地域のコミュニティで活動するコワーキングスペース「福島コトひらく」(福島:郡山)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その13回目は、福島県郡山市の「福島コトひらく」さんにおじゃまし、運営者である特定非営利活動法人コースターの事務局コーディネーター、志賀美和子さんにお話を伺いました。
(※取材 2016年5月28日)

福島コトひらく
〒963-8071 福島県郡山市富久山町久保田字下河原191-1
TEL. 024‐983‐1157

そもそもにコミュニティありき

この大きな建物をどうして見つけられなかったのか、スマホを片手にずいぶん廻りをウロウロしても判らず、ご近所と思しき人に尋ねたら「ここでしょ」と指差されて、やっとそのとば口に立ったという始末。検索するより人に訊け、という鉄則を忘れていたことに歯噛みしつつ、「福島コトひらく」にようやく到着した。
「福島コトひらく」の運営母体は、2012年10月12日設立の特定非営利活動法人Costar(コースター)だが、実はコワーキングスペースの前身となる「コミュニティBOXぴーなっつ」というコミュニティスペースを、任意団体として2008年からすでに運営していたという経緯がある。つまり、そもそもがコミュニティとしてスタートしているという点に注目しておきたい。

郡山市内で気軽に集まるコミュニティスペースがなかったので、若者の交流の場として開設されました。「ぴーなっつ」は、福島大学や日本大学の学生が集まる場所だったんです。

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そうして大学生がさまざまな活動をしていく中、2011年(平成23年)3月11日午後2時46分に東日本大震災が起こった。
自分たちでも何かできないかと考えていたところに、田村市復興応援隊の話が舞い込む。すぐさま、「ぴーなっつ」の中から応援隊への派遣を始めた。これまで、10数名が応援隊に参加している。
実は志賀さんご自身も被災地である双葉町のご出身だ。2014年にコースターに就職し、この5月で3年目に入った。当初、「ぴーなっつ」のコミュニティ運営が担当だったのだが、この活動をもっと大きくしていきたいというコースターの方針で、2015年10月にコワーキングスペース「福島コトひらく」をオープンした後は、コースターの他の事業の仕事と掛け持ちでスペース運営に携わっている。
もともと、この地域は商業地域で卸売関係の施設が多かった土地だ。いま、「福島コトひらく」が入居するこの建物も、元は倉庫だったが、コミュニティに関わるみんなでリノベーションに勤しんだという。いくつか写真をあげておくが、ご覧のように広々としていて、木目調の非常に気持ちのいい環境だ。

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ただ、オープンして半年余り、実際のところ、まだコワーキングとしての利用は少ない。志賀さんの課題のひとつは、そのコワーキングの利用者をもっと増やすことだ。
これまで利用される方は100%男性で、会社に勤務している方の打ち合わせやワークショップ、あるいはイベント利用で会議室を利用するケースがほとんどだった。「福島コトひらく」のイベントに参加した人たちから、「今度、こういうイベントに使いたいんだけど」という話はあるが、コワーキングとしての利用はいまのところ両手に余るぐらいしかないのが実情だそうだ。

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それは、ここが前身の「ぴーなっつ」の延長線にあることがひとつの理由かもしれない。「以前からの関係のある人だけではなくて、全く新しい出会いの人、はじめて来ましたという人にもっと来ていただきたいんです」と、志賀さんは言う。

ここをはじめて訪ねて来られる方は、だいたいウェブサイトやFacebookのイベント告知をご覧になって来られます。中には「他のコワーキングで聞いて、前から気になっていたので来てみた」という方もおられて、とても嬉しいです。たまに「こんなところにこういう建物があったんだ!」と、地元の方でも驚かれることもありますけれど。

そう、それはぼくもそう思った。

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NPO法人ならではの活動と絡めたイベント

この話を聞いて、ぼくは6年前のコワーキング開設当時、まったく人が来ない、どこか虚ろだった日々のことを思い出した。そして、そこに人が来るようになったきっかけが、イベントだった。
ただ、空いている席に座ってノートパソコンを開き、おもむろに仕事しつつ、ときどき向かいの人と話し込んだりする、という世界中のコワーキングで普通に見られる風景は、一度なんらかのきっかけでコワーキングを訪れた人には理解できる。ああ、こういうのもありなんだな、と。
しかし、来たことのない人には想像がつかない。想像できないものには警戒心を抱くのが人間の性だ。その警戒心を取り去るのがイベントだ。
何月何日の何時から何のテーマでこれこれのことをしますよ、興味ありましたらどうぞお越しください、と事前に告知することで、あらかじめそこで展開される風景をある程度予測できて、人はそこに同席する自分の立ち居振る舞いを予習できる。
どうやら同じ興味の対象を持つ者が集まるようだ、それなら話も合いそうだし、たとえ合わなくともこっちにも多少の心得はある、じゃ、行ってみるか、となる。

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このことを「福島コトひらく」にあてはめると、しかし、通常、コワーキングで催されるセミナーやワークショップといったイベントと、少々趣の違ったことができる。母体であるコースターの諸々の活動とうまく連携できるだからだ。これは参考になるのではないか。
志賀さんが昨年担当したのが、古着の再利用事業だった。
いわき市のある団体が、古着の回収、仕分け、リメイク、リサイクル、リユースをやっていて、実にその90%が再利用されている。コースターはその活動の拠点の一つになっていて、昨年、若者の職業支援をしている団体と連携して、延べ29名の若者を動員し、計4回の仕分け作業を行なった。

