仕事を楽しむ人を増やすためにあるコワーキングスペース「天神仕事基地」(博多)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その第3回目は、福岡天神の「天神仕事基地」におじゃまし、代表の大久保道和さんにお話を伺いました。
(※取材 2016年3月29日)

天神仕事基地
〒810-0001 福岡県福岡市中央区天神3-15-1 にちりんビル3F

仕事を楽しむ人を増やすのがミッション

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「仕事基地」のメインのユーザーはずばり学生だ。もちろん、一般のフリーランサーや企業に勤める方の利用もOKだが、一歩入れば若い人たちで実に賑やか、まるでクラブ活動の部室にいる感じがする。しかし、大久保さんの狙いは「仕事を楽しむ」ことにある。

学生が多いので就職相談もありますけれど、それをビジネスにはしていません。ぼくのミッションは仕事を楽しむ人を増やすことなんです。仕事ってこういうもんだよ。こんなオモシロイこともできちゃう。これも仕事なんだよ、あれも仕事だよ、それを学生にも知ってもらいたいんです。ただ、やってごらんというものを提供していきたいだけなんです。

そんな「仕事基地」の主宰者である大久保さんは、ユーザーからボスと呼ばれている。ご出身は横浜だが、東京でもう10年以上ウェブ関係の会社を経営している。そこでも、学生たちにインターンとして仕事に携わってもらっていたが、オフィスを開放するうちにコワーキングみたいになってきた。実のところ、今ではほとんど学生たちで仕事はちゃんと回せるようになっているんだそうだ。

そうなってきて、別にオフィスに集まる必要もなくなったんでとうとう引き払いました。で、請求書が上がってきたら振り込むだけみたいなことになっています(笑)。彼ら、知らない間にスゴイ仕事してるんでびっくりしますね。もちろん最後はぼくが責任持つんですけれども。先日も「就職どうしようか」という話になったんですけれど、「このままでいっか」という人もいますね。

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企業に就職するためのいわば予習の場としてインターンをする学生が、自分の生業としてその道を選択する、そういう生き方も仲間がいればできるわけだ。ここは、コワーキングの本質のひとつでもある。ただし、こういう環境を提供するには前提がある。大久保さんは言う。

うちの場合は、うちの名前使って何をやってもいいよと言ってるんです。そもそも、ぼくは仕事が楽しい、仕事が好きな人なんですよ。ぼくは人に仕事で遊べと言ってるんですけど、ぼくは仕事を楽しんでる人たち、仕事を遊べる人たちと遊びたいんですよ。だから、仕事で遊べる人を増やすという理念があって会社を作ったんです。

そういう人たちを増やすにはどうしたらいいかと考えていて、仕事がつまらなくなる時期が、「就職の時」と「(女性の場合)結婚の時」と「老後、リタイア後」だと気づいた。人生がガラッと変わってしまう時期、そこで仕事がつまらなくなる人を増やしたくないと考えた。

だから、テーマとしては、「学生」「女性」「リタイア後」の3つを掲げている。「仕事基地」はそのひとつのアウトプットであり、ずっと学生だけでやっていく考えはないそうだ。

リタイア後というのは実は親父のことなんですけど。親父は働きたいんですけど働けるところがないんですよね。でも働きたいんですよ。だけど、そういう場所がない。だったら独立すればいいじゃんと思うんですけど。
ホントはだから、リタイア後の人たちがコワーキングスペース使ったらいいと思うんです。それと、スタートアップは若者たちの支援だけじゃなくて、今後はリタイア後の人たちも支援すべきだと思っています。

キャリアを積んだ人が、もう一回ビジネスに取り組むためにコワーキングを利用することで、そのコミュニティに新しい属性が加わるのは、他のコワーカーとの間、例えばフリーランサーや学生、あるいは主婦などと相互にメリットのあることだと思う。だが、実際のところ、こうした人たちのコワーキングの利用はさして多くない。これは、多くの知見や人脈をみすみす失うことにつながる。コワーキングはその解決のために機能すべきというのは同感だ。

学生たちの生み出すエコシステム

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「仕事基地」は学生がメインユーザーであるため、毎年、メンバーが入れ替わり、その都度雰囲気が変わる。そして、卒業して就職し、社会人として育った人たちがまた戻ってくる。そこでまた、一緒に仕事をする。そういう人たちが全国各地にいる。毎年、人的リソースを増殖しているようなものだ。

