会津で最初のコワーキングスペース「ココカラ」(福島:会津若松)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その12回目は、福島県会津若松の「ココカラ」さんにおじゃまし、運営者である諏訪亮祐さんにお話を伺いました。
(※取材 2016年5月27日)

コワーキングスペース・ココカラ
〒965-0878 福島県会津若松市中町1-9
TEL. 0242-23-4547

「ココカラ」からのスタート

会津若松市は人口約12万人の街だ。ぼくは、全国各地にあるこれぐらいの規模の地方都市でコワーキングが仕事をする場、起業する場、学ぶ場としてちゃんと機能することで、これからのローカル経済を支えるエンジンになると考えている。その会津若松で、「ココカラ」は昨年4月10日にオープンした。

代表の諏訪さんは元々、高校で教師を勤めていた。ちなみに、諏訪さんは地元の会津大学の卒業生だ。同学は、1993年に日本初のコンピュータ専門大学として設置された大学で、先進的なコンピュータ教育により、「新しい知を創造するコンピュータサイエンティスト」の育成をモットーとしている。

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それが赴任一年で、公務員としての働き方に「なにか違う」と違和感を感じて辞めてしまう。

まわりがみんな企業で働いてるのに、自分だけ安定路線でいいのかなと感じて。もうちょっと自分も苦労したほうがいいんじゃないかと思ったんです。

「なんと、真面目な方ですね〜」と言うと「いやいやいや」と笑って手を振るが、もっと自分が何かを作り出しているという実感がほしかった、というのが本当かもしれない。

「ココカラ」の母体は、すぐ隣の合同会社ピーシーアシストAIZUであり、同社は全国に顧客を持つパソコン修理会社だ。このように、コワーキングがある事業体の一部として開設される例はないわけではない。それはウェブデザイン会社だったり、カフェだったり、最近では海の家でコワーキングがオープンしたりしている。

だが、パソコン修理というもろにハードウェア系の企業がいち事業として行うのは、親和性が高いように見えて、案外ないのではないか。少なくともぼくは知らない。もしかしたらあるのかもしれないが、ここは、全国のパソコン修理ショップに是非検討をお薦めしたい。

「ココカラ」があるスペースは、以前は同社の倉庫であり、のちギャラリーだった。個人でブログを書いたり、ライティングの仕事をしたりしていた諏訪さんは、そこで初心者向けのFacebookセミナーなどを開講するようになる。それがコワーキング開設へのきっかけとなるのだが、実は諏訪さん、自分ではコワーキングで仕事をした経験はなかった。

会津には、シェアオフィス形式のワークスペースしかなかったんです。一応、ここをオープンする前に行ってはみたんですけれども。コワーキングというもののイメージはあったんですが、それもネットを通じて東京や名古屋から得られる、あくまで二次情報だけでした。

そんな状況でスタートする「ココカラ」だが、それだからこそだろう、その名前には諏訪さんの熱い想いが込められている。

受託にしろ起業にしろ、ここを拠点にしてもらって、いわば下積みというか、まずは経験を積んで、自分の目標に向かって進んでいく、そのスタート地点となり、きっかけになる。そういう意味で「ココカラ」とつけました。もちろん、自分自身もゼロから、という気持ちがありましたから。

それはまた、会津で最初のコワーキングとしての意気込みを示してもいた。

最近、リモートワークってよく聞きますよね。働き方の自由化と言うんでしょうか。「働く=会社に行く」だったのが、今はどんどん多様化しているというのを、身を以って実際に示すつもりでコワーキングをはじめたんです。「それは都会だからできるんでしょ」って言われるかもしれないんですけど、そうじゃなくて会津でもできるんだよ、と。

何事も、最初というものにはさまざまな労苦がつきまとう。コワーキングももちろん例外ではない。今は、ネットで情報がたやすく手に入るとはいうものの、それは他の誰かさんの話であって、参考でしかない。

コミュニティとしてワークスペースを運営するには、スペース自体が持つミッションやカルチャーはもちろんのこと、その土地に根ざした風土、利用者の属性などがそれこそ日替わりで作用する。その機微に触れながら、時には翻弄されつつ、利用者とともに少しずつコモンズとしての色合いを整合していく必要がある。これは、ことに地方都市においては不可欠なプロセスだ。

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他の事業とコラボするコワーキング

そして、3月から各地のコワーキングをお尋ねしてお話を聞いて回っているが、ここでもまた、ローカルにおけるビジネスの足がかりとしてのコワーキングスペースの役割がかなり大きいということに、あらためて思い至る。

事業をする上で励みとなり支えとなり、時には刺激となる仲間がいること、創業パートナーと巡り合えること、あるいは事業のコラボレーションの機会を見つけることもコワーキングでは可能だ。これから羽ばたこうとする、まさにスタートアップ時期の彼らにとっては、格好のインキュベートとなる。

ただ、「ココカラ」の興味深いところは、ここをコワーキングだけではなく、観光客向けの「地域の案内所」としての機能も果たしたいという考えもあるということだ。「いままで縁のなかった人がここを訪ねてくるというのは、会社としてもプラス」だからだそうだが、そういえば、そういうケースはありそうで、あまり聞かない。

