ユーザーが運営を引き継いだコワーキングスペース「ダイヤモンドクロス」(松山)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その7回目は、愛媛松山の「ダイヤモンドクロス」さんにおじゃまし、運営者である武智義典さんにお話を伺いました。
(※取材 2016年4月22日)

ダイヤモンドクロス
〒790-0067 愛媛県松山市大手町1丁目14−2

そのルーツは2000年まで遡る

武智さんはもともと、「ダイヤモンドクロス」を利用するいちユーザーだった。今年の1月に従来の運営者から「3月でスペースを閉める」という案内を受け取っていろいろ考えた結果、後を引き継ぐことにした。

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コワーキングスペースの利用者が、運営者として後を継ぐというケースはないことはない。ただ、今までのところ非常に稀だし、うまく行かずに結局クローズする事例もある。武智さんが、なぜ引き継いだか、その答えはいたって明快だった。

簡単です、自分もここが気に入っていたし、なくなると困るなと思ったんですよ。一時期、広告代理店に席があったのでそっちにいる時も長かったんですけど、2013年からここのオープンスペースを利用するようになり、個別ブースを昨年の6月から利用していました。他に、今まで利用している会員さんもおられるし。それと、松山には予約なしでドロップインできるところもないですしね。

こう聞くと、わずか3年ほどの利用経験があっての話のように聞こえるが、実はそこに至るまでのある種の系譜がある。

武智さんは、以前、松山に本社があるIT企業に席を置きながら、ひとり東京に生活の拠点を持ちウェブ制作の仕事をしていたことがある。地方に本社があって東京で仕事をするというと東京営業所かと思うが、そうとも言いきれないその仕事環境が興味深い。

東京で仕事する社員はぼくひとり。で、一緒に仕事するメンバーはだいたいフリーランサーなので、自分もフリーのプロダクションっぽい見せ方をしてました。実は会社員なんですけど。(笑)で、新宿のあるビルに、それぞれが全然違う仕事をする人を集めて、ブースを区切って共同利用してました。シェアオフィス的な感じですね。2000年頃の話です。

今で言うところのリモートワークをしながら、共同のワークスペースを利用して仕事をしていたわけだ。この当時、そういうワークスタイルを容認した会社の見識にも敬意を払いたい気持ちだが、そうしてどこかの一角を借りたり、シェアしたりしているうちにさまざまな人が交差し、知り合うようになる。

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そのうち、仕事を分担できる仲間を見つけて、プロジェクトチームとして仕事をするようになる。

ぼくは割と自由人なので、組織を作るというよりは、ひとりでやりながらフリーランスと組んだりしたほうが性に合ってるんですね。半分は東京のフリーランスでやってしまうんですけれど、あとの半分は松山にも仕事を出したりして。データのやり取りはサイト作ってFTP使ったり、クラウドなんてありませんものね、まぁ、電話とか。(笑)しかし、そこまで自由にさせてくれた社長は本当に理解がありました。恩人です。

当時、そのプロジェクトチームで格闘技のプライドのウェブサイトをまるまる請け負い、東京ドームからの生中継もやったりしたそうだ。こうしたスケールの大きい案件も、適材適所に人材を置けば、チームのプロジェクトとして回していける好例だろう。

コワーキングを「仕事をする場所」ではなくて「仕事をするためのスキーム(仕組み)」と捉えると、この時点で武智さんはすでにその方法論に則って仕事に励んでいたと言える。コワーキングは仲間を見つける場でもある。必要とする者同士、助け合える者同士が出会うことで自然発生的に起こってくる。だから、コミュニティと呼ぶし、コミュニテイが醸成されない場所はコワーキングとは言い難い。

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地域活性化へとつながるコワーキングへ

しかし、武智さんはその後、会社の組織変更を機に愛媛に戻ることを決意する。と同時に、それまでどっぷりと使っていたITの世界から目を転じ、地域の活性化について関心を持つようになる。

