運営者と等身大に成長する「コワーキングスペース コオリヤマ」(福島:郡山)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その14回目は、福島県郡山市の「コワーキングスペースコオリヤマ」さんにおじゃまし、運営者であるNPO法人アイカラー福島代表の山口亜矢子さんにお話を伺いました。
(※取材 2016年5月28日)

コワーキングスペースコオリヤマ
〒963-8004 福島県郡山市中町11-3 栄達中央ビル3FTEL. 024-953-8057

コワーキングは私の居場所だった

山口さんご自身は、建築業界の出身だ。現在も、アイカラー福島とは別に起ち上げた合同会社ハウスクリエイトで、建築コーディネーターとして建築主をサポートしている。
建築という仕事は映画を撮るのと同じように、多くの専門職がプロジェクトチームを組んで取り組むものだ。協働するという意味では、コワーキングの典型とも言える。山口さんがコワーキングスペースの運営に至ったのは、必然だったのかもしれない。

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でも、東京にいる時にはコワーキングを使ったことはなかったんです。ええ、まったく。会社の中にいましたので、全然、知りませんでした。ところが、会社を辞めてみて、必要になって。仲間はいるんですけど、みんな会社やってるし、いつも自分のことをかまってくれるわけではないし(笑)。それで、みんなが出入りしてくれる場所が要るなと。

つまり、山口さん自身がスタートアップであり、その拠点としてコワーキングを起ち上げたということになる。「ただ、役所がよくやるインキュベーション施設みたいなのではないものをやりたかった」。それがコワーキングだった。

福島に来てから、スタートアップの人がいる場所ってなんだろうなと調べました。キーワードはシェアオフィスとか起業とかで。そしたら、コワーキングというのがあって、ああ、なるほどと。でも、郡山にはコワーキングはありませんでした。あったら会員になってたんですけど。なので、私がやろうと思ったんです。

自分に必要だったからはじめたという動機は、地方都市のコワーキングには必ずある。それはしかし、自分たちの使いやすいワークプレイスを、自分たちで開設して運営していく、ということだけにとどまらない。そこで仕事なり活動なりする人に能動的にコミットしていくことで、地域の活性化に貢献するコワーキングというエンジンを、無意識のうちに動かしていると見ることもできる。

なんでコワーキングみたいなのはないのか、ないなら仲間と相談してやろうということになって、建築系の人とか、NPOの人もそうなんですけど、どっちかというとファイナンシャルプランナー、広告の人なんかが話に乗ってくれました。

 

そうして、「コワーキングスペース コオリヤマ」は、2015年6月にオープンした。

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重要なテーマはやはり創業支援

自分の拠点としてスタートしたコワーキングだが、利用者をどうやって集めたかのかが気になるところ。
まず一年はイベントをやり続けようと思ったんです、人に来てもらうために。2〜3週に一回、月に2〜3回でしょうか、それがよかったんです。そのうち、会員になりたいという連絡が 入ってくるようになりました。半年ぐらいしてからですね、増えてきたのは。
コワーキングにとってイベントが強力な周知・集客手段であることは、古今東西、変わらない。しかし、「コワーキングスペース コオリヤマ」ではもう一歩踏み込んだ作戦に出る。

そもそも、コワーキングスペースってどういうところなのかわからないですから、郡山商工会議所の創業塾に参加される人たちを対象に、コワーキングスペースを訪問するツアーを企画して持ち込んだんです。だいたい、40〜50人が集まるんですが、誰もコワーキングって知らないですから。でも、一回使ってみればわかりますでしょ。で、こういう場所でスタートアップってできるんですよと、皆さんに話させてもらいました。

ソフト面で行政とタッグを組むことによって、起業者にも、また元々、この地域で創業支援していた人たちにも、コワーキングを知ってもらう仕組みを作った。商工会議所に創業支援の場としてコワーキングをアピールするのは確かに有効な方法だ。

だいたい創業支援の方々って、士業さんだったり銀行さんだったりですよね。起業に関する実績はそれまで全然なかったんですけれど、昨年、創業支援事業者に認定いただいて、今年も引き続きやっています。とにかく結果を出すという話をして仲間に入れてもらいました。

