起業をアイデアレベルからサポートするコワーキングスペース「マツヤマンスペース」(松山)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、今回から四国編です。まず、愛媛松山の「マツヤマンスペース」におじゃまし、運営会社である中央会計グループの稲見益輔さんにお話を伺いました。
(※取材 2016年4月22日)


マツヤマンスペース
〒790-0011 愛媛県松山市千舟町5丁目3-17 JA松山市市駅前ビル3階

税理士事務所が起業支援のために運営開始

「マツヤマンスペース」と聞いてピンとくる人もいるだろう。どこかで聞いたような、あそうだ、大阪本町のオオサカンスペース。「マツヤマンスペース」は、大阪に本社がある中央会計グループが運営者だが、そのオオサカンスペースと同じビルに入居している。そういった縁で、運営者は違うが、双方のメンバーが相互に利用できる提携関係を結んでいる。

運営主体が、税理士事務所である中央会計株式会社と起業・創業支援の株式会社First Stepであることは、起業志向のあるコワーキング利用者にとっては何かと都合が良い。メンバーを対象に行なっている月1回の経理サポートもそのひとつだ。

むろん、同社もコワーキングの利用者の中から起業する人が増え、さまざまなサービスを提供することで本来の事業につなげる狙いがあるのは言うまでもない。しかし、税理士がコワーキングの運営に携わるということについて、当の稲見さんはどう思ったのだろう。

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個人的には税理士としてコワーキングに関わるとは思っていませんでした。でもまあ、つながりはありますよね。起業の前段階にあるフリーランスの人がコワーキングを使っていますし、そういう人達が集まる場所を運営するというのは結構自然なんじゃないかなと。そもそも起業に興味ある人たちが集まる場所なので、違和感というのは全然ないですね。

そう言う稲見さんは、中央会計松山オフィスの代表であるだけではなく、First Step松山オフィスの代表でもあり、同時にマツヤマンスペースの運営にも携わるという、ひとり3役をこなす。それに加えて、月に1週間ぐらいは大阪でも仕事し、東京にも出張するという超多忙ぶり。「ぼく自身が大阪の仕事をこっちでやってる感じ」だそうだが、まさにリモートワークを実践しているわけだ。

起業カフェでのブレストが次に繋がる

起業をサポートするためには、しかし、起業のプロセスを一歩ずつ進める仕組みが必要だ。同スペースは、スタートアップウィークエンド愛媛の開催にも関わっているが、取材当日はその第2回めの一日目に当たっていたので、別室でその準備が粛々と進められていた。後日、その回には42名が参加されたとの事だったが、実は中四国ではあまり人が集まらない現実があるそうだ。

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「マツヤマンスペース」では、月に平均10回ぐらいイベントを開催している。個人事業者対象の確定申告みんなでやろう会や、ドラッカーを学ぶ読書会もそのひとつだが、起業に結びつくテーマが多い。昨年7月のオープン以来、イベント回数は延べ77回、参加人数は953名を数える。(取材当日現在)

その中でも、2月からはじめた「起業カフェ」は起業支援のひとつの方法論として興味深い。起業のハードルはいくつもあるが、ひとりで課題を抱え込んでしまって途方に暮れることは往々にしてある。「マツヤマンスペース」では、そうした起業家たちが悩みや課題を持ち込んで参加者全員でブレストする場として、「起業カフェ」を月に一回開催しており、これまで毎回満員で賑わっている。


お互いに相談できる場所があったらいいんじゃないか、じゃ作ろうと。起業しようとする人はなにかひとつ専門的な対価を得る価値を持っているので、それを交換しようというのが基本コンセプトです。起業家はディスカッションの場がほしいんです。なにか、ひとりで暗闇の中を走ってるような、そんな感覚に陥って3日間悩むよりも、専門家に相談すれば一言で済むこともあるんですよね。

