意とかアイデアとかたくさんありますよね。
で、企業同士が結びつく仕掛けがあっていいんじゃないかなぁと考えていて。むしろ中小企業が主役じゃないか、と。
企業はなにかしないとまずいと感じている、イノベーションを起こさないと。でもそれは社内だけでは無理だと思うんですよね。新しいなにか違うものがないと。

長年、会計事務所をされているだけに企業の抱える課題が明確に見えているし、その打開策もいろいろ思案されている。そしてその解決方法のひとつが、コワーキングにある。
実は企業も、コワーキングに行けば面白い人材がいるんじゃないかというのは十分判っている。このことは、ぼくが各地を回って実際に肌身で感じるところであり、地方創生が叫ばれる昨今、地方でこそ企業とコワーカーがうまくコラボする必要性が高まっているのは確かだろう。ただ、その接点がなかなか見つからないのも現実だ。

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ここで三部さんは実に重要な視点を提起する。

私のイメージする創業って、ちょっと違う切り口があってですね。人手不足になって人が一人雇用されると、その人がその会社でしか活かされないんです。会社が壁になってしまうので。
だから雇用じゃない働き方をしながら、もっとたくさんの仕事ができるような形にしないと、たぶんこの社会は回らないと思います。人がほしい時、雇用じゃなくても働ける、得意技を持ってる人を作る、それがやりたいことです。
最終的には人を雇用しなくても、ここに来れば人材がいて、この課題は解決できる。ここでマーケティングしたり、コーディングしたり、各々が役割を担える人たちなので、仕事をプロジェクトにしてしまえばお互いにいいんじゃないかと。

全く同感だ。はっきり言って雇用コストに耐えられる企業は今後どんどん減ると思う。一方で、必要な時に必要な能力を有するメンバーでチームを編成して仕事に取り組むというスタイルは、雇用する(というか、この時点ですでにこれは雇用ではなく取引だけれども)側だけでなく、働く側にとってもいろんな意味で理に適っている。
まず、自分の能力を最大限活かせる仕事を選べる。仕事する環境を選べる。さらに、パートナーを選べる。と同時に、チームメンバーへの貢献がそのまま信用になる。

いまうちでは、月に一回、スペシャリスト女子会というのをやっているんです。女性を専門家にして時間に束縛されない、雇用じゃなくてスペシャリストとして働ける生き方をしながら、チームで仕事をする、そういうふうにマッチングできたらいいな、という考えで実験的にやっています。
これには、プチ起業家の卒業生も会社員も参加しています。参加者数は毎回テーマによって変わりますが、多い時で40人、少なくても20人ぐらいですね。テーマはいろいろです、デザインとか。 
先日は市長をお招きして、市長を囲むスペシャリストの会をやりました。その場で、市長への政策提言の会にしたりして(笑)。

市長がコワーキングの催す起業系のイベントに参加するというのは、ちょっと他にないかもしれない。(ちなみにこの前日、コワーキングスペース コオリヤマを拠点とする郡山シャルソンには市長もご挨拶にみえられた)
スペシャリスト同士でチームを組んだり、こういう人が欲しいという時につながったりできる仕組みづくりはまだまだ広がりを見せそうだが、「ビジネスプランのピッチもやりたいなと思ってる」と三部さんはすでに次のステップも視野に入れている。

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いま、国の認定を受けて創業支援事業ってやってるんですが、他と同じことやってもしょうがないので、うちは違うことをやりたいんですよね。
で、そのカリキュラムの中に今年はビジネスモデルをブラッシュアップしようというセミナーをやろうと思っています。そこに中小企業の方だとか、これからビジネスを起こしたい方に参加してもらって、みんなでブラッシュアップできるような仕組みを考えています。

さらに、中小企業の承継問題についても独自のプランをお持ちだ。

事業承継を臨む企業と起業したい人をマッチングする、そういうM&Aもあるんですよ。それをもっと全国のレベルでやれば、例えばここで事業があるから東京から来てくれとか、情報を発信できますよね。

この時点ですでに郡山を超えた話になってくる。

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国内から海外へコワーキングをつなげる

さて、これから「co-ba koriyama」でやってみたいことはなんだろうか。

子供向けをもうちょっと充実させたいなと思ってるんですが、子供との接点がなかなかないんです。今年の夏ぐらいにはやりたいなと思ってるんですが、子供の集客が難しくて。子供ってどうやって集客するんですか?

問われてとっさに紹介したのはCoderDojoだ。2011年にアイルランドから始まった、子供向けのプログラミング教室だが、ボランティアのメンターが運営していて、今や63カ国で開催されている。
ところで、地方のコワーキングはもっと連携した方がいいと思っているのだが、東北の運営者の会議以外に、スペース同士で合同にやれることは一体なんだろう?

それがやりたくてしょうがないんです、それをどうやってやろうかと思ってて。それをやらないと、地元だけの集まりだと、同じ顔ぶればかりで刺激がないんですよね。
福岡とか見るとアジアとつながってるじゃないですか、やっぱりそういう動きが必要だと思うんです。むしろ東京より九州とつながって、そこからアジアへつながるということがやりたいんですよ。福岡を拠点にアジアに目を向けていきたいなと。
私たちがアジアとつながるというのはハードルが高いんです。でも福岡とならつながることは可能です。だから、まず福岡とつながって、あとは福岡の人にアジアに向けて働きかけていただく。
もし、福岡のコワーキングがそういう機能を持っていただければ、全国のコワーキングがアジアにつながるということになりますよね。
コワーキングもその地域地域で役割というか、全国の中で受け持つ役割が多分違うんだと思います。福岡は福岡でやっていただける役割があれば、こちらもまた役割があって、お互いに活用し合えば面白い取り組みができると思います。

この発想はなかった。アジアに向けて国内のコワーキングを連携するなどというアイデアは、地方でコワーキングを運営しながらも、常に目を外に向けていなければ思いつかないだろう。
と思っていたら、さらに面白い提案が飛び出した。

市とか県が東京にコワーキングを作ってほしいですね。そこで東京にいる地元出身の人が自由に使う。そこで交流があって、東京営業所として拠点にする。で、そこに県外の人が行けば、じゃその県に行ってみようかという接点ができる。
でも、新たに作るとなると結構ハードルが高いでしょう。だったら、東京にあるコワーキングがそういう連携をしてくれればどうかなと考えています。実はそういう趣旨のイベントも計画中です。

なるほど、これはいいアイデアだ。しかも、すぐにでもできそうだ。
コワーキングの内側だけを見ていると、その無限の可能性に気づかないままになってしまう。それではもったいない。そこを利用する人たちに、一体何をしてあげられるか、単に電源やWIFIの提供というモノだけではない、コトに着目することでたくさんのことを思いつく。
コワーキングは箱ではない。その社会をより良くするためのエンジンだ。いかに駆動させるか、それは運営者の考え方次第。今回、三部さんはそのことをあらためて思い知らせてくれた。

(取材・テキスト / 伊藤富雄)

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co-ba koriyama

〒963-8023 福島県郡山市緑町9番12号
TEL. 024-922-1377

・1DAY利用 1,000円/日
・一般会員 8,000円/月
・ネットワーク会員 15,000円/月

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伊藤富雄

Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など