技術者のマネージメントをやるようになって、いったんITの実務から離れたのがきっかけかもしれませんね。収入は安定してたけど、やってることは退屈でしょうがなくなって。で、もともとクリエイティブなことが好きだったので、土日に松山のカフェで地域の面白さを出すようなイベントをしてました。都会にありそうなエッジの立ったことではなくて、地域の忘れ去られているようなことに価値を見出すように、自然と目が向き始めたというか。

こうしたことは、実は地方都市でコワーキングに関わる人、利用する側、運営する側の違いに関係なく、よく見かける。

ローカルにあるもの、起こっていることを再評価することで自らのアイデンティティを確認する、と言えば大げさかもしれないが、その活動の中でまた新しい仲間ができ、プロジェクトチームが生まれることも多い。コワーキングはそうした地域活動においてもプラットフォームになりえるし、実にさまざまな役割を担える。

そしてまたそれは、地域の課題解決の緒になることもある。テーマを子育てに絞って例を上げても、子供連れで仕事したい利用者向けに育児スペースを設けたり、地域の託児所と提携して育児員を派遣したり、子供を対象にしたプログラミング教室を開講したり、あるいは地域の子供のための食堂を開いたりするなど、ただフリーランサーの仕事のための場所ではない、いわばその地域に必要とされるインフラとしての位置を占めるようになってきている。

ちなみに武智さんは、全国各地で開発された地域の魅力商品を紹介し、つくり手と消費者をつなぐウェブサービス、SNSマルシェ【123ね!っと】も運営している。地域活動を全国規模でつなげようという取り組みだ。

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コワーキングから事業ユニオンという仕組みづくりへ

さて、この春から運営する側に回った武智さんだが、今後、「ダイヤモンドクロス」でどういうことをやっていきたいのだろう。

事業ユニオン的なことをやっていこうと思っていて、今、いろいろ考えています。コワーキングのユーザーには、仕事をする場所だけ必要な人と、事業連携が必要な人がいると思うんですけど、その後者のほうを事業プランに応じてその役割に相応しいメンバーでつないでいこうという企画です。

事業ユニオンでは、例えば、「起業支援」「商品開発」「プロモーション」、あるいは「IT・ネット」「デザイン」「経営・経理・労務」といったクラスタに属する人をメンバーとしてチームを編成し、各自がその専門能力を活かして共同で仕事に従事する。そして、そのプロジェクトの窓口を「ダイヤモンドクロス」が受け持つ。

コワーキングのユーザーがチームを組んで仕事をこなすというのは、よく行われていることで、うち(カフーツ)でもやっている。ただ、「ダイヤモンドクロス」では、将来的にはここにクラウドファンディングやAirbnbなども絡ませていく計画だそうで、先々、地域活性化のためのより広い展開を視野に入れているあたりは小倉の「秘密基地」とも相通じる。

しかしこれも、かつて武智さんが東京でやっていたことにそのルーツがあるように思える。そしてそれは、武智さん自身がコワーカーであることと決して無縁ではない。

ところで、実は武智さん、カフェへの想いは断ち切ったわけではない。

ここの運営を引き継いだもう一つの理由は、このビルの屋上が使えるからです。実に気持ちいいんですよ。そこで、土日だけ屋上カフェやりたいなと。楽器と朗読のイベントなんかも考えています。

学生時代から音楽の道に入り、シンセサイザーからコンピュータを触るようになったという武智さん。屋上でその演奏を聞く日も近いかもしれない。

(取材・テキスト / 伊藤富雄)

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ダイヤモンドクロス

〒790-0067 愛媛県松山市大手町1丁目14−2

・一時利用 2時間500円 一日1,000円
・コワーキングスペース フリースペース 10,000円/月
・シェアオフィスプラン 固別ブースA・21,500円/月 固別ブースB・26,000円/月

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伊藤富雄
Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など