しかし、それこそ地方のコワーキングならではの発想であり、不特定のドロップイン利用を歓迎するコワーキングなら、むしろ大いにやるべきだと思う。出張で会津に来た時にも、「ココカラ」を使っていただくきっかけになる。

福岡では、Airbnbのフロント業務をコワーキングでやっておられるスペースもあるし、個人的には、今後コワーキングとゲストハウスなどの宿泊設備とのコラボが進むと考えているので、県外からの来訪者を対象にコワーキングに別の仕組みを組み込むこの考えには賛成だ。

ちなみに、地方のコワーキングは、コワーキングだけでは経営的に難しい場合が多い。相対的にコワーキングの利用料金が安価であることと、利用人口が少ないことが主な理由だが、セミナー等のイベント開催でカバーする以外に、別の事業と組み合わせるという柔軟な発想が解決の緒になると思う。

前回、紹介した徳島の「Train Works」のように、スペース内に一坪ショップを置くのもそのひとつだし、コワーカーの制作物を販売してもいいし、期間限定で地元の農産物や海産物を販売するマルシェにしてもいい。

要は、その土地の人たちが出入りする理由を作ること。そして、その地元の盛り上がりを外に向けて発信するということ、その舞台としてコワーキングを活用する。ちょっと考えてみれば、日本の地方にはありとあらゆるコンテンツが転がっている。

それは地元の人には当たり前すぎて気が付かないことが多いけれども、他の地域から来た人には新鮮に映る。そうした地元コンテンツをまとめてみるのは、地方のコワーキングの生き残りの術であるだけでなく、結果としてローカル経済に貢献する一つの方法でもある。

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ここならではの学びのメニューを

「ココカラ」をはじめて、はや1年が経ったが、諏訪さんとしてはそれこそあっという間だった。

自分の中ではコワーキングスペースを運営しているという感覚はないですね。こう言ってしまうとアレですけれど。でも、自分もコワーキングのいち利用者として、毎日ここで仕事しながら応対しているので、そんなに負担はないですね。もう、生活の一部ですから、楽しいですよ。

このへんの感覚はぼくと同じだ。ぼくも、自分の拠点としていち利用者としてコワーキングで仕事しながら、利用者の応対をしている。そして、今では仕事案件を諏訪さんが窓口となって受託し、利用者が分担して仕事するということも行っている。これも、また、ぼくと同じ。自然とチームができるのも、コワーキングのいいところだ。

ついでに敢えて言い切ってしまうと、コワーキングは場所を貸すビジネスにとどまらず、ともにコミュニティを作り活用するためのプラットフォームだと考えている。これに異論があるのも承知しているが、コワーキングの本来の理念はシェアと貢献にあるので、個人的にはこだわっているし、その恩恵にも浴している。

この一年の間にも、「ココカラ」はいろいろなコトを起こしてきた。諏訪さんが主催する、例えばWordPressなどのサイト制作関係の勉強会の他、一般向けの英会話や、子供向けのロボット教室など、徐々にそのメニューも増えている。

ロボット教室で子供さんへの認知ができてきたので、今後は、教室としてカリキュラムを充実させたいです。ロボット以外に、プログラミングやウェブデザインなんかもやりたいですね。対象も、中学生や大人の方、それとコンピュータにあまり親しみのない方に広げて、そういう方向けのコンテンツも用意して。

地元の習い事の場所としてもコワーキングはなにかと使い勝手がいい。フリーランサーや企業に勤めるワーカーだけでなく、子どもや主婦をも対象に、実にさまざまなセミナー、ワークショップが、全国、いや世界のコワーキングのいたるところで開催されている。

しかし、中学生というのは考えたこともなかった。こうして、会って話すことでさまざまなことに気付かされる。

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クチコミが最大の応援

一方で、「ココカラ」の悩みは、これまた地方特有の課題だが、専用の駐車場がないことだ。地方都市はやはりクルマ社会。駐車場がないのは、利用者にとってはコスト的に厳しい。「近隣のコンビニと提携するとか?」という突飛なアイデアも出たが、これは単独ではなかなか解決しがたい課題だ。

ところで、このインタビューの最中に、「知人に聞いたんですけど」とはじめての女性が入って来られた。どうやら、ブログサイトを開きたいのだが、どうすればいいのか判らないので教えてほしい、ということのようだ。

何度も呼ばれては、諏訪さんが画像のサイズやエディターの使い方を教える。まだまだ認知度が足りないと言うが、クチコミで知って来られることほど嬉しいことはない。そういえば、ぼくのところでも、昔こういうシーンが度々あった。近頃、それがないのは、利用者が固定化し過ぎているからだろう。コミュニティとして新陳代謝を促す必要がありそうだ。

一年生のコワーキングを訪ねてエールを贈るつもりだったが、逆に大事なことを教えてもらった気がした。ぼくもまた、ココカラ、次のステップを踏もう。

(取材・テキスト / 伊藤富雄)

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コワーキングスペース・ココカラ

〒965-0878 福島県会津若松市中町1-9
TEL. 0242-23-4547

・一時利用 一般 300円/1時間 1200円/日
       学生 200円/1時間 800円/日
・月額会員 平日 一般 6000円 学生 4000円
      土日祝日 一般 5000円 学生 3000円
      オールタイム 一般 10000円 学生 6000円

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伊藤富雄
Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など