自身がスタートアップだけに、このへんのガッツはさすがだ。
そして、すかさず創業塾のカリキュラムの中に、「地域の起業家のお話を聞いてみる」というカリキュラムを盛り込むことを提案する。座学ばかりではなかなか起業のイメージもつかめない。それなら、先輩起業家を招聘して、もっと具体論を展開するようにしたほうがいいのではないか。そして、それもまたOKを得る。

10日間のうち2日間を使ってもらうようにしました。私も少しお話させてもらっています。そうすると皆さん、あ、こんなところあったんだ、と。実際に使うどうかは別にして、そういう起業する環境が整ってきているということ、バックアップしてもらえるような環境があるんだなと思ってもらえるだけでも違うじゃないですか。

これもまた、起業家だからこそ湧いてきたアイデアだろう。
なお、創業支援事業に関わるコワーキングスペースの情報は郡山市のサイトにも掲載されていて、「コワーキングスペース コオリヤマ」の他、「福島コトひらく」、「co-ba koriyama」が紹介されている。
郡山での起業・創業を応援|フロンティア.netこおりやま

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ちっちゃいビジネス応援塾

「コワーキングスペース コオリヤマ」では、ちっちゃいビジネス応援塾という、ビジネスアイデアを持つ人のための創業支援講座がある。元々、仙台の株式会社結ネットの稲葉社長が講師を務めている講座で、ぜひ郡山でもやってほしいとお願いした。 
このツアーで各地のコワーキングを訪ねているが、こうした起業仲間のためのコミュニテイをしっかり運営しているところは共通している。起業仲間がいるとモチベーションを維持できるし、励みにもなる。もちろん、良い意味での競争心も湧くだろう。今年は8月ぐらいから開講の予定だ。
さらに「コワーキングスペース コオリヤマ」では、ちっちゃいビジネス応援塾の卒業生が定期的に集まれる場所を作ろうということで、毎月第三金曜日の夜に「ちっびじフライデー」なるイベントも開催している。

そこでもやっぱり、皆さん、勉強したいんですよね。もう飲み会だけでいいんじゃない と私が言うと、いやいや、学びがないと駄目ですと言われて。みんな真面目だなぁと(笑)。それで、毎回、誰かのビジネスについてブレストする会にしています。

ポイントは起業したい人だけが参加する、という点。これは、マツヤマンスペースの起業カフェにも通じる、結構濃密なコミュニティだ。
だが、そもそもコワーキングとしては起業志向の人だけを狙ったわけではなかったそうだ。

この1年、起業系のことしかやってこなかったせいでしょうか、コワーキングは誰でも使えますという伝え方をして来たんですけれど、結局スタートアップの人しか来ないんですよ。そういうつもりはなかったんですけどねぇ(笑)。学生さんにも来てもらいたかったし、会社勤めの人や、50歳代、60歳代の仕事辞めてまたなにかやりたいという人にも、そこは制限なくと思ってたんですけれども。
結局、私もスタートアップだったのでそうなっちゃったんですよね。私のやれる範囲内でしかやれないので、それでそういう人しか来ないんですよね、結果として。

誰もが使えるコモンズとしてコワーキングはあるけれども、主宰者の立場や思考がスペースの運営に反映するのは、それはそれで構わないと思う。むしろ、なにか強力な意図が働いて利用者の多様性が演出されるのは、やはり不自然だ。

利用者のほとんどが起業した人たちですね。業種的には、IT関係、ファイナンシャルプランナー、経営コンサルタント、広告関係、データ処理系、教育関係、あと、あれだ、イベントですね、ロードレースの企画運営されてる方とか。会社組織に属してる方はこの中では3人ですね。それ以外は、自営かひとりカンパニーです。ITウェブ系の方が最近ひとり採用しましたけれど、でも小規模です。

オープンしてから1年経ったこともあり、そういうことならその方向で行こうと決め、4月からはスタートアップの場所としての利用を呼びかけている。
また一方で、東京に本社を置く企業のサテライトオフィスとして、現在、2社が入居している。最近、新入社員も入って来た。「もうオフィスって要らなくなってきているんですね」と山口さんはつぶやいたが、その動きが加速するだろうことは間違いない。
ちなみに、起業創業系以外のセミナーは、ご縁があってお声がけをいただいた方には基本的になんでもOKして、なるべく共同開催の形で実施している。最近では、WrdPress講座や宅建塾などの他、癒やしカフェやアロマ、ローズウィンドウを作る会、ハワイ発のロミロミマッサージを受ける会、自分で虫除けスプレー作る会など、実にユニークなメニューが並んだ。