ひとりがひとつずつ、「こういう事業がしたいけれど、こういう悩みがある」という課題を持って参加する。そのプレゼンにひとり15分間だけが与えられる。それに対して、参加の7人〜12人全員でブレストする。ブレストなので各自短い発言で、どんどんアイデアを出していく。そうして解決に向けてみんなで考える。これが、コーヒー代100円だけで参加できる。

ポイントは、自分の事業に対する課題のある人だけ、起業の意思のある人だけが参加できる点。だから、全員がネタ出しする。すると、人の事業の悩みを聞いているうちに、あるいは、その解決策をみんなで出し合ってるうちに、ふと自分の事業にも効果のあるヒントに出会うことがある。

また、発表者がひとりだけでなく、全員がお互いに課題を出し合うことを条件にすると、集まるメンバーも変わり、新鮮な発想も生まれる。

発表者がひとりだけだと、その人を救うためになんでみんなが集まるのかという動機が必要になりますよね、そうすると、知り合いしか来ないんですよ。ということは、同じコミュニティ内しかリーチ出来ないということなんです。「起業カフェ」は新しい人が循環しないとつまらなくなっていくんです。

これはぼくにも苦い経験がある。日頃からの仲間が起業プランのプレゼンをし、かねてからの知り合いが思い思いの意見を述べたが、そこでは「起業する者が持つリアルなビジネススピリット」は残念ながら共有できなかった。以来、安易にビジネスアイデアをテーマにしたイベントを開くのは控えて来た。

だがこの話を聞いて、うち(カフーツ)でもやりたいと言ったら、ぜひやりましょうと快諾いただいた。ついでに、他の地域のコワーキングでも開催して、相互に参加できるようにして、イベントごとでスペースが繋がるのもいいかもしれない。

イベント後のフォローは特にやっていません。Facebookでグループを作るぐらいですね。ただ、ここで、今こういう思いで、こういうことやりたいと発表したら、「それ、一緒にやりましょう」という人が現れて、いま準備を進めているケースもあります。共感すると自然発生的に次に繋がるんですよね。

事業を起こす際に大切なのは、何をやるかよりも誰とやるかだ、とよく言う。「自分はこういう役割ができるから、一緒にやらないか」という人が現れる瞬間が大事なのだ。しかし、ひとりでウンウン唸って悩んでてもそういう瞬間は来ないし、そういう場面には遂に遭遇できない。「起業カフェ」はその仲間を見つけるための扉を開いてくれる。

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イベント参加のハードルを下げる工夫

「マツヤマンスペース」では、他に「情報交歓会」という交流会を催しているが、こちらはただ人と知り合うことだけを目的にしているいたって気軽なイベントだ。

参加者は会社員、自営業、フリーランサー、起業家、誰でもOKだが、よくある異業種交流会のように、何日も前からしっかり準備していく会ではなく、いわゆるドタ参、ドタキャンもありのイベントだ。

人と交流したい、新しい人と繋がりたいという時に、今日、ちょっと仕事帰りにフラッと寄れる、という感じにしたかったんです。よくある異業種交流会でも、100人集まっても名刺交換できるのはせいぜい30人ぐらいじゃないですか。それって、あんまり意味ないんですよ。そのために時間空けてというんじゃなくて、仕事終わってちょっと時間あるなという時にフラッと来ました、という人たちの多いイベントですね。

出すのはコーヒーだけで、お酒も食事もなし。なので、こちらの参加費もたった100円。特に決まったテーマはなく、自己紹介だけで30〜40分かかるが、2時間で終わる。希望者はプレゼンもできるが、それも3名だけでひとり3分まで。そういう意味では、起業支援のための「起業カフェ」とはきっちり分けている。

多い時は30余名集まるが、それも回を追うごとにFacebookなどのシェアのおかげで広まってきた。そのせいもあり、参加者のうち起業している人や個人事業者、フリーランスの人が7割ぐらいだったのが、最近は徐々に企業に勤める人も参加するようになってきた。

なお、「マツヤマンスペース」では、デザイナー向けにYouTubeライブで生配信するオンラインセミナーも行っているが、稲見さんはそこでもビジネスに纏わるお金の講義をするなど、このスペースならではのカリキュラムづくりにも余念がない。

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そして事業コンセプトを固めるところへ

さて、「起業カフェ」から次は、実際に事業コンセプトを固めるプログラムを7月から始める予定だ。午前中にフレームワークを使って事業コンセプトを考え、一日かけてその仮説を検証するところまでをセットにしたものだ。

目標は一日で一仮説、一検証です。結果まではなかなか難しいかもしれませんが、せめてちょっとはサンプルが取れたとか、検証の方向性まではやりたいなと考えています。

文字通り、「起業カフェ」からステップアップしていけるプログラムだが、逆に、事業コンセプトのイベントに参加した人が、もう少し誰かに相談したいなという場合、「起業カフェ」に参加するというケースもあり得る。どちらが先ということではなく、相互にうまく連携させていく形をとる。

「マツヤマンスペース」としては起業が大きなテーマであり、これからも起業絡みのイベントをどんどん立ち上げていくが、必ずしもスピードは求めていない。

少しずつやっていく中でニーズを拾っていって、これが必要だなというものをひとつずつ増やしていこうという感じです。ちょっとゆっくりにはなるんですけど。でも、いきなりバーンと起ちあげても、そこにコミュニテイも何もないので、そうじゃなくてひとつずつきちんとコミュニテイを作っていこうと思っています。きっかけがあって、仲間ができるのがいいんですよね。15分でもみんなで一緒に考える時の一体感はスゴイですから。

リモートワークを促進するコワーキングへ

今後、コワーキングがどうなればいいと思いますか?という質問に、稲見さんはこう答える。

今のコワーキングだと、フリーランサーとか個人事業者に偏っている感じですけど、もうちょっとリモートワークできる会社が増えて、サラリーマンの方もコワーキングを使って、そこで情報交換したり、仲間ができたりして、一緒に交流が図れるようになればいいなと思います。実は、うちの会員さんで東京の会社さんがおられるんですが、そこは社員が全員リモートワークしてるんですよね。そういうのがもっと広まればいいなと。

これからは、働く環境は自由に選択できるようになる。社員のライフスタイルの変容に伴って、いくつでも仕事する拠点を持てるように日本の企業も変革したほうが、有能な人材が流出しなくていいんじゃないかと思う。稲見さんは、その先も見ている。

働く場所の移動がもっと自由になったら、たぶん企業間の移動ももっとしやすくなるでしょう。そういう仕事の仕方のできる場所、交流できる場所がコワーキングかなと思います。

稲見さん自身は、元々、愛媛は新居浜の生まれで、いずれ大阪から戻りたいと思っていたそうだ。いわゆるUターンだが、そういうことを実現してくれる会社は時代の流れをよく見て機敏に対応できていると思うし、そういう流動性を許容する社会になっていくほうが健全だ。ワークフォース(労働力)は誰かが囲い込むのではなく、社会全体で保有し活用する時代に、もう入っている。

「起業カフェはマジで真似しよう」と言ったら、「神戸でやるときはぼくも参加しますよ」と笑ってエールを送ってくれた。あなたのコワーキングでもやったらどうだろう。

(取材・テキスト / 伊藤富雄)

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マツヤマンスペース

〒790-0011 愛媛県松山市千舟町5丁目3-17 JA松山市市駅前ビル3階

・メンバープラン ・・・月額7,800円(税別)
   予約不要/月〜土 8:00〜24:00 利用可、月1回の経理サポート

・起業支援プラン・・・月額12,800円(税別)
   メンバープランに加えて、住所利用・登記使用可

・ビジター利用・・・日額2,000円(税別)
   要事前予約/月〜金10:00〜18:00 利用可 入退室自由

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伊藤富雄
Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など