ローカル無人駅をコミュニティに変えるコワーキングスペース「Train Works」(徳島)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その11回目は、徳島の「Train Works」さんにおじゃまし、運営者である株式会社アワグラスの岸村憲作さんにお話を伺いました。
(※取材 2016年4月24日)

Train Works
徳島県 徳島市南二軒屋町1丁目1-29

ローカル無人駅にこそコワーキングを

移動中のちょっとした隙間時間に仕事を片付けてしまいたいということはよくある。あなたも、乗り換えの途中にホームにかがんでノートパソコンやタブレットを取り出した経験があるのではないだろうか。そんな時に、駅舎内にコワーキングがあれば大助かりだ。

その駅舎内コワーキングが徳島にあった。しかも、無人駅に。その名も、「Train Works(トレインワークス)」。運営者の岸村さんは、建設コンサルタントだ。

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ここをはじめたのは、そもそも商店街の活性化のコンサルティングに関わったのがきっかけです。経産省の予算で行う調査事業ですね。ただ、現実にはいろいろ難しいなと感じていた折に、リノベーションスクールに参加したんです。東京や和歌山など、全国でやっている街づくりですね。そこで、co-baさんのことを知りました。

co-baは、株式会社ツクルバ が企画運営するコワーキングで、各地のコワーキングスペースとパートナーシップを結んでいる。ただ、岸村さんはいろいろ検討した結果、独自に開業する道を選んだ。オープンは2015年5月9日だ。

コワーキングについては、はじめのころから興味がありました。実は、フューチャー・コワーカーズさんの会員だった時期もあるんですよ。だから、なんとなくコワーキングのカルチャーのことはわかっていたつもりです。誰でも来れて、すぐそこにいる知らない人と知り合ったりできる、そういう場所で仕事できるのはいいなと。

当初は少々寂れた商店街での開業を計画していたが、この駅舎のテナントが空くという情報を得て見学するや、すぐに入居を決めた。

たまたま、ここの前のテナントだった雑貨屋さんとFacebookでつながっていたんです。で、見に来たらすごくよかったんで決めました。ポイントは、やっぱり駅にあるということと、タッパがある(天井が高い)こと、それに、居抜きでそのまま入居できたことが大きいですね。

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鉄道の駅舎内にコワーキングを開設するメリットについては、ぼくもこれまでも何度かお話ししてきた。乗り換えの途中で仕事ができたら、時間やコストが節減できる。打ち合わせ場所もいっそ駅舎内のコワーキングにしてしまえば、次への移動にも便利だ。

ただし、それは何本もの本線、支線が交差するターミナル駅におけるそれという発想から少しも出ていなかった。つまり、毎日何万人もの人が行き交う都市圏の駅、例えば品川駅のようなメガステーションでのニーズのみを前提としていた。

だが、このコワーキングツアーで地方のコワーキングスペースを巡ってみて気づいたことがある。ローカル鉄道のダイヤは便が少ない。1時間に1本、2本というケースもざらにある。そして、1本乗り過ごすと次の電車を待つまでの間、数分でも数時間でもない、数十分という微妙な空き時間を生んでしまう。

仕方なく、駅のベンチで、あるいは近所の喫茶店で時間をつぶす。こういうとき、規模は小さくとも、高価なチェアや巨大なモニターや無料の飲料ベンダーがなくとも、駅が最低限の仕事環境さえ提供してくれれば、通りすがりのコワーカーにかぎらず、地元で仕事に励むすべてのワーカーにとっても重要なベース(拠点)となる。

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居抜きで入居して、まずスタートを

ローカル鉄道の駅にコワーキングを整備するというアイデアは、さるルートからオファーがあって、実はぼくのほうでも調査と企画を進めている。それもあって今回、「Train Works」を尋ねたのだが、岸村さんのお話の中でもう一点、居抜きで入居したという点に注目しておきたい。

新規にコワーキングを始めようとする場合、ややもすると大掛かりな改装工事をしがちだ。もちろん、契約条件に原状回復が盛り込まれていたり、前の入居者とあまりにも業態が違っている場合はそれもやむを得ないが、使用目的(=提供の目的)をただ「仕事するコミュニティ」に絞れば、コワーキングの場合、どんな内装であろうが利用者にとってはさほどの支障にはならない。

コワーキングを場所を貸す客商売だと考えると、内装や設備にこだわり過度にコストをかけてしまう。これが開業時のハードルになっているのも事実だ。しかし、居抜き入居はそのハードルをぐんと下げる。

コワーキングを共用の仕事環境、つまりコモンズであることを利用者間で理解できていれば、むしろそこで展開されるコミュニティ機能の方に価値を見出し、その対価を支払うことに躊躇しないはずだ。見栄えのことは、あとからでも、やりたければ何度でもできる。

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そうしてスタートした「Train Works」の常連の利用者はウェブ関係や、デザイナー、ライター、プログラマーなどだが、まだその数は少ない。「徳島ではまだ、コワーキングスペースを使って仕事をするいうことが、ほとんどないようだ」と岸村さんは言う。

ただ、県外から徳島に移住した人が多いみたいで、面白い人と知り合えるということはよくあります。それが楽しいですね。「徳島にこういう場所があったんですね!」と来てくれますよ。

ここがまた興味深い。実はこの後、ぼくは徳島でさまざまな活動をする人たちと知り合うことになるのだが、他府県から移り住んできた人が多いことに驚くことになる。

大阪、兵庫、岡山などの近県はもとより、遠く栃木から来た人もいるが、関心したのは彼らが地元の人たちとしっかりタッグを組んで仕事をし、地域の活性化に取り組んでいることであり、そこに徳島の包容力と合理性を感じる。もしやと思って訊いてみると、岸村さんもご出身は大阪だった。

「Train Works」では、イベントの主催はやっていないが、たまに利用者が占いやヨガ、ウクレレ、各地のゆるキャラなどをテーマに自主的に開催している。また、利用者の懇親会も開くが、中には年配者も混じっていて、集まる人たちの属性もバラエティに飛んでいるようだ。それもまた、他府県の人を迎え入れる気風のある地方都市ならではのことかもしれない。

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異業種とのコラボでスペースに付加価値を

もうひとつ、これも他のスペース運営者の参考になるのではないかと思うのが、コワーキング内に設けられた一坪商店というスペースだ。取材時には、バルーングッズと雑貨を扱う2店舗があり、ちょうど3つ目のスペースを施工しているところだった。

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フリーで仕事をしている人は徳島ではまだ少ないんですけれど、でも、なにか自分でもビジネスをしたいという人も結構いるので、じゃ、ここの一部を使ってもらったらどうかなと。というか、はじめてみて、コワーキングのスペースはこんなに要らないということが分かったからですけれども。(笑)でも、地方だったら結構このほうがいいかもしれません。

このことはもちろん、このスペースを維持していく固定費をシェアすることも目的ではある。だが、一番のメリットはそこではない、と岸村さんは言う。

一番のメリットは、いろんな人が来てくれること、それが一番大きいですね。ただ、今のところは、ショップと私との関係であって、相互につながってはいないので、ゆくゆくぼくがハブとなって人的ネットワークにまで広げられたらいいなと考えています。

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コワーキングが他のビジネスとコラボするのは有効だと思う。そのショップに来た人にコワーキングの利用を促すきっかけにもなるし、その逆、コワーキングに仕事をしに来た人がお客さんになることもある。実際、そのバルーンショップの元同僚はデザイナーであり、「Train Works」の利用者になったそうだ。

さらにその一坪商店では、取材後、他府県からハンドメイドのシャツ工房が期間限定で出店したそうで、そうした流動的なメニューもスペースに新たな価値を生むことにつながるので、ぜひ真似したいところだ。

また、コワーキングの利用者の中にも、自分で作ったものを売りたいと考えている人がいる。「Train Works」では、時に近隣の洋菓子店が新製品の試験販売をしたりすることもあるようだが、スペースの利用者のためにそうしたコラボを提案するのも、コワーキング本来の目的に適っていて相乗効果も期待できる。

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複業の時代にこそコワーキングを

岸村さんは、建設コンサルタント、コワーキングスペースの運営以外に、実は梅園を持つ農家と契約して梅酒の製造販売も手がけ、梅酒専門バーも経営している。

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徳島の美郷地区は梅の名産地で、その振興のために梅酒特区になっています。それで、5年ぐらい前に免許を取得して作り出しました。製造直販も卸売りもできます。まさかそういうことをするとは、自分でも思っていませんでしたけれど、実に楽しいです。なので、今は、建設コンサルタント、コワーキング、梅酒製造、梅酒バーの4つの仕事をしています。

まだ、この4つのうち、建設コンサルタントの比重が一番大きく、あとの3つには思うほど時間と労力をかけられないのが現状だが、しかし、将来的にはそこを目指している。いわゆる、複業(副業ではない)の成立だ。

本業という言葉も近い将来、死語になるとぼくは思っている。生涯、一つの仕事で生きていけたら、それはそれで素晴らしい。しかし、時代が移り、社会の成り立ち方もこれまでとは違うようになってきた。これからは、複数の仕事を同時並行にこなしていく、そういう働き方で生計を立て、かつ、自分自身の領域を確保することが当たり前になると思う。そしてそれは、楽しいことだ。

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これはなにもフリーランサーに限った話ではない。近年、大手企業でも社員の複業を認める動きも出てきた。それに伴い、リモートワークの制度導入も加速気味だ。このふたつが両輪の働きをして、新しいワークスタイルの普及を推し進めていく。

暮らしたいところに暮らしてやりたい仕事をする、そういう人たちの仕事環境として、あるいはコミュニティとして、これから地方のコワーキングが重要な役割を果たす。

だが、岸村さんはいたってマイペースで、無駄な気負いがないようだ。

1年やってみて、フリーランスが増えていくということは判ったんですけれど、行政が運営しているテレワーカー向けの施設もそんなに利用されているようではないんですよね。なのでまだやっぱり、徳島では時間がかかりそうですね。

「かといって、なんとかしゃかりきになって利用者を増やさないと、という感じでもなさそうですね?」と突っ込みを入れたら、「全然ないですね!」と大笑い。

それも、複業を実践する人だからこそだろうが、それはまた、地方のコワーキングの生存本能が思いの外タフであると感じた瞬間だった。

そして、地方はなんでも都会の真似をしてはいけないということも付け加えておこう。それどころか、実は、都会こそ地方に学ぶことがたくさんある。無人駅のコワーキングはそのことを教えてくれた。

(取材・テキスト / 伊藤富雄)

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Train Works

徳島県 徳島市南二軒屋町1丁目1-29

・ドロップイン 半日利用 500円 一日利用 900円
・月会員 7,000円
・週2会員 4,000円

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伊藤富雄

Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など