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会員がスペース運営をサポート

「コワーキングスペース コオリヤマ」の悩みといえば、ドロップイン利用があまり多くないこと。ニーズはなくはないが、少ない。実は春以降ドロップインはなくそうかという話もあった。
しかし、ドロップインをやめてしまうとマンスリー会員の芽も摘んでしまう可能性がある。時には、駅前から「ちょっと今から打ち合わせしたいんですけど」という電話もある。それで継続している。
ドロップインを受け入れるには、スタッフが常駐する運営体制を持たねばならない。マンスリー会員のように、鍵を貸与して自由に出入りできるわけではないからだ。すると、当然コストが発生する。そこをどう解決するかが、どこのコワーキングにも共通する課題だ。
ただ、そこを利用者に助けてもらうというのも、コワーキングではありだ。

「仕事しながら手伝ってくれる人いませんか」と聞いたら、ぜひやりたいですって手を上げる人がいたんです。それもふたり。そのおふたりはコワーキングが何なのかをよく理解していて、ぜひ手伝いたいですって言ってくださったんです。あと、自分でもコワーキングスペースをやってみたかったんです、という人も。だからちょっと手伝えるだけでもウレシイです、と。そういう人がいると本当に有難いです。それでいま、3人の当番制で火水木の13時〜18時だけドロップインを受け付けています。

できるなら毎日ドロップインをやりたいところだが、しばらくはこの体制で行くつもりだ。ただ、いずれ山口さんの会社で採用した人に手伝ってもらうことも検討している。

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日頃の何気ないことがとても大きい

ところで、コワーキングをはじめてみて正直なところどうなのだろうか。

いいですね〜(笑)。私が一番楽しんでいるかもしれないです。仕事しやすいですし。IT関係の人がやっぱり多いので、パソコンのことで何かわからなければ、訊いてすぐ解決しますし、向こうが分からないことを私が解決することもあるし。メンバーに恵まれているということもあるんでしょうけれども。

教え合う場であるのがコワーキングだが、良かった理由はそれだけではない。

やってなかったらこんなに人の輪は広がってなかったでしょうね。それに、建築の仕事もここまで順調に進んでなかったように思います。元々、自分のワークスペースが必要で始めたんですけれど、人の輪という、むしろ副産物のほうが意外な成果としてあります。ああ、こうやって人はつながっていくんだというように感じています。

その人の輪も、前提があってつながっていく。

コワーキングスペースでつながった人と仕事すると、信頼関係がある中からはじまるのでやりやすいですよね。まずコワーキングスペースで会った人って、日頃からその立ち居振る舞いが見えますから。この人だったらお願いできるかなというインスピレーションが働きます。日頃の何気ないことって結構大きいですよね、人って。

サラッとおっしゃっているがここは極めて重要だ。コミュニティの中での日頃の所作振る舞いがその人を表す。人の感覚というものはとても鋭敏で、時に合理性よりも効力を持つ。

最近、取材を受けることが多いんです。地方創生というテーマで、女性であり、IターンとかUターンとか、そこにお金がつぎ込まれてるじゃないですか。私はJターンなんですが、そこに行き着くまでにどんなでしたかとか。で、コワーキングスペースのなにがメリットですかとか訊かれます。でも、あんまり私、立派なこと言えなくて、ただみんな話したくて来るんだと思うんです、と言ってしまって、ちょっと拍子抜けされたりします(笑)。

しかし、それは本当だ。誰しも孤独には耐えられない。コワーキングにいる間、のべつ話しているわけではないが、そこにいる誰かと言葉をかわすことで気づきもあり、多少ノイズがある環境にいることでかえって脳が刺激されて、仕事が捗るということは実際に世界中で起こっている。

誰とも話さずにカシカシやってる人もいますけど 大丈夫かなと思ってしまいます。まあ、だんだんほどけていくんですけれど。やっぱり、一緒に食事したりお酒飲んだりするのが大事かなと思います。