昨年は、最初の年だったので、仕分け作業のところでとどめたんですが、今年はその古着を使ってインテリア雑貨を作る活動を6月(※)から始めます。リメイクまでやろうということですね。
(※取材後、6月9日に第1回を実施)

仕分け作業とリメイクとではまるで意味が違う。ものづくりの場としてコワーキングを活用するわけであり、単純作業が創造的な仕事に変わるばかりではなく、そこに収益という評価軸も加わり、働き手にとっても励みになる。

古着はそのまま売れるものもあるので、うちの前でバザーを開いて、地域の住民を交えたイベントをやりたいと考えています。
・そのまま売る
・リメイクする
・そこに地域住民にも関わっていただく
そうすることで、「コトひらく」自体も知っていただけたらなと思っています。

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この企画は重大なことを示唆している。地域の中でコワーキングがきちんと役割を果たすことになるからだ。
コワーキングスペースが、その地域に向けて発信するということの重要性は、実はあまり考慮されていない気がする。ユーザーを特定してしまっていて、そのユーザーはどこからともなくやってくる。その結果、地域に対してクローズドになってはいないか。これはぼくにとても反省点になっている。
もちろん、しっかり役に立っているスペースも中にはある。さて、自分たちはどうだろう。時々、省みる必要があるのではないか。ことに、地方におけるコワーキングには、こうした感覚が不可欠だ。
もちろん、その発想は被災したことと無縁ではないだろう。日頃から地域住民との関係を密にすることで、相互に貢献できる体制が整う。なにか起こってからでは遅い。
そして、この企画はまた、コワーキング自体にも利用者を呼びこむ効果も期待できる。コワーキングする人たちの中にはシェア精神の旺盛な人もたくさんいる。そこで、古着再利用というテーマで、デザインやライティングなどそれぞれ得意分野をもつコワーカーにチームメンバーとして関わってもらうのだ。
こうした活動のチームメンバーとして参加することで、仕事に繋がることが実はよくある。そういう機会を、コワーキングするフリーの人たちは結構うまく活用する。そのきっかけをつくってあげるのだ。
大きな仕掛けは要らない。コーヒーとお菓子、時には飲み会をしてもいいが、ゆるい空気とガチッとしたテーマでディスカッションしながら企画をすすめる。みんなで意見交換するのがコツ。そのうち、イベントのテーマによって、人数や役割をコントロールできるようになる。

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コワーキングはジャムセッション

目下の志賀さんの悩みは、タスクが多すぎて十分手がまわらないことだそうだ。

コースターの仕事もありますから、コトひらくだけに集中してるわけではなくて、たまにコワーキングに来てくれる人とも、ちゃんとコミュニケーションできていないので、すごくモヤモヤしています。時間配分がうまく行かなくて、全部中途半端みたいになってて。

「そういうところを手伝ってくれる人が、利用者の中から出てこないかなと期待しているんですけど」と笑っていたが、それはあながち、ない話ではない。むしろ、積極的にアプローチすべきだと思う。コワーキングがなにかを判っていて、自分の仕事場として、そして仕事仲間との共用の拠点として、その環境を維持することに力を貸してくれる人は、案外近くにいたりする。

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その一方で、志賀さんはこうも言う。

コワーキングスペース間を自由に行き来する、そのスペースそれぞれでつながりを持つ、そのほうが自然だと思うんです。気分的に今日は広いところでやりたいから「コトひらく」に行くとか、駅近くだったら例えばココさん(コワーキングスペース・コオリヤマ)に行くとか、いろんな条件で使い方は違ってていいと思うんです。

なんだ、それ、ぼくがいつも言ってることじゃないか。このへんのユーザー感覚はいつまでもフレッシュでいてほしい。
これからやりたいこともまたユニークだ。

以前、「ぴーなっつ」でやってた地野菜を使って県内の郷土料理作ろうというイベントが好評だったので、6月から「全国ご当地料理会」というのを始めようと思っています(※)。面白そうなご当地料理を検索して、ご当地の人からお話を聞いて、自分たちで「これであってんのか?」といいながら勝手に作ってみるというイベントです。
(※取材後、6月7日から毎週火曜に開催。6月のテーマは、福岡県のうどんチェーン店牧のうどんの、肉ごぼう天うどん)

これは面白い。キッチンのあるコワーキングなら真似したいのではないだろうか。
志賀さんによると、IターンやUターンの人たちも多いので、彼らも巻き込んでやるのがポイント。そこでまた人つながりが進む。そして、食べ物には歴史が文化が色濃く反映している。その料理の成立した背景を学びながら、時にお国自慢も交えて美味しいものをいただくという趣向は、きっと喜ばれるだろう。
志賀さん自身はアートが好きなので、「いつかコトひらくの中をアートしてみたい」とのことだが、そこでも個性がぶつかる楽しいコラボが見られるかもしれない。

「ジャムセッションですね。趣味の合う人が3人いたらやってみる」と言っていたが、そう、それこそコワーキング精神だ。

(取材・テキスト / 伊藤富雄)

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福島コトひらく

〒963-8071 福島県郡山市富久山町久保田字下河原191-1
TEL. 024‐983‐1157

・コワーキング利用料金
 Aメンバー 300円/時間 1000円/日 10:00〜21:00
 Bメンバー 10000円/月 10:00〜21:00
 Cメンバー 15000円/月 24時間

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伊藤富雄
Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など