卒業していった人たちの中で、就職して技術を学び、それを活かしてチームを組んでウェブやアプリの開発の仕事している人もいます。で、ぼくがまた何かやるのを待ってる、と言ってくるんですよ。「旗振れ」と(笑)。すっごい嬉しいです。もう自分たちは稼げるから、なんかするなら手伝うから、と。有り難いですよ。ぼくひとりじゃ何もできないと思ってますから。

それはご謙遜だろう。しかし、ユーザーがコワーキングスペースで仕事の何たるかを学び、一度離れて、何年か後に独立して戻ってきて、今度は一人前の仕事人としてスペースとチームを組む。こういう話は、学生ユーザーならではのことかもしれないが、実は今後、どこの地方のコワーキングでも起こるべくして起こることなのかもしれない。

しかし、「仕事基地」では、ことさら、起業とかスタートアップに力点をおいているわけではない。スペース主催でビジコンやピッチコンテストのたぐいはやらない。ただ、ここで出会って、刺激されたり、友だちになったりということはしょっちゅう起こっていて、知らない学生団体同士が繋がるということは多々ある。

5月には、毎年、学生団体の合同説明会のようなイベントがある。それぞれの目的はさまざまだが、ある女子学生団体は企業の協賛を得て地元の商業施設である天神コアの屋上でイベントを行った。「仕事基地」ができる前は、学生が自分で企業に営業に回っていたが、最近は企業から「仕事基地」に来るようになった。企業と学生をつなげる仕組みを「仕事基地」が持っているからだ。

ただ、会社のインターン学生を集めてほしいという案件はよくありますけれども、そういう関わり方をしたいんじゃないんですよね。やりたいのは、仕事です。動画制作とかロゴや名刺のデザインとかできる学生はいるので、そういう仕事を提供しています。東京でやってるのと同じですね。最終的にはぼくが責任持つんですけれど、企業さんにはもう「仕事基地」は仕事ができる学生がいるところという認識があります。で、学生といえども、結構質の高い仕事をしてくるんです。

ただその対価が東京と比べると低い点が少々不満でもある。「同じ仕事してるのに何が違うんでしょうね。最近、慣れてきましたけど(笑)」と苦笑いするものの、このスタイルで仕事をこなすことの自信を覗かせる。

働く制度を変えてみたい

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3つめのテーマである「女性」のために考えていることは、他のテーマとはまるで事業モデルが違い、ひとつの制度を作ることを想定している。ただし、対象とする層は企業に勤める女性だ。

企業に勤める男性と女性が結婚しやすいように、お互いが週休4日で3日ずつ仕事するというアイデアです。男は週に3日しか働かない。でも4日は子育てする。つまり育メンを制度化したらどうか、と。で、女性も仕事を続けられるようにする。それで男も女も60%の収入、でも世帯で120%の収入を確保する、保証する。それをA社内の社内結婚だけではなく、A社の男性とB社の女性が結婚する場合にも適用できるような制度を組めないかと考えています。

非常に斬新な発想だが、もちろんハードルは高い。しかし、少子高齢化が進み労働人口も減少する将来、とりわけ地方都市においては、もしかするとうまくワーク・ライフ・バランスを設計する手立てになるかもしれない。

もうそうなると、政策レベルの話なんですけど、いっそそういう組合を作ってしまおうかなと単純に考えています。で、それに加盟しているところには、プライバシーマークみたいな加盟者章を発行して、働く人はそういう制度があるところを選ぶみたいな。それで、その制度に加盟している会社の社員さん同士がつながって、恋愛して結婚する。そういう企業同士がつながる仕組みを作れないかなと思っています。
いや、それをビジネスにしようとは思ってませんよ。それもまたコワーキングなんですけど、言ってみれば。まあ、出会いですよね。コワーキングって。

勤める会社同士が連携することで世帯収入を確保することを制度化するというのははじめて聞いた。確かに、単にビジネスオンリーで企業同士が繋がることはいくらでもあるが、社員の幸せを目的に繋がることは実は少ないかもしれない。昨今、ようやく日本でもリモートワークという働き方が始まっているが、それとはまた次元の違う発想だ。

そうしたほうがオモシロイかなと思ったんですよ。きっと、仕事が楽しくなると思うんですよね。原点は、そこしかないんで、ぼくは。で、これは女性がやったほうがいいと思っています。働く子供がいる女性が上に立ったほうが絶対いいです。そういう人が現れたら、これやんない?って口説こうと思っています。

要するに軸はぶれていないわけだ。最初はたとえば東京で事例ができたら、もしかすると各地に広がるかもしれない。

まだまだチャレンジし続ける「仕事基地」

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今後、「仕事基地」でやりたいことについて訊いたところ、返ってきた答えはやっぱり「仕事」だった。それも、受託をすることよりも、自分で自分の仕事を作る、ということを目指しているようだ。

例えば、宗像に畑付きの古民家があり、誰も使ってないが、そこを拠点になにかやれないか、という話が飛び込む。そうかと思えば、もう80歳になるおばあさんがおでん屋さんをやっていて、そろそろ辞めたいが、誰か継いでくれる人はいないか、などという相談もある。言ってみれば事業承継だが、ここはそういう情報のハブになっている。

みんな東京に行くんですけど、実は福岡で働きたい人が潜在的にたくさんいるんです。なので、ぼくは福岡で働ける企業をたくさん用意しておくから、3年後ぐらいに帰って来いと、その時のための場所はここに作っておくから、という話はしています。で、結局それが、男でも女でも、ぼくの事業にもつながっていくんですよ。だから、今、そういう人たちを作ってる段階ですよね。みんなが活躍できるネットワークを作ろうとしている。ぼくだけじゃないんです。

コワーキングのスキームを使って、働く人たちのネットワークを作る。一見、ロマンティックに聞こえるが、地方都市の未来像をきちんと見据えて、そこから逆算し、4年後、3年後、2年後にはこうしておこうという用意周到さも併せ持つところなど、先日の「秘密基地」ともかなり共通する。そういえば、どちらも「基地」と名乗っているのは果たして偶然か。

ちなみに、「仕事基地」は、他府県のコワーキングとも提携して、6ヶ所の拠点を持つ。長崎県のツナグバサンカクもそのひとつだが、お互いに名前を貸し合うことで双方の利用者が行き来をしやすくしたかった、というのがその狙い。

今後もっとこのつながりを、特に地方で広げていきたいとのことだが、地方都市のコワーキングの連携は筆者もかねて力説していることであり、実はこのコワーキングツアーもその活動の一環でもあるので、いずれ大久保さんも参加してくれることと思う。

うちも最初は誰も来なかったんですけど、だんだん増えてきて。で、一年毎にユーザーが入れ替わる。脱皮してるみたいなものですね。利用者が固まってしまわないで、次にバトンタッチできていて、もう4世代目ですね。でも、めちゃめちゃチャレンジはしますよ、やっぱりね。ホント、小さい何かを積み重ねて、ひとつひとつ。いまもやってますけど、いろんなことにチャレンジしています。

コワーキングの方法論はそれこそ無限にある。しかし、その要諦は「まずやってみよう」だと思う。やってみてはじめて見えてくることがたくさんある。それをひとつずつ試してみる。そのうち、そのコミュニティならではの作法が生まれてくる。その上で、しかし、変化を恐れず育てていく、フレキシブルに姿と機能を変容させる器用さも必要だ。

「仕事を楽しむ人を増やす」というミッションを持つ「仕事基地」は、その素養がすでに備わっているスペースのひとつとして、今後も多くの卒業生を産んでいくことだろう。

(取材・テキスト / 伊藤富雄)

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天神仕事基地

〒810-0001 福岡県福岡市中央区天神3-15-1 にちりんビル3F

・中高生: 3時間/100円 6時間/200円 6時間以上/300円 1ヶ月使い放題/1,000円
・大学生: 3時間/200円 6時間/300円 6時間以上/500円 1ヶ月使い放題/2,000円
・一般: 3時間/500円 6時間/800円 6時間以上/1,000円

・大学生イベントスペース利用 3時間5,000円~
・中高生イベントスペース利用 3時間3,000円~
・一般イベントスペース利用 最安12,000円~

※会員登録や、LINE@で友だちになるとお得な料金設定もあります。

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伊藤富雄
Webビジネス・コンサルタント、コワーキング・エバンジェリスト。自らコワーカーとして業務遂行しつつ、コワーキングの啓蒙と普及に努める。2010年、日本で最初のコワーキングスペース「カフーツ」を神戸に開設。2012年、経産省認可法人「コワーキング協同組合」設立、代表理事就任。2014年「コワーキングマガジン」発行。2016年より「コワーキングツアー」を開始。著書に『グレイトフルデッドのビジネスレッスン#』(翔泳社:翻訳)など