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継続していくことと、等身大であること

今後、山口さんとして、コワーキングスペースを使ってこれからやりたいことは何かの問いにこう答える。

私自身、創業者で、このあとは続けていかなくてはならないですよね。そのために必要なことやヒントがコワーキングに行けば手に入ったり、モチベーションに繋がってまた頑張ろうと思って諦めずにやっていける、そういうことじゃないかと。
誰でも起業創業ってできると思うんですよ。今は簡単じゃないですか、会社興すって。もう形にしちゃうのは簡単。でもやっぱりそこから続けていくのには技術が必要ですよね。それはノウハウであったり、形式であったり、人脈だったり、資金面も含めて、そういうことをお伝えできるような場になればいいかなと思います。

そして、「それは私にとっても必要なことですし、これから自分が進むために必要なことなんです。すごく自分勝手なんですけど」と言うが、そういう当事者感覚がなければ本当のサポートはできない。
それはまた、先輩起業家から学べることを伝承していくということでもある。「自分が得たものをほしい方がいらっしゃったら、一緒にどうですかって言っていくことのくり返しだと思うんです」という言葉は、まさにコワーキングの理念に適っている。
こうしてお話をお聞きしていると、山口さん自身が成長していくことがコワーキングにも作用していて、ある意味、ご自身が等身大の物差しになっているようだ。

あ、そうですよね、そうなんです、それは途中で気づいたんですね。例えばうまく運営されているコワーキングスペースの真似をすればいいかとか、他のスペースと比べてどういう色を出せばいのかとか、「コワーキングスペース コオリヤマ」のあり方をグーっと考えた時期があったんですけど、ある時に、そんなに気にすることじゃないなって思えまして。
元々、自分が欲しくて始めたところだし、自分のステップアップに合わせて修正していけば、それでいいんだなって思えた瞬間があったんですよね。あるタイミングで。何気ないことから、ああそれでいいんだなって思ったんです。そしたら、もうあんまり廻りの他のスペースがどうだって全然気にならなくなっちゃいました(笑)。

言わば、悟りの瞬間だったわけだ。

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元々、コワーキングスペースという言葉を知ってる人も多くないので、コワーキングスペース同士で潰し合いをするなんてホントに馬鹿げたことだと私自身思ってるんです、最初から。おひとりでもやる人が多いほうがいいに決まっていますし、もっと増えていいですし。ただ、同じものがあってはつまらないので 向こうがそうならこっちはどうとか考えたんですけどね。でもコワーキングスペースって面白いもので、自然に出てくるんですよね、色って。やってる人で違ってきますね。だから等身大でいいんだって思いました。

これは、これからの社会を少しでもいいものにするためにコワーキングを始めた、いわゆるコワーキング第一世代は確かにそうだった。良くも悪くも自ずと主宰者の人となりがスペースに反映していたし、それがコミュニティの色合いを決めてもいた。
「私は郡山の人間ではないので、あくまで客観的視点ですが」と前置きした上で、「郡山には新しいものを受け入れる寛大さ、柔軟さが、あるいは新しいものをやる人同士が連携して盛り上げようとする機運があるように思います」と、山口さんは言う。それは、数カ所のコワーキングスペースを巧みに使い分けていることと無縁ではないのではないか。
福岡の例を見るまでもなく、いまは地方からコトを興し社会を変える時代だ。しかし、それは必ずしも遠大なテーマや巨大なイベントである必要はない。日々の営為の中から、少しずつ改善されている小さなことの積み重ねが、時の移ろいに耐えて引き継がれていく。郡山にも、その胎動を感じる。
ところで、山口さん、最初はゲストハウスかシェアハウスをやろうと思っていたそうだ。そして今は、「ゲストハウスとコワーキングをジョイントさせたい」と考えているらしい。まったく同じことをぼくが始めようとしているので、このあと、また長い話になったのだが、そのことはまた別の機会に譲ろう。

(取材・テキスト / 伊藤富雄)

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コワーキングスペースコオリヤマ

〒963-8004 福島県郡山市中町11-3 栄達中央ビル3F
TEL. 024-953-8057

・月額会員 12,000円/月 全時間帯利用可 10〜22時(月〜日)
・法人会員 25,000円/月 全時間帯利用可 10〜22時(月〜日)
  ※同法人で同時に3名まで利用可
・平日会員 6,000円/月 10〜14時、14〜18時、18〜22時のいずれか(月〜金)
・ドロップイン 1,000円/日 13〜18時(火・水・木)

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伊藤富